指導者の質が選手やチームの質になる僕は千葉出身で、大学は東海大学に進学しました。サッカーは高校時代にプレーヤーとしては引退しています。東海大学に行った時に、高校時代の恩師から「大学でサッカーやらないんだったら、母校の指導者をやりなさい」と声をかけていただき、当時住んでいた神奈川から毎週通いという形で本格的に指導者としての活動を始めました。最初は恩師からの誘いに断りきれず始めた部分も少なからずあったと思いますが、だんだん楽しくなってきて、大学卒業後も指導者を続けていこうと思えました。そこからご縁あって北海道の旭川実業高校に勤めさせていただくことになり、22歳の時に半月ほどバルセロナで指導者として勉強させていただくことになったんです。 「オラ」「グラシアス」しかわからないほど言語もままならない状態でしたが、スペインのサッカー文化を目の当たりにして日本に帰国し、そこから5年くらいは北海道で指導を続けました。しかし27歳になったとき、ふと急に「この歳だったら、まだまだ学びたいな」と思い、本格的に日本を出てバルセロナに行く決意をしました。自分が指導する立場になるまでプレーヤーだったからこそ、指導者になってからは伝え方が難しかったですし、旭川実業でお世話になった監督から指導者としての振る舞い方など多くのことを学ばせていただき、自分の中の指導者像が180度変わりましたね。その方は自分の恩師ともいうべき指導者の方です。「指導者の質が選手の質だったりチームの質になるんだ」というのを言われてから、その言葉は今も大切に持ち続けています。選手もチームも指導者自身で変わるということを教えていただきました。選手との対話の中から、答えを導き出す指導を心がけるスペインに行ってわかったことは、指導者も選手も自己主張し合える関係が良いということです。日本では選手は指導者に従うというか、どうしても立場のようなものがそこに存在していると感じています。しかし日本の外に出てみて、年齢関わらず選手は指導者に感じたことを素直に表現するし、指導者も選手に強制するのではなく対話の中から納得へ持っていく方法がよくみられます。こういったディスカッションが、選手と指導者の関係性を構築する上で非常に重要なことなんだと学びましたね。僕はチームの指導と合わせて選手の個人分析もさせてもらっているので、選手の試合の映像を切り取って、選手とディスカッションしたり、プロの映像を見せて同じようなシーンを分析したりします。そこでは「なぜこのプロの選手が同じようなシチュエーションでこのプレーを選択したのか」映像を用いて選手に納得させる方法をとっています。 トレーニング前にはバルセロナの試合結果やプライベートの話など、フランクな会話で信頼を作っていくことも心がけているポイントの一つです。私が今所属しているAE Pratはバルセロナの街クラブです。私がこのチームに入った時の監督はUEFAライセンスの講師をしていたり、ダニ・オルモ選手やマルク・ロカ選手などスペインの名プレーヤーたちを育成年代から指導してきたような方なんです。論理的で、建設的なコミュニケーションを駆使して選手たちを指導する方ですが熱意ももった熱い方です。この方の間近で指導させていただけた時間は、かけがえのない時間となりました。2023年の3月に急遽AE Pratの監督を辞めちゃったんですけど、サイドからのクロスの際にDFがすべきステップの踏み方や、クリア後 DFラインを上げる際のステップの踏み方や体の向きなど、とても細かくて個人的にはそういった指導する際の目付けもすごく興味深いものでした。スペインの指導現場で感じた、”幼少期からの積み重ねの重要性”緊迫した試合が僕の中ではすごく面白くて、10対0の圧勝よりも1点を争う緊迫した試合で選手たちが踊るようなプレーをしているのを見るのが好きですね。選手たちが楽しそうにプレーしながらもインテンシティも高く、なおかつ知性や理性を保っている。こういった選手の活動を見るときに、やっぱり指導者って楽しいなというのは感じます。僕も高校までサッカーをしてたんですが、そこまでレベルが高いところでやってなかったので、海外でのサッカー留学というのもあまり頭にはなかった選手時代でした。スペインにサッカー留学に来る日本人の子たちのサポートもしている中で、日本サッカーとの強度の違いや、サッカーIQの養い方などを育成年代のうちに学ぶことができるのはプレーヤーとして高みを目指す彼らにとっては本当に貴重な時間だと思っています。「日本人の選手はテクニカルでうまい」というのはスペインの監督や選手からもよく言われます。その反面、「もっとこういう時にこういうポジショニングをとってほしい」といったような戦術的なことはこっちの指導者や選手からの要求としてある部分です。サッカー大国 スペインの方から見てもかなり技術の高い日本人選手がさらに飛躍するために、こういった戦術的な部分を早い年代のうちから学んでいけると、日本人選手としてのプレーの幅も格段に広がると僕は思っています。こっちの選手たちは8歳ほどの年齢から、トレーニングで数的優位の作り方なども取り入れてプレーしています。そういった意味でも、小さい時の積み重ねというのはサッカー選手としてより高いレベルを目指すのであれば、すごい大事なのかなというのはスペインのサッカーを見て感じました。日本人選手の良さ、日本サッカーの更なるレベルアップのために。ありがたいことにBalonQというサッカー留学をサポートする会社で働かせていただいているので、日本人選手や日本のチームを見る機会も多いです。日本の記事を読んでいると、「欧州では認知判断のないトレーニングを行わない」というのをよく目にします。反対に、「日本では認知・判断を伴わない練習を行うことがよくある」という報道を見たりします。しかし日本人選手のテクニカルな部分を見ると、それも無駄ではないのかなと感じることもあるんです。南野選手や本田圭佑選手、堂安選手が欧州で活躍しているのも見ると、必ずしも日本のトレーニング方法が間違っているというわけではないのかなと。個人的な見解ですがバルセロナで言えばグラウンドが1時間半もしくは1時間15分しか使えないというのもあり、日本のように十分な練習時間が確保されていないことがほとんどです。限られた時間の中で、技術に特化した練習よりもゲーム中の認知や判断を養うことに重きを置いています。日本の場合は練習時間がしっかり確保されているので、テクニカルの部分を中心的に行う練習もトレーニングに取り入れることが可能です。スペイン、日本の練習方法のどちらが良いか悪いかではなく、その国や文化、人種に合う練習方法も当然あると思います。僕がスペインの指導現場で感じてきた、「日本の指導現場でも、もっとこういうポイントを取り入れたらいいのにな」と感じたものを日本人選手たちにも学んで日本に帰って欲しいですし、スペインでの経験を全て鵜呑みにするのではなく、日本のピッチでうまく活用してもらえると嬉しいなと思っています。それぞれの国のお互いの良いところを探していくのが、日本人の僕がスペインの指導現場に関わる理由でもありますね。スペインは国としてすごく面白くて食べ物も美味しいし天気もいい所なんですが、やっぱり僕 は日本人なので、将来はスペインで培った経験や知見を日本のために、日本人選手のために還元できたらいいなと思っています。