“選手として” から “レフェリー" として。Jリーグの舞台を目指して走り出した学生時代元々は選手としてJリーグの舞台に立つことを目指していました。サッカーを始めた小学校一年生くらいの頃から、Jリーグが始まって「自分もJリーグの舞台で活躍したい」という夢を持って小学校、中学校でサッカーをしていました。高校生になった時に、今まで出会わなかった上手な友達に出会ったことで「自分はサッカー選手にはなれないんじゃないかな」と思ったんです。その時に、審判資格を持ち高校の先生としても教鞭を取られていた廣嶋先生に出会うことになります。廣嶋先生はJリーグ発足と同時にJリーグ担当審判員になりW杯を目指されていたので(後に2006年ドイツW杯に副審として出場)、身近にそういった方がいたのが本格的に審判を志すきっかけにもなりました。自分もそういった形でJリーグやW杯を目指したいなという思いになったのがレフェリー人生を歩み出したきっかけです。自分が高校生の時に顧問の先生が組んでくださった練習試合の会場でも廣嶋先生に「自分も将来レフェリーとしてJリーグを目指します。」ということをご挨拶させていただきました。その時、廣嶋先生からは「そうか、それは頑張ったらええ。ただ高校生のうちは、しっかりサッカーをプレーヤーとして頑張りなさい。審判はプレーヤーの気持ちを理解することが大切だからね。大学に行ったら本格的に審判活動をしていけばいいんじゃない。」とアドバイスをいただきました。そこから大学は、九州の大分大学に進学しました。自分の中では、大学に入ってからは本格的にレフェリー活動をするという気持ちでした。レフェリーとして土日に試合を担当して経験を積みたいという思いから、部活動に入ることはなかなか難しいだろうなと思っていました。プレーは好きなのでサッカーサークルに入って楽しんでいたんですが、教育学部でサッカー部キャプテンの先輩に部活動の練習に誘っていただき、平日は部活動の練習を、土日はレフェリー活動をするような大学生活を過ごすことになったんです。そうして、少しずつ自分のレフェリーとしての経験を積んでいき、2014年 一つの目標でもあったJリーグ担当審判員に登録していただけました。選手の安全を守り、スムーズな試合運びを行うのがレフェリーの役目僕は常にベストを尽くすことを心がけています。レフェリーをする上で大切にしたいことは数多くありますが、”スムーズに試合を進めるための的確なジャッジをする” ことに尽きるかなと思っています。アドバンテージで流して欲しい時にレフェリーが止めてしまうだとか、選手とファールの基準がマッチしないだとかは誰も気持ちよくないと思います。フィジカルスポーツである以上、サッカーには怪我も伴ってくるという点では “選手が怪我しない安心安全を保証する” ことも心がけているものの一つです。ただ自分は副審なので主審が見えない部分でのファールサポートはできるのですが、基本的には主審がゲームをコントロールするので、オフサイドのジャッジが一番求められているところです。オフサイドのジャッジはサッカーの一番の醍醐味でもある得点に直結する判断となるので、常に正しいジャッジを心がけます。選手とのコミュニケーションもレフェリーには大事だと思います。ただそういった機会がなければ必要ないと思いますし、選手・ベンチ・チームの皆さんが受け入れてくれているのであれば、こっちからの余計なコミュニケーションはしたくないと思います。サッカーにおける縁の下の力持ちというか、いなければいない存在でいいと認識しているので。試合やお互いのチームにおいて上手くコントロールできなくなった時に、レフェリーがどのようにコントロールするかが重要です。選手が納得いっていない時やストレスが溜まっていると判断した時に、短い言葉で説明したり声をかけたりすることで次のプレーに気持ちを移してもらう。そして試合が終わった時に、お互いをねぎらい合うことができれば一番良い形なんじゃないかなと思いますね。VAR導入が主流になる中、レフェリングにおいて変わったものと変わらないもの。2022年 カタールW杯では、セミオートオフサイドテクノロジー(半自動オフサイド判定システム)が導入されていました。これはテクノロジーを参考材料にして最後は主審が決める、という意味での半自動という文言だと理解しています。VARによってPK・オフサイド・ゴールの判定が変わってきますが、生身のレフェリーが常に正しいジャッジをし続けることができればVARを発動することはないと思っています。正しいジャッジができれば試合はスムーズに進んでいきますしね。一方でVARになると、試合の流れもスムーズではなくなってしまいますよね。これは、サッカーの特徴であるリズムが崩れてくることになります。こういった点から、オンザフィールドの審判員四人の的確なジャッジとスムーズな試合コントロールは忘れてはいけない部分です。カタールW杯の開幕戦 カタールvsエクアドルの試合ではいきなりVARによって試合が大きく左右されました。どうしても人間の目では判断できない死角や複雑なケースが出てきたとしても、テクノロジーの力によって、的確な判断が下されるようになってきました。JリーグにもVARが導入されて、自分が下したオフサイドやPKの判定が覆されたこともありました。その当時は、「自分自身の判定が間違っていた」というマイナス要素を強く感じていました。しかしマイナス要素に感じているのは自分だけで、選手やチーム、サポーターは最終的に正しい判定を求めていることに気付いたんです。最終的に正しいジャッジを下せる力が、近年のサッカーにおけるレフェリングで大事な要素になってきました。もちろん、VARが使用されるのはトップカテゴリーの試合のみで、多くの試合においてやることはこれまでと変わらず、現場の審判団4人の目で判定する、その力を向上させることが重要です。日本代表 三笘選手のギリギリのプレーもそうですが、2022年 カタールW杯でVARやレフェリーに興味を持っていただけたことは、レフェリーやジャッジに注目してもらえる大きなきっかけになったのではないかなと思いました。目指すは、世界最高の舞台W杯。自分が見たことのない景色を体感したい。トッププレーヤーを間近で感じ、一緒に試合を作っていける一員として活動させていただいているのはレフェリーの魅力であり、本当に幸せです。2022年の夏に行われたパリサンジェルマンと川崎フロンターレの試合で、副審を担当させていただいたんですがメッシ選手やエムバペ選手を目の前にした時に「世界トップだな」と感じることができました。こういった試合に携わらせていただけるのもレフェリー冥利に尽きるという思いで、本当に幸せです。その分、選手たちの真剣勝負の場であることには変わりないので批判を受けることも当然あります。しかしそれ以上の楽しみの部分が大きいので、充実した時間を過ごさせていただいています。審判は、どの年代、どのカテゴリーを担当しても、1試合であることに変わりはありません。与えられた試合を、精一杯 ベストを尽くして担当させていただくことが大事だなと思います。その先に、自分が審判を目指すきっかけにもなったW杯への出場を目指しています。2022年 カタールW杯を見ていてより一層その夢に対する思いは強くなりました。自分が見たことのない景色、人々に勇気や感動を与えるW杯を体感してみたいです。2026年のW杯の舞台に立つことを目標にして、ここからさらにレベルアップしていきたいと思います。