誰かの型にはめるのではなく、自身で作り上げた指導法-大賀さんが指導者を志された経緯は、どういったものだったのでしょうか?今年で59歳になるんですが、大学卒業後、保健体育の教員をしていました。部活動はサッカー部になることが少なかったのですが、50歳で早期退職して60歳になるまで地域の教育力を高めたいなと思いクラブ運営に専念することになりました。指導者としては教師がスタートだったのですが、学校の中でよく出てくる言葉である『教育現場』というものに着目して、「果たして教育現場と言うのは学校の中だけなのかな」「学校以外にも教育現場となる場所があるのではないかな」と思いラストの人生の時間をかけてみました。小学校五年生から、中高大とサッカーをやってきました。大学は日本体育大学だったのですが、田舎から上京して上手く通用しないなというのも感じながら、三年生でやっと試合に出れるかなと言う感じでした。苦しい思いも、喜びも体験できた素晴らしい時間だったなと思います。小中高大と色々な先生方にご指導いただきましたが、あまりサッカーを本格的に教えてもらった経験がなかったので、指導法には先入観がないんです。いいものは取り入れてためしてみて、よければ続けていくというように、型にはめられなかったのが良かったのかなと思います。子どもたちが大好きなサッカーを長く続けることができるように。-ご自身が指導者として大切にする想いを教えてください。今は目先の勝利のために指導するのではなく、これから先、選手として人として通用する人材を育成していく方が大事ではないかなと感じ、個人の技術に特化した練習を自分なりにやっています。-その指導者軸が形成されるに当たって、影響を受けた方はいるのでしょうか?子どもの進学のタイミングで、静岡学園の井田先生にお話を伺う機会があったんです。その時に練習を見させていただいたら、うちがやっている練習とほぼ変わりがないものをやっていたんです。井田先生にもそのお話をした時に、「リフティングも空中ドリブルしているのと一緒」とおっしゃっていたんです。それが自分の腑にも落ちて、自分がやっていることに間違いがないなと確信を得られた瞬間でした。中高で恩師にあたる先生というよりも、タイミングタイミングで出会う素晴らしい指導者の方々が恩師にあたるのかなと思います。出会うべきタイミングで出会わせていただいてきた人生なのかなと思います。-現在は、幅広い年代の方々にサッカーを指導されていると伺いました。シニアの方には、健康づくりの一環としてサッカーをできる機会を作っています。シニアの人たちは、試合前には「動けないからゆっくりやろう」と言うのですが、試合になると昔を思い出して思いっきりボールを蹴る方もいるんです。「言ってることと違うな〜(笑)」と言いながら試合が始まると自分たちが昔やってたサッカーをしてしまうんですね。それが面白いんですよ(笑)そんなに強いボール出しても誰も追いつけないよと思いますしね。小学生の頃に、一輪車に乗れるようになった子は大人になってもすぐに乗れると思うんです。我々も幼い頃に自転車の乗り方を教わって一回乗れるようになれば乗れますよね。サッカーも同じで、幼い頃に身につけた技術は、大人になっても必ず失うことはないと思っています。そういった意味で、小中学生のときにサッカーのベースになる技術や顔をあげて前を見るということを養ってあげたいなと思います。PNFCという肩甲骨周りを柔軟に動かすトレーニングやそのベースに来ている武術家の高岡英夫さんが提唱される体の動かし方や重心移動を子どもたちのトレーニングにも積極的に取り入れています。こういったものを子どもたちに身につけさせることで将来長くサッカーを続けることができる選手が増えると思っています。あとは培った技術を思うように操れる心が備われば、人としてもサッカー選手としても立派な選手になるのではないかなと思っています。“心の成長” こそがサッカー上達への近道-大賀さんが思う、サッカー上達に不可欠な要素は何でしょうか?サッカーが一番上手になる魔法の練習はないと思っています。一番手っ取り早いのは、心が育つこと。めんどくさいなと思うことを頑張ってできることであったり、心を強くできると自然に強いチームになっていくのだと思っています。小中学生の時期はたくさん失敗してもいい時期です。いつも子ども達に言うのは、「たくさん失敗しなさいよ」ということです。たくさんチャレンジして、試行錯誤して失敗する分には全く問題がないことです。むしろ、自分で自分の限界を決めてしまってトライできなくなるのはもったいないことだと思います。なかなか子どもたちって全てのことを一回でできるようにはならないので、達成感と自己肯定感を感じる瞬間を増やしてあげたいですね。その時にそれを冷やかしたり、足を引っ張るような言葉があるとチャレンジできなくなるし、そういうふうなことに気がつくような人になって欲しいという話はよくします。これは、サッカーの場面だけではないですよね。サッカーの場面以外でも試行錯誤する機会を作っています。例えば、野菜を作るために土をいじって耕して植えてみたりとか、地域のボランティアに出かけたりゴミ拾いをしたり。こういった活動をいっぱいやっています。その時に「今日すごく効率が良かったよね。なんでだろう?」「自然と役割が分担できたよね」「〜のこの声かけが良かったよね」というような振り返りを子どもたちと行うことで、サッカー以外の場面でできたことが必ずピッチの中でもできるようになると思っています。サッカー以外の場面でも必ずサッカーに通じる部分があると思ってそのような活動を行っています。大人の会合の中にも入れてみて、大人の中で意見を言う練習をさせてみたりもしています。「サッカーを通じて色々な人が繋がる文化を益田に作りたい」-大賀さんが "指導者冥利に尽きる" と感じる瞬間は、どんな時ですか?卒業した子たちって、いいことは報告するけども悪いことはなかなか報告したがらないですよね。進学先の先生方から、「試合に出て活躍しているよ」であったり「試合は出ていないけど、コツコツと頑張っているよ」というようなお話を耳にした時に嬉しいなと感じます。なかなか連絡できない子たちも次に進んだ大人がしっかりとみてくれているので、いい結果が出ることを願っています。もちろん全員にいい結果が出ることは難しい話ではあるのですが、教え子たちが頑張っている報告を受ける時が指導者として幸せな瞬間ですね。-最後に、これからの夢や目標をお聞かせください。今私がいるところ(島根県益田市)は人口が減っている地域なので、部活であったりクラブであったりお互いの存続が難しい状況になるのが事実です。ですが、サッカーを通じていろんな人やいろんな年代が繋がるといった文化を益田で作れればいいなという理想を掲げています。60歳を過ぎても理想を目指して今教えている子たちが親になった時の子どもたちやそのまた先の子どもたちが、「益田にはこういうチームがあるよ」というように受け継がれていくクラブにしていきたいなと思います。勝負の結果にはあまりこだわりたくはないのですが、”サッカーの価値” にはしっかりこだわって自分自身の軸もぶれないように指導者として続けていきたいなと思っています。