指導者になりたかったのではなく、競技の価値を広めたかった-東京ヴェルディBS、日本代表。現役ビーチサッカー選手として高いレベルでプレーされている中で、指導者として活動しようと思ったきっかけを教えてください。正直に言うと、ずっと指導者になりたいと思っていたわけではないんです。今やっているビーチサッカーという競技は、まだまだマイナーで、認知度も高くありません。その中で、この競技にどう価値をつけていくかを考えた時に、やっぱり普及や育成に力を入れないといけないと思いました。ビーチサッカーの価値を広めていく中で、自然と指導者という役割が最適だと考え、『DELTA茅ヶ崎ビーチサッカー教室』としてスクールを立ち上げたんです。-実際に子どもたちへ指導する中で、選手として感じるビーチサッカーとは違う発見はありましたか?「サッカーはやったことがある、でもビーチサッカーはやったことがない」そんな子がほとんどです。ただ、教えていて感じるのは、ビーチサッカーにはサッカーにつながる要素がたくさんあるということ。砂が深くて、裸足でプレーするので、軸足がぶれやすい。でも、その中でぶれないようになっていくことで、体幹やバランス力が自然と鍛えられていきます。ビーチサッカーという、サッカーとはまた少し違う競技を楽しみながら、結果的にサッカーの成長にもつなげてほしいと思っています。「愛される人間になれ」指導者から受け継いだ人間力-田中さん自身がこれまで出会ってきた指導者から、特に影響を受けた出来事やエピソードがあれば教えてください。横浜F・マリノス追浜時代や関東第一高校時代の監督を含めて、本当に素晴らしい指導者の方々に巡り合えたと思っています。今振り返ると、一貫して言われていたのは「人間としてどうあるべきか」という部分。人間力、人としての部分は本当に厳しいぐらい言われてきました。当時は「そんなに言う必要ある?」と思うこともありました。でも、社会人になって大人になった今、その教えがすごく生きていると感じています。だからこそ、自分が指導者として子どもたちに伝えられることも多いと思っています。-田中さんにとって、人間力とは具体的にどのようなものなのでしょうか?僕がよく言っているのは、「愛される人間になりましょう」ということです。高校時代の監督が「いい人間でいなさい」「明るくいなさい」「前向きでいなさい」と、しつこいぐらい言ってくれていました。今になって、スクールを運営しながら競技を続けていると、人として愛されることがどれだけ大事かを本当に実感しています。挨拶だったり、人に対する態度だったり、そういう細かい部分で愛されるかどうかは決まってくると思います。だから、子どもたちにもそういうところはすごく伝えています。努力は夢中に勝てない。ビーチサッカーで育む楽しさと創造性-指導者として大切にしている軸を教えてください。人間力もそうですが、もう一つ大切にしているのは「楽しんでやれるか」ということです。僕は「努力は夢中に勝てない」という言葉が本当にその通りだと思っています。やらされている努力は、いつか限界が来ると思うんです。でも、本当に楽しんでいて、気づいたら時間が経っていたという状態が一番成長できる。サッカーは年代やレベルが上がるにつれて、どうしても「楽しむ」ことから少し離れてしまうことがあります。だからこそ、ビーチサッカーがその感覚を取り戻せる場所になれたらいいなと思っています。-子どもたちに楽しさを感じてもらうために、練習ではどんな工夫をされていますか?ビーチサッカーには、オーバーヘッドやボレーシュートのようなアクロバティックな技術があります。サッカーではなかなか「オーバーヘッドの練習をしよう」とはならないと思いますが、ビーチサッカーではそういう普段と違う動きやチャレンジングなプレーに取り組める。子どもたちにとって、それはすごくリフレッシュになると思います。まずは「楽しい」と感じてもらうことが大事ですし、声かけもなるべくポジティブに、プラスになるような言葉を意識しています。-砂浜という環境だからこそ、子どもたちに身につく力もありそうですね。ビーチサッカーでは、ボールがちゃんと転がってきません。急に止まるし、急に跳ねる。その中でプレーを選ばないといけないんです。目の前でボールが跳ねた時に、次にどんなプレーをするのか。止まった時に、どう判断するのか。子どもたちは一回一回考えて、決断してプレーします。そういう予測できない環境があるからこそ、創造力が生まれると思っています。ボールが浮いたらシャペウでかわしてみるとか、そういう発想がサッカーの中でも生きてくる。プレーの幅を広げる意味でも、ビーチサッカーはサッカーにつながるものが多いです。茅ヶ崎から日本中へ。ビーチサッカーを文化にする挑戦-指導者として「やっていてよかった」と感じる瞬間はどんな時ですか?やっぱり、子どもたちの変化を感じる時が一番嬉しいです。最初は内気で、なかなかチャレンジできなかった子が、少しずつ自分をオープンにしていく。教えたプレーに挑戦したり、自発的に何かをやろうとしたり、変わっていく姿を見ると、指導者ってこういうところが嬉しいんだなと感じます。-スクールの外でもビーチサッカーが子どもたちの日常に入っていくことも、喜びの一つなのでしょうか?それはすごく嬉しいです。例えば、スクールが始まる前に「お父さんとお母さんと海でビーチサッカーをやったんだよ」とか、「友達と一緒にやったんだよ」と言ってくれることがあります。子どもたちの人生の中にビーチサッカーという競技が入っていく。それを感じられる瞬間は、指導をやっていてよかったと思えます。-今後選手として、そして指導者として、描く未来を教えてください。まずは地元の茅ヶ崎で、ビーチサッカーが文化というか、日常になるように取り組んでいきたいです。その先には、茅ヶ崎を越えて、日本中で当たり前のようにビーチサッカーをしている光景を作りたいと思っています。自分自身も競技を続けながら、ビーチサッカーの普及に引き続き力を入れていきたいです。