葛藤を経てスタートした指導者人生大学まで素晴らしい仲間に恵まれサッカーを続けてきました。自然と「プロサッカー選手になりたい」と夢を抱きましたが、怪我や実力の問題があり、卒業後現役を続けるか悩みました。千葉県で教員をしながら高校生への指導を始めました。教員チームでプレーをしながら指導にあたる中で、指導の奥深さに開眼。海外で今まで培ってきたサッカー観を見つめ直す機会もあり、サッカーの素晴らしさを伝え続ける事を目指してプロサッカーコーチの道を志しました。選手の成長を阻害しないように、自問自答する尊敬する指導者は今までお世話になった方がたくさん思い浮かぶのですが、大学時代の恩師、教員チームやJリーグで出会った仲間から多くの影響を受けています。例えば、自分が本当に正しい指導をできているのか、常に自分を疑う眼を持つことを大切にしています。試合だけでなく練習中も映像を撮る理由は、半分は選手が自分自身の主観と客観の差、イメージ通りの動きができているかを確認するためですが、もう半分は自分の指導が大丈夫かを確認するためでもあります。余計な事をしていないか、選手の成長を阻害していないかを常に立ち止まって考えるようにしています。永遠にゴールは来ないですが、少しでも選手の役に立つ指導者になりたいという想いを持っています。主役は選手。選手の成長を手伝うのが指導者の役目あくまで主役は選手だと考えています。指導者の情熱や想いは当然大切ですが、それによって選手の成長が妨げられる事も少なからずあるのです。選手には自分自身で伸びていく力があります。指導者が成長の手伝いをするというスタンスを崩さないよう意識していますね。大切なポイント、幹となる部分は提示しますが、「その後は自分自身で枝葉を伸ばして花を咲かせてね。」という想いを日々伝えています。日々試行錯誤の連続で反省する事も多いのですが、周りの仲間から刺激を貰いながら選手にとってのベストは何か、常に考えているつもりです。"サッカーだけ" ではない、FC越後妻有の取り組みFC越後妻有に参画してから本当に日々が充実し、勉強させてもらっています。クラブについてお話する前に、2000年に始まった大地の芸術祭というアートフェスティバルについて触れておきます。大地の芸術祭は、世界最大級の国際芸術祭であり、「人間は自然に内包される」「アートを道しるべに里山を巡る旅」「生活芸術」などのコンセプトのもと、地域の末端にある想いにスポットライトを当てているアートイベントです。芸術祭の総合ディレクターである北川フラムさんが、地域活性を目的に2015年に女子サッカーチームを立ち上げた事をきっかけに、アート×サッカーの取り組みが始まりました。様々な方の支えがあり、2020年新潟県リーグ優勝、2022年北信越リーグ2部優勝、2023年北信越リーグ1部3位という結果を残してきました。トップカテゴリーを目指してチームを強化していく事ももちろん重要ですが、勝敗以外のスポーツの価値を大切にしていきたいです。FC越後妻有にはサッカー歴が長くない選手が多く、ここでサッカーを始めた選手もいます。多様なバックグラウンドを持つメンバーと作り上げるチームは、今までいたJリーグやなでしこリーグのクラブとは違った豊かさがあり、貴重な経験をさせてもらっていると感謝する日々です。また、越後妻有はコシヒカリの名産地でもあります。星峠の棚田を代表する豊かな美しい棚田がたくさん残されていますが、過疎高齢化が進み、代々受け継がれてきた農業の担い手不足という課題を抱えています。「まつだい棚田バンク」を通じて出資者を募り、選手たちが米づくりに取り組むという試みも積極的に行っています。選手たちの自発性が垣間見えた瞬間、冥利を感じる様々なレベルの選手がいますが、トップレベルで行われている戦術や取り組みを提示すると、その話に引き込まれ、自分自身のプレーと比較し、分析している選手たちの姿を見ると頼もしく感じます。彼女たちには自分自身で成長する力があると感じる瞬間です。「守備時のクロス対応の原則は?」「ビルドアップ時に4バックでプレーする時の注意点は?」「サイド起点からの3つのルートは?」などワールドカップの日本対ドイツ戦などトップレベルの試合を観ながら議論したりします。ピッチ内外でお互いに補完しあう姿も見られ、とても健全だと思います。選手を指導しているようで、教えられる事も多いです。クラブのビジョンに関しては、選手、スタッフ、NPOメンバーと一緒に作り上げていくものだと思っています。サッカーの部分で言うと、順調にカテゴリーを上げて結果が出てきているので当然期待はされると思いますが、チームの強化に軸を置きすぎると、失われていくものもあるので、バランスには注意したいです。地域の未来とFC越後妻有の未来を、一緒に進めて行く道をコツコツ探索していくつもりです。この地域には里山の原風景、温泉、美味しい食べ物・お酒、すべてが揃っているとても豊かな地域です。2024年は大地の芸術祭の本祭もありますし、ぜひ多くの人に実際に足を運んでもらいたいです。