プロを目指した学生時代。恩師との出会いが指導者人生のスタートを後押ししてくれた。僕には中学生頃まで、プロサッカー選手になりたいという夢がありました。しかし熊本県の大津高校に進学後、周りのチームメイトのレベルの高さに「自分はプロになれないかもしれない」という気持ちを抱いたんです。でも、サッカーには携わっていきたいという思いもありました。そんな中、当時大津高校でGKコーチをしていた澤村公康さんと出会って澤村さんのキーパースクールにもついて行くようになり、指導者の道を志そうと決意しました。これが指導者人生のスタートになりましたね。サッカーもGKも大好きだったので、そんな中での人との出会いが僕の夢をはっきりさせてくれました。僕のとっての澤村さんは、間違いなく影響を受けた指導者の方ですし、この道を志すきっかけになった方です。サッカーはもちろんですが、『人としてどうあるべきか』を教えてもらいました。さらに、GKの技術面でも澤村さんと出会い、『楽しくゴールを守る方法』も実感させてもらえたんです。人間的、サッカー的に大きな影響を受けましたね。カテゴリー問わず、目の前の選手たちに結果を追い求め、全力で向き合う柏レイソルでは中村航輔、キムスンギュという二人の代表クラスのGKを指導する貴重な経験をさせてもらえました。もちろん彼らだけではなく、目の前の選手一人一人に真摯に向き合うことは今も大切にしています。それはどんなことを考えて、どんなことに取り組もうとしているのかよく観察したり、想像したりすることですね。ピッチ内でもピッチ外でも彼らにしっかり向き合う指導は自分の軸になっています。トップチームを指導する前はアカデミーでも指導させていただきましたが、教える年代やカテゴリーに関わらずこれはずっと持ち続けてきたものです。2018年の夏頃に柏レイソルのトップチームコーチになりました。そこから4年半ほどになるのですが、その中で感じるのはアカデミーの指導者時代と大きく変わることはないなということです。トップチームとなるともちろん、目の前の結果がさらに重要になってきてその結果をとるためにチーム一丸となって準備して行くことになります。一方で、アカデミーは週末の結果というよりも選手個々人の将来の結果と言いますか、彼らが望んでいる姿や成長成長などトップチームとはまた違った “結果” を追い求めます。それぞれのカテゴリーで目指す結果は違いますが、僕が毎日取り組むことに変わりはないですね。一人一人と向き合って、一回一回の練習に自分の持つものを最大限発揮して全力で向き合っていく。僕がどのカテゴリー、チームでも一貫して大切に持っているものです。(写真左から井上敬太GKコーチ、井原正巳ヘッドコーチ)(写真左から、井上敬太GKコーチ・キムスンギュ選手)選手たちと大好きなGKについて語る時間が、指導者をしていて一番幸せな瞬間選手たちと、GKについて話をする時間が一番好きですね。ストレッチしながら、「今日の練習こうだったよね」「先週末こうだったよね」という話を一方通行ではなく選手の考えを聞きながら、選手からの意見も聞きながらコミュニケーションを取る時間はすごく幸せに感じる瞬間です。僕も、選手たちもサッカーやGKが大好きなのでお互いの好きなことをニコニコしながら話し合う時間はいいですよね。このような楽しい時間も過ごしながら、選手たちは競争しないといけません。一方で、協力しないと練習が成り立たない。競争と協力のバランスはGKチームで特に大切にしています。なんとなく好きなものが同じ友達でもないですし、このバランスをしっかり保ってお互いの関係性が曖昧にならないようにすることも大事ですね。互いが高め合うライバルとして、心を込めてお互いがいい練習ができるようにしていこうねと話しています。もちろん目の前の試合に勝った瞬間も嬉しいです。今は僕はレイソルのコーチ、GKたちは選手という関係性ですが僕が仮にレイソルのコーチではなくなってしまっても友人のひとりとして選手たちとはいい関係でいたいなと思います。この前も、教え子から「サッカーを辞めて、就職します」という電話ももらったりもしました。以前指導していた選手からそういった連絡が来るのも僕にとって嬉しい出来事です。(写真左から上島拓巳選手、細谷真大選手、井上敬太GKコーチ、高橋祐治選手)「GKへのリスペクトの大切さを伝え、GKを取り巻く環境をよりよいものにしたい」僕にはJリーグという舞台で指導させていただいているGK指導者として、これからの日本サッカー界におけるGKを取り巻く環境をより良くしていきたいという思いがあります。GKというのは1つのミスが失点につながってしまい、批判や批評が多いポジション。そんな中、幼少期から名前ではなく「おいGK、〜しろよ!」「GK今の取れただろ!」というような、名前ではなくポジションで呼ばれているというような現場も多く見てきました。今でも見たり聞いたりする場面なのでこういったものを減らしていくこと、GKへのリスペクトを日本サッカー全体で変えていかなければいけないと強く感じています。GKへの最大限のリスペクトの積み重ねが、Jリーグなどの大きな舞台での結果につながってくるのではないかなと。指導者の方や親御さん、ファン・サポーターの方々にはもっとGKを見る目を温かいものにしてほしいなと思いますね。GKの人口が増えれば増えるほど、レベルの高い選手たちが出てくる可能性も十分にあります。中村航輔がレイソルのゴールマウスを守っている時、セレクションを受けにきた選手たちが「レイソルで中村航輔選手みたいな選手に自分もなりたい」と口々に話していました。サッカースクールに見に行っても、「中村航輔だ〜」と言いながらセービングしている子どもたちもいました。こういった光景を見るとすごく嬉しくなりますし、子どもたちに夢を与えて子どもたちが憧れる選手たちがこれからどんどん出てくるのも楽しみです。レイソルファミリーに、さまざまな価値を提供できる一年に。小学生や中学生といった下の年代の選手たちを指導するのも、僕は大好きです。50、60歳になってもGKが大好きですし、自分がいくつになってもGKを指導していたいなという気持ちはありますね。レイソルでは、今季 2023シーズンに所属してくれる全ての選手たちとレイソルのファン・サポーターの皆さんはじめレイソルファミリーの方々に一つでも多くの勝利という『勝ち』と「レイソルを見にきてよかったな」と思える『価値』を提供できるように日々の練習からも一生懸命取り組んでいくという思いです。レイソルでの目の前の仕事に全力で取り組み、日本サッカー全体のGKの価値を高めていけたらなと思います。(写真左から李昌源サポートコーチ、佐々木雅士選手、猿田遥己選手、松本健太選手、守田達弥選手、井上敬太GKコーチ)