ソルティーロが持つ、ウガンダのクラブを経営アフリカのウガンダに滞在しながら、SOLTILO株式会社 (以下ソルティーロ) でクラブチームの経営とチャリティー事業を担当しています。ソルティーロは、本田圭佑選手がプロデュースするサッカー教室「ソルティーロ ファミリアサッカースクール」を国内外に展開しています。サッカー教室は、国内では東北から九州まで約50校、海外では上海の4校、カンボジアの3校、タイの1校です。私の担当の一つは、ウガンダのサッカークラブ経営です。いま滞在しているウガンダのクラブチーム「ソルティーロ・ブライトスターズ」の運営サイドとして、予算や選手編成だけでなくクラブチームの現場の仕事もしています。もう一つ、アフリカのケニアとウガンダでチャリティーのサッカー教室をしています。スラム街に住む子供たち、エイズ(HIV)で親を失った子供たちに無償でサッカー教室を提供するプロジェクトで、私は子供たちにサッカーを教えるコーチです。私がサッカーを始めたのは小学校1年生のころです。高校生までプレーヤーをして、大学生になってから指導側になりました。指導する側に変えたのは、早めに指導者を目指した方が50歳や60歳になってもプロのサッカーに関われる可能性が高いと思ったからです。小学校や中学校の頃は僕もJリーガーや日本代表に憧れていましたが、プロになるハードルがとても高いとわかったので将来を考えました。もう一つは、学校の先生に前から関心があり、いつか高校などでサッカー部のコーチをしたいという気持ちもあるからです。大学卒業後はメーカーの営業マンをしながら、休日は近隣の少年サッカーチームでコーチをしていました。その後、青年海外協力隊でサッカー指導者として南太平洋のサモアへ派遣され、サモアサッカー協会に所属のU17の代表のアシスタントコーチをしながら、現地でマイナーなサッカーの普及や戦力強化のための活動に関わらせていただきました。英語教師の一言に導かれて、青年海外協力隊に僕にサッカーの指導をしてくださった方々には今もとても感謝していますが、誰から最も影響を受けたか振り返った時にパッと浮かぶのは、実は高校の英語の先生です。高校3年生の最後の授業で先生が僕たちに贈ってくれたメッセージがあります。「大学生か社会人になってから、一度でいい。日本の外に出て、外国の人々と触れ合い、異文化を体験してこい」と。その言葉を覚えていた僕は、大学生になってから海外でボランティアや旅行をして、日本の外の世界はこんなにおもしろいんだと知りました。先生に教わったおかげで、前職では青年海外協力隊としてサモアでサッカー指導員を経験することができて、現在のアフリカでのサッカー指導に繋がっていると思います。国境を超えてサッカーに関わっていると国と国の違いを目の当たりにします。現在の活動拠点であるケニアやウガンダは決して豊かな国とは言えません。現地の生活水準がどれくらいかというと、1日当たり200円くらいで生活している、もしくはそれくらいで生きられたら恵まれているという子どもたちも多いです。その子たちはサッカーをするための道具すら用意することが難しいです。サッカークラブで練習するのは無料ですが、地面に凸凹やガラスの破片もあって靴がない子たちは入場できないなどの事情があり、サッカーをしたくてもできない子はたくさんいます。僕らのチャリティー活動ではボールなどの道具を貸し出し、経済事情に関係なく子どもたちが体を動かし、近隣の子たちと繋がれる機会を作っています。サッカーは新しい扉を開く今のウガンダのクラブの指導では、基本的に練習指示など主導権はウガンダ人コーチに握ってもらっています。僕はできる限り練習場に顔を出し、トレーニングの目的が気になる時にコーチに尋ねる、必要に応じて練習の修正を提案するといった相談役の立場です。こっちのコーチたちもA級やB級など資格を持ってる人たちがいて、その人たちから僕も専門的なことを教えてもらいます。プロの練習を見学する機会もあり、こちらのコーチが選手にどう声掛けしているかなども参考になるんです。海外で活動するうえでのポイントは言語です。僕もクラブのウガンダの方たちも英語を第二外国語として使ってコミュニケーションをしています。おそらくお互いに伝えきれていない部分があって、専門的な話をする時など難しいこともありますが、サッカーという共通の関心やそれに関する目的があるので心を通わせやすいとも思うんです。クラブチームに限らず草サッカーをする場所でも同じだと感じます。僕の中では、サッカーは語学勉強と同じ位置づけなんです。これは指導者という立場は関係なく、いろんな国でサッカーをしてきてわかったことです。