スペインのライセンス制度に興味を持ち、22歳で渡西今36歳なのですが、スペインに渡ってもう13年になります。大学を卒業した後にスペインに渡って独学に近い形でスペイン語を学び、こっちに来て3年目の時から指導者を始めています。スペインのコーチングライセンスに興味を持ったのが、スペインに渡った一番最初のきっかけでした。僕はびわこ成蹊スポーツ大学という体育大学を卒業して、高校の先生になる免許カリキュラムも取っていました。実際に教育実習も行って、学校の先生になろうという考えも持ってたんですが、やっぱり自分はサッカーの指導者がしたいなという思いになりました。高校生までサッカーも続けてたんですが、自分の憧れが強かった指導者という職業だけで日本で生きていくことがイメージできなかったんです。「それだったら若いうちに外の世界を見ておこう」という思いと、より質の高い指導者としての経験を得たいということでスペインに渡りました。当時はまだ若かったということもあり、「とりあえず行ったらなんとかなるでしょ」という感じで。(笑)スペインのコーチングライセンスを調べていると、選手としての経歴よりも指導者としての経歴を重視することがわかったんです。日本ではプロ経験のない自分が30代でもS級を取ることは難しいだろうと思っていたので、日本で指導者として生き続けるという未来が見えなかったですね。そしてスペインが国籍関係なく、ライセンスをとってしっかり指導者として評価してもらえる国だということも大きな決め手になりました。スペインに来て学んだ、”1シーズンを戦い抜くチーム作り”大学生になってからは社会人サッカーを遊び感覚でやっていただけで、競技としては高校生で一区切りつけた形です。高校生の頃は、選手権予選の1、2回戦で負けるようないわゆる弱小校でサッカーをしていました。顧問の先生も専門的な指導者という形ではなく、自分たちで練習メニューを組んだりしていた高校でした。キャプテンが練習メニューを考えていたので、自分も副キャプテンとしてそこに関わるような部活でしたね。今考えると、そういった経験がもしかしたら指導者を志すきっかけになったのかもしれません。大学生の頃は、学校の近くにあるクラブチームで指導者として少し活動もさせていただいていました。指導者の “し” の字もわからないままではありますが、経験をさせていただきました。そこから大学を卒業し、いざ「スペインで指導者として学びたい」となってから、スペイン語をたくさん勉強して、コーチングライセンスをとって指導者としてスタートするときに一人の監督のもとで勉強させていただきました。その時学んだのは、”1シーズンを戦い抜くチーム作り” です。これはスペインでの指導者人生で最も自分が重要としていることで、その方から指導者として最も影響を受けました。彼と少し前に話した時は、「今度俺、日本行くわ。どのチームかはまだ言えないけど」ということも言っていました。(笑)そんな指導者から、1シーズンを戦い抜くための練習や声かけ、チームマネジメントなどを学んだ時間でした。あくまでもサッカー指導者としての側面から、選手と接する。指導者として選手を最大限リスペクトしますし、選手からもリスペクトがなくてはならないと思っています。日本は選手権やインターハイといったトーナメント方式の大会が主体なので、毎週末試合のために準備するというよりは何月から行われる一回戦に合わせてチームを作っていくというスケジュールですよね。一方スペインでは、週末の公式戦のために一週間準備をするというスケジュールで年間を通して戦います。毎週毎週が勝負なので、選手のグラウンド外での行動や私生活に関しては見ることはなく、練習中の態度や姿勢、パフォーマンスを見ています。人間的な教育はもちろん最低限行いますが、それよりもサッカー指導者として選手たちと接しています。こっちでは、僕は外国人なので育った環境や文化は選手たちとは違います。「日本だったら、こうだよね」と思うこともありますが、選手たちとの対話は特に重要にしています。これをおろそかにすると信頼を失われやすいと思いますし、練習外の選手たちとの触れ合い方にもしっかり線引きをしながら気をつけている部分です。日本の高校サッカーを否定するわけではないですが、サッカー指導をしながら人間教育も徹底するという部分はすごく難しいことをしているなとスペインに来てから気づきました。