高校サッカー界の名将への憧れが、指導者を志したきっかけ知人の紹介で初めて指導現場に入った時に子どもたちがすごく可愛かったのもあり、大学卒業後、25歳くらいから指導者になりました。日本でいう全国少年サッカー大会のようなものが台湾にもあるのですが、その予選の際に日本人の指導者の方が台湾にいらしてたんです。その方が滝川第二高校やヴィッセル神戸でも指導されていた黒田和生先生という方で、私を指導者の道に本格的に導いてくださった私の尊敬する指導者の方です。黒田先生に憧れて指導者を始めたのですが、子供への接し方を背中で見せていただきました。子どもの気持ちを汲み取りながら人間性を育み、素直で真っ直ぐな一人間として育てていく姿を目の当たりにしました。その時に感じたのが、いつか日本で黒田先生から学んだことを実践したいということ。この出会いがあったからこそ、今自分は日本で指導できているのだと思っています。黒田先生には、頭が上がらないほどいろいろ叩き込んでもらいました。サッカーがお好きな方や関係者なら誰もが知っている小嶺忠敏先生も大きな影響を受けた指導者の方の一人です。実は、私が日本で初めて指導したのが長崎総科大附属高等学校なんです。二年間ほど、小嶺先生のもとにつかせていただきました。子どもたちにいかに人間性を教え込んで、彼らが育ってきた環境も汲み取りながら「どうすればこの子達が社会で羽ばたけるのか」と毎日考え込むお姿を見させていただき、すごく感化されました。小嶺先生のお姿や振る舞い、言葉使いを本当に学ばせていただきました。僕にとっての日本での指導における第一の師匠のような方なので、小嶺先生からはサッカーはもちろん、全てをやり切る姿を教えていただきました。子どもたちにとっての「憧れの存在」を、台湾でも。サッカーというものは不思議なスポーツで、ピッチに出るとみんながうまくなりたいという気持ちで笑顔でボールを蹴ったり楽しんでプレーするというのはどの国においても共通するものだと思っています。色んな世代を見させていただき、横浜FCのスクールからアカデミーの子はサッカーに熱中している子が大多数です。なぜサッカーに熱中できるのかなと思った時、他の指導者の方の素晴らしい熱量と、何より横浜FCのトップチームには昨季までは中村俊輔さんや得点王にもなられた小川航基選手などスタープレーヤーが多いのも特徴かなと思います。そういった素晴らしい指導者や選手を間近で見て、「自分もこうなるんだ」と思う子がたくさんいます。このような環境は、やはり台湾にも必要だなと。しかし、台湾と日本の子どもは見ている夢のスケールが違っていると思います。W杯での日本代表の活躍も本当に素晴らしく、ドイツもスペインも倒して世界でも名を広げられるほどの国になりました。一方台湾は、W杯予選までの国という状況なので世界で戦う自国の代表チームを子どもたちは見ていないんですよね。やはりこの部分は、代表指導者としても痛感している部分です。今の自分の経験が、選手にとっての正解とは限らない。しかしながら、台湾の子どもたちの背景と日本の子どもたちのサッカーをプレーする背景が違います。僕が見てきた日本での指導現場、いわゆる外の世界が台湾の選手たちの世界の正解とは限らないかなと思うんです。台湾の選手たちが思っている今のビジョンを、僕自身が知る必要があると感じています。自分が日本の指導現場で得た知識を分析した上で、台湾の選手たちの思いもしっかりと理解しないと代表チームという組織において、同じベクトルを向く一員にはなれないと思います。こういった考え方も、黒田先生の教えがあってこそだなと実感しています。指導者をやっていて良かったと感じるのは、サッカーを通して多くの方と繋がる機会を頂く瞬間です。サッカーを通して何かをしたい方々との出会いは色んな知見を僕に与えてくださっているので、サッカーには本当に感謝しています。サッカーを通して、日本と台湾の架け橋に。日本のサッカーの父であるデッドマールクラマーさんのことを黒田先生や小嶺先生からお聞かせいただき、黒田先生が台湾でまさにクラマーさんのようにサッカーの種を撒いておられ、クラマーさんの姿を見た小嶺先生は本気で目の前の子どもたちやサッカーと向き合っておられました。僕も、このお二方を見てプレッシャーを感じる部分ではありますが台湾でお二方のような思いを持った指導を通してサッカー文化を作っていかないといけないという使命感でいっぱいです。改めてこの機会に自国台湾でサッカーの種を撒いていかねばならないと痛感しました。現在、日本の高校サッカーや大学サッカーにも台湾の選手たちが挑戦しています。彼らも僕の息子たちのような存在ですので、そういった選手がこれからもどんどん増えていくように、サッカーを通して日本と台湾の架け橋になれるよう精進していきます。(写真下段左端が陳さん)