様々な分野のスペシャリストから学んだ、『脳と身体の繋がり』-指導を始められた経緯について教えてください。僕がサッカーコーチとして指導し始めたのは、実はここ3、4年くらいの話です。それまでは大学卒業時に理学療法士の資格を取得して整形外科の病院で勤務していましたので、ここが今の仕事につながるスタートラインですね。クラブチームラグビーで何度も日本一になっているチームのメディカルスタッフから指導者業はスタートして、そのチームのチーフトレーナーになる際にストレングスのポジションにおける人員が欠けていたので、サッカーで言うところのフィジカルコーチとしての役割も担うことになりました。その病院をやめた後にJリーガーのフィジカルコーチをスタートしたんですが、そこで「誰でもパフォーマンスは上がるんだな」という確信に至りました。現在は引退されているベテラン選手から、「頭と体がつながるとより良いパフォーマンスが出るんだよね」というお話をよく聞いていたのでパーソナルコーチを辞めて、サッカーの脳科学的な視点を知りたいがために脳梗塞の分野を学ぶ決意をしました。自費の診療施設に3年ほど勤務しながら学びを深め、メディカル・フィジカル・脳科学の分野の一流の方々と仕事をさせていただき、現在個人でパフォーマンスコーチとして活動しているという流れになります。-キャリア形成の中で大切にされている想いはございますか?一つのことを極めるといっても、ある程度できることは限られていますし時間も限られているので、僕の場合は一つの分野のスペシャリストと共にする時間を作っていくことで自分の仕事の柱を何本も立てていくというイメージでキャリアを形成しています。僕が本格的にサッカーをしていたのは高校まで(大学は勉強優先)というのもあり、奥深さを経験せずに競技としてプレーするのは辞めています。指導者としていろいろなことを実践していく中で必要なものを改めて吸収していくために、いろんな分野の専門的なことをやってきました。"ファンタジスタが見ている世界" を解明し、選手が想像するさらに上の世界へ-ご自身の指導に大きく影響を与えるものはありますか?やはり体を動かすのは脳であって、その中でも『人間が意思決定をする上で事前情報として必要なものは何か?』『どのようなタイミングで運動が行われるのか』という考えの元になる認知行動学は今の自分の指導に大きく影響している部分です。フットボーラーには、人間がそれぞれ持ち合わせている『思考の癖』『身体の癖』に加えて、『サッカーの癖』が存在します。この三つが掛け合わさった部分が『その選手特有のプレー』になるんです。こういったところを注意深く観察しながら、指導するようにはしています。選手のプレー分析に関しては、一瞬一瞬の動作分析で関節の角度や力の方向などをいろんなプレーから分析し、その選手の癖や特徴を紹介しているのが今Youtubeで解説しているものになります。-HPに記載されている "ファンタジスタが見ている世界を解明する" はどういった意図があるのでしょうか?僕が活動するにあたって、あくまで裏方であって僕が主役ではないと思っています。ただ、サッカーが発展していく中で、僕たちが魅了されてきたように現役の選手たちはプレーで魅せないといけないわけですよね。魅せるとはどういうことかというと、華やかなプレーはもちろんですが『僕たちが想像もできないようなプレーや想像以上の迫力』を目の当たりにすることだと思っています。そのような魅了する選手のことを ”ファンタジスタ” とHP上ではわかりやすく定義しているのですが、”人々の想像を超えるようなプレーをする選手たちを生み出したい” という想いを『ファンタジスタが見ている世界を解明する』というメッセージに込めています。-"ファンタジスタ"としての選手が成長するために、どのようなサポートや指導が必要だと考えますか?そのためには、選手それぞれの特徴であったり癖をしっかりと引き出してあげて、彼ら彼女たちが想像するさらに先の世界を見せてあげられるような環境を作っていくというのが僕の仕事かなと思いますね。フィジカルやメディカル部門の先駆者の方々が積み上げてきたものを基準として、フットボールに関わる全ての部門からフットボールを追求していけたらいいなと思っています。理学療法士として追求した脳科学を用いた、”サニトレ"-脳梗塞のリハビリにおける取り組みを通じて得た、気づきはどのようなものですか?僕の場合、脳梗塞のリハビリを通して3年間しっかり時間を費やしてきたので、それでもまだ時間が足りないと思いながら手足が動かせなくなった人に対して半年かけて動かすようにできたり、脳に対するリハビリに関わってきました。この分野は教科書を読んでできることではなく、脳に関して解明されてないことも多いです。なので、今自分が行なっている脳科学の正しい知識を活用した指導は誰にでもできるものではないと感じています。僕が今やっているサニトレに関しては、”独自” という文言を使われていることが多いんですけど、決してそうではなく、今までの研究や先駆者の方が残してきたデータをベースにして作っているんです。