サッカーができれば、どこの国に行っても話題にできる、人との距離をすぐ縮めてコミュニケーションすることができるんです。サッカーは「共通言語」にもなります。僕はサッカーのこういう素晴らしさも指導を通して伝えたいと思っています。教えた子がプロになるとかサッカーで活躍してくれるのももちろん嬉しいです。それ以上に、将来知らない世界に飛び込んで、新しく出会った人たちと「サッカーしようよ」となった時に躊躇わず「いいよ!」と答えられるくらいの自信やスキルがあってほしいと思います。そのためには、サッカーの技術だけではなくサッカーを通して人と関係をつくることも教えることが大切です。国境を超えたサッカーのイノベーションアフリカやサモアの子どもたちがサッカーする様子を見れば、きっと驚くはずです。子どもたちは日本の子どもたちと比べてずっと厳しい環境で生活していますが、「サッカーをやりたい」という気持ちが全身から溢れ出ています。コーチの話の話を聞いている途中でも「早く試合をさせて」という思いが目や姿勢から伝わってくるんです。この子たちの課題は、ルールを守り人を尊重する姿勢を教えることです。例えば、僕が「(縦一列に)並びましょう」と言っても、子どもたちは我先にと前に出てくるので横一列になってしまいます。トレーニング中の動きの順番やミニゲームのルールなどを守ること、相手チームをリスペクトすること、チームメイトを思いやってサポートし合うことが大切だと伝えるようにしています。こんな風に日本とウガンダやサモアではサッカーを取り巻く環境も大きく異なって、それぞれのサッカーや人の気質などの良さを生かし、それぞれが足りないところを補うことができます。サッカーをしている日本の子どもたちは、指導者の話をよく聞いて指導者に褒められるように一生懸命になる傾向があります。それは立派なところもあるんですが、見方を変えると、人の目を気にしすぎずに「自分はこうしたい」「自分はこう思う」ともっと自分を出していいと思うんです。日本の子どもに向けた練習では、ウガンダやサモアの子どもたちのような野生味を引き出せるように、上手に刺激を与えることも一つのアイデアだと思います。クラブとチャリティーが交差 強くて社会貢献できるクラブへ今所属しているクラブのサッカーにはポテンシャルを感じます。とても真面目に頑張っている選手が多く、直近2シーズンでウガンダ代表を3人、今シーズンも20歳以下代表選手が5名在籍しています。毎年1部プレミアリーグのランキングでは中くらいの成績を出しています。課題は、予算規模が小さくてリーグでも下から1番から2番を争うくらいだということです。クラブチームのサッカーの目標として、中堅のレベルを維持したいです。まず年間で戦うリーグで良い成績を残すことが厳しくても、カップ戦で数年以内に優勝を狙っています。経営面での目標は、予算を中心に改善して選手の待遇を良くすること、社会貢献できるチームにすることです。一生懸命に練習している選手にもっと良い待遇を与えたいのもありますが、それによってウガンダ国内のサッカー選手の人気やプロとしてのステータスを高めることになります。選手のステータスが上がれば国内でのサッカーへの注目度も上がり、サッカー選手に憧れる子供も増えるんです。サッカーのステータスについてもう一つ言うと、選手が地域に密着した活動をするなどピッチ以外の活動も評価されるクラブにしたいです。選手と学校を回ってサッカー教室をしていますが、プロが来ると子供たちは目を輝かせて嬉しそうにしています。Jリーグが持ってる文化をウガンダでリードする存在にできたら良いですね。もう一つは、クラブチームとは別のチャリティープロジェクトについてです。5年前に始まったチャリティーのサッカー活動ですが、始まった当初から僕たちは、サッカーの基礎力が身についていて才能がある子たちが地域のチームに所属できるようサポートをしてきました。そのうち最年長のグループの子たちが16歳になりました。つまり、あと3、4年すればその子たちはプロにチャレンジできるんです。今までサポートしてきた子たちと二人三脚して、僕らのプロジェクトを通じて彼らがサッカー選手になるという夢を掴んでくれたらという青写真を掲げています。最後に個人的な目標があります。この先タイミングや条件が合えば、他の文化圏やエリアでサッカーの仕事にチャレンジしたいです。今までオセアニア、東アフリカでサッカーをさせていただきましたが、新しいところに行けば行くほど違う文化圏に興味が湧いてくるんです。まだ行ったことがないエリアでサッカーの仕事ができないかなと狙ってるところです。