教育者として、サッカー指導者としてという両面から選手を見ると、サッカー以上のものが見えてくると思います。選手のことをどこまで見れるのかというものは、一人の指導者だけでは難しい部分だと思うので分担しながら選手を見ていく必要があると思います。スペインで実感した『目的を踏まえ、意図を持った練習を行う』大切さスペインで指導者としてスタートしてから、初めは9歳や10歳ほどの子どもたちの指導をしていました。ユースの子たちも見ていたのでその学年の子達だけの話ではないのですが、スペインの子たちは面白くない練習ははっきりと僕に「面白くない」と言います。意図がない練習もそうですし、「これってどういうこと?」「なんのためになるの?」と伝えてくるんです。選手にヘコヘコするわけではないですが、目的を踏まえた上でその意図をどのように練習に落とし込みながら選手が退屈しないかを考えることが大切だと感じました。さらにその練習の中に、あらかじめミスするであろう部分を作っておき、ミスが起きたタイミングで止めて指導する。そしてまた再開し、設定していた目的を達成させるという方法で選手たちが楽しみながら目的を達成するような工夫は難しいなと感じました。もう一つ、考えさせられたのが親御さんに対してです。一番多い親御さんからの言葉が、「なんでうちの子プレーさせないの?」といったもの。週末の試合は18人がベンチ入りし、リーグ戦の登録選手数は25人なのでその都度招集外の選手も出てくるわけです。小学生くらいの年代のチームでこのような状況になると、監督のマネジメント力が大きく関わってきます。指導者側としてはある程度のローテーションをしますが、これが選手に伝わってしまうと競争がなくなります。日々の練習でいいプレーをする選手やアピールしてくれる選手にはチャンスを与えたいし、反対にそうではない選手の出場時間はそこまで多くないかもしれません。一人一人試合に出る時間は決まっていないので、トータルで考えると差はどうしても出てきます。こういった状況でも親御さんとのコミュニケーションや説明を行った上で、シビアですが監督としてしなければならない選択をします。僕の選択を理解してもらえるような話や指導を常に日々の練習から行うことで、選手たちへの不安を与えないようにも努めています。スペインで携わる選手たちのステップアップが原動力に。指導者としての喜びを感じる瞬間として、リーグ戦に勝った時を思い浮かべます。うちのチーム(CDレガネス U21)が所属するリーグは18チームあるので年間34試合を戦います。年間を通したリーグ戦を戦う以上、当然毎週末勝つ準備をしています。相手チームの情報があればそれに合わせた準備をしますし、情報がなければ自分たちで準備をしっかりします。準備をした上で、その週末の試合に勝った時はこれといってない喜びです。練習試合ではないので、一点の重みも違いますし自然とガッツポーズも出ますね。あとは、見ていた選手が他のクラブや上のカテゴリーにステップアップしている様子を見ると嬉しく感じます。日本のように中学、高校の3年間の括りがないので、毎年シーズンが終わったタイミングの結果によっては選手たちの将来も変わってきます。指導に関わった選手がスペインのユースの一部でやってるよってなると「あ〜頑張ってるんだな」という気持ちになりますね。(笑)今の自分の身近な目標は、今見ているCDレガネス U21を一つ上のカテゴリーに昇格させることです。なかなか難しいことですが、それでもチャレンジしないことには始まらないのでまだまだ残っているリーグ戦を一試合ずつ大切にしていきたいと思います。個人としては、指導現場一本で生活していくことは難しい部分でもあるのでスペインにサッカー留学したい子達の支援を行う会社を持っています。日本からスペインに来た選手たちが一歩ずつステップアップできるように彼らの背中を押してあげたいと思います。日本人指導者としてスペイン、特にマドリッドのサッカーをよくわかっている人間であると自負しているので、スペインのサッカーというのを色々伝えた上でいいステップアップをしていってくれればなという思いですね。これからの自分の夢は、日本で指導をしてみたいということです。13年間スペインで生活しているのでいいオファーを頂ければという前提になると思いますが、スペインで自分が学んだものをフィードバックできる環境が日本にあればぜひトライしてみたいです。