-効果的なトレーニングを提供するために、何か特別なアプローチや工夫をされているのでしょうか?日本の学校やトレーニング環境に器具が揃っていないことが多いので、特別な道具を使わないトレーニングも多いですね。環境を提供するのが大人の役割であると思うんですけど、環境を理由に成長できないのは良くないと思うので、自分でできるようにデザインしたトレーニングになっています。これをやってもらえれば、勝手に本来の身体の動かし方を身につけることができますよという感じですね。-育成年代とプロの選手の間で、トレーニングにおける違いはありますか?基本的には教えているところは大きく変わらないです。もちろんプロであってもベースの使い方が整っていなかればそのトレーニングに長い時間を費やしますし、そこから実践的なスキルの習得に向けてトレーニングしていくことが多いです。育成年代の選手たちは二年後、三年後を見据えてトレーニングを積むんですが、プロの場合はその場で解決しないといけない課題が多くなります。相談しながら、緊急的にトレーニングを積むことが育成年代とプロの選手たちの大きな違いですね。-指導において何を大切にされていますか?カテゴリーに関わらず、選手たちの持っているリソースをどれだけ最大化していくかということが大事になっています。ただ、カテゴリーが下がれば下がるほど ”トレーニングのキャッチーさ” は大切になってきます。1セッションごと、1メニューごとに彼らの心を鷲掴みにしないといけないので、その工夫は大事にしています。例えば、「トップ選手はこうやってるんだよ」というのを一発で見せることですね。ボール奪取をテーマにしたものだったら、カンテはこういうパターンでボールを取るんだよというものを僕自身が大人相手にガツンと実演することで、想像したり憧れたりする瞬間を一瞬で作ることをトレーニングのキーにしています。逆に大人になればなるほどキャッチーさは不必要なものにもなり得るとも思っています。ただトレーニングにはしっかりとした根拠と説得力を持たせる必要があるので、僕自身も今年10年ぶりに現役復帰して自分でもボールを蹴っているところです。 %3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FmfwbwP1ytDc%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E日本にフットボール文化が根付くために、指導者がすべきこと-指導者として、子どもたちやプロの選手とのコミュニケーションにおいて重要だと感じる点は何ですか?僕が小学生の頃教わっていたボランティアコーチのような指導者やプロの指導者まで、サッカー指導者の中でもいろいろな方がおられますが、僕がこういった経歴を持たせていただいている中で「僕自身もプロの選手たちとサッカーがしたい」「一緒に上手くなりたい」と思ってやっているんです。やっぱり子どもたちに対しても同じ目線で上手くなりたい、知りたいという気持ちを指導者の皆さんが持つことが一番かなと思います。サッカーって面白いもので、みなさんも週末球を蹴ることに時間を費やすほど楽しいものなので、”教えるというものではない” と感じています。指導者が楽しむと子どもたちも楽しんでサッカーできると思うので。-指導者としての喜びや充実感に繋がると感じる瞬間はありますか?友達のように接するプロの選手たちが楽しそうにプレーしているのを見ると、自分自身も楽しい気持ちになりますし、自分を肯定できたりする瞬間に楽しみを感じるのだと思います。僕が指導していない一瞬の間に、選手たちが僕のトレーニングや教えたことをやり始めたりする自己創発的な行動を目の当たりにすると、指導って面白いな〜と感じますね。その場はある意味カオスになっているんですけど。(笑)ただ、そのカオスが生まれるような秩序がなくなってるのは、みんな何かに夢中になっているからだと思います。そういう瞬間を生み出せた時は幸せです。-今後の夢や目標について教えてください。今後の目標としては、次の男子のW杯でサポート選手が出場していることですね。女子選手はオリンピックにも出場させてもらえたので。自分ができなかったことを選手を通じてさせてもらえるというのは指導者のありがたさではあるので、トップの目標をできるだけ早く達成したいなと思います。-日本におけるサッカー文化の発展についてどのようにお考えですか?過去スペインやブラジルに行ったことがあるのですが、フットボールが文化になっている国でした。日本はいろんな娯楽があって楽しい国ではあると思うのですが、ボール一つで誰とでも友達になれるサッカーという原始的な娯楽が日本でもコミュニケーションツールになってくれれば嬉しいなという思いです。芝のグラウンドやトレーニング施設の増加など日本サッカーに必要なものはこういった環境だけだと思っているので、なかなか難しいことですがみなさんと一緒に進めていけたらなと思います。