
スペインでの四年間が自らの礎に。非日常の刺激を選手と一緒に堪能する。
「指導者としてのバックボーンがなかったのはある意味ラッキーで、何の先入観もなくスペインのサッカーを吸収できました。」指導者としてのベースをスペインで形成した佐枝さん。サッカーが国の文化として根付くスペインでの経験から得た、佐枝さんの指導軸を伺いました。
公開日時:2023年6月7日 10:44
取材日:2023/04/17
佐枝篤
名古屋グランパスU18 コーチ
1987年生まれ/愛知県出身 大学卒業後、教員としてサッカー部に携るも一年発起し退職しスペイン・バルセロナにサッカー指導者留学へ。約4年の滞在の中でスペインコーチングライセンスを取得し、現地街クラブで様々なカテゴリーの監督・コーチを歴任する。帰国してからは日本で街クラブ・Jクラブアカデミーで活動する。

指導者になった経緯とスペインに渡って得たもの
選手として元々能力が高かった訳ではないのですが、頭を使ってサッカーをする事、人と話す事が好きだったので、指導者は一番自分に合っていると思っていました。
指導者を職業として選択しましたが、当時の自分は高校サッカーにしか関わった経験がなかったので、自然な流れで体育大学に進学、保健体育の教員免許を取ってまずは教員になりました。
25歳でスペインに行きましたが、指導者としてのベースはまだない状態でした。指導者としてのバックボーンがなかったのはある意味ラッキーで、何の先入観もなくスペインのサッカーを吸収できました。自分なりの指導スタイルや、日本での指導スタイルが確立しているとストレスを感じたり、受け入れ難い部分もあったと思います。
日本人の良さを活かす事だったり、日本の文化というのはもちろん意識しますが、基本的なサッカーの見方や指導の軸はスペインでの4年間で作られたものです。その軸に今後、新しい理論や現場での経験を通じてアップデートしていくイメージを持っています。
国に文化としてサッカーが根付いている、そんな環境に身を置けた事自体が大きな経験になっています。

サッカーを非線形なものとして捉える
ペップグアルディオラが黄金期を作っていたバルセロナのポジショナルフットボールを軸にした指導方法を学校で習い、ライセンスを取得しました。近年日本でも構造化トレーニングという言葉が聞かれるようになってきましたが、僕が渡欧した当時(約10年前)から、トレーニング理論に関しては既に定着していました。
特に自分の軸として取り入れているのが、サッカーを切り分けて考えないという事です。難しい言葉で言うと、線形と非線形の違いです。線形とは要素をバラバラにしても再度足し上げる事で全体の結果は変わらない、非線形は要素に分解する事で全体像が見えなくなってしまうという事です。僕はサッカーを非線形なものと捉えているので、必要以上に要素分解する事は避けています。

環境によって意識する事は変わる
教員時代は、サッカーを教育のためのひとつのツールとして捉えている部分がありました。これは日本の教育現場の基本的な姿勢だと思いますが、スペインではサッカーを教育という枠にはめ込まず、エンターテインメントとして非日常を味わうものと位置付けていました。正解不正解はないと思いますが、自分はサッカーが与えてくれる非日常の刺激を選手と一緒に堪能していきたいと思っています。
高校の部活を見ていた時とアカデミーを見ている時の大きな違いは、より個人にフォーカスするようになった点です。どんなチームに行っても必要とされる選手を目指すとしたら、チームが機能する事だけにフォーカスしていてはダメなんです。個人主義のスペインであればそれでも勝手に選手たちは伸びていきますが、日本だとより強く個人を意識しなければなりません。
帰国直後は様々なやり方をトライしましたが、自分の中でジレンマも抱えていました。最近は、集団の中の個人に着目してどうやって次のステップに繋げていくのかに注力しています。選手にどのように話せば心に響くのか、次のアクションに繋がるのかは凄く意識していて、時と場所、話し方も気を付けています。

試合で得られる喜びと同じくらい、選手一人一人の成長も大切
レベルやカテゴリー関係なく、僕はピッチでゲームをしている時の非日常感が大好きです。選手と一緒に痺れるようなゲームをしている最中はもちろんですが、一方で試合に多く絡む機会のない選手の事も常に考えています。試合には11人しか出られないという制約の中、全員が満足する事はあり得ません。どんな選手にも、この人から多くの事を学んだな、と思ってもらえるような指導者でありたいと意識しています。
常に必要とされる人でありたい、そのために自分自身の価値を高めていき、自分にしかできないものを作っていきたいと思っています。指導者というのは、どこまでいっても選ばれる立場、批判される立場なので、なかなか自分が思っているようにキャリアを描くのが難しいですが、今目の前にいる選手にサッカーの魅力を伝えていく事が、次のステージに繋がっていくと信じて日々全力投球しています。育成に関わった選手たちが大人になってプロになったり、トップカテゴリーでプレーしている姿を見ている中で、自分もいつかトップカテゴリーで監督になりたい、という目標も掲げています。






