14年間のサラリーマン生活から一転、スクール開校-中山さんが指導者を志した経緯を教えてください兄の影響を受けてサッカーを始めたのは幼稚園の頃でした。社会人になるまで、いろんなチームでプレーヤーとしてサッカーを楽しんでました。指導者になろうと思ったのは、大学時代です。当時、私が所属していた大学のサッカー部には監督がいなくて、私たち学生が主体となって練習や試合に励んでました。1つ上の先輩が引退する頃、3年生だった私がキャプテンになりました。学生監督のような立場でメニュー作りから他のチームとの交流まで幅広く経験したんです。同じ頃、近隣の小学生向けのジュニアスクールでコーチも担当することになりました。初めて子どもにサッカーを教える、メニューを考えるという経験をして、プレーヤーとしてボールを追いかける以外でもサッカーについて考えたり教えることがとても楽しいと感じました。それがきっかけで、2022年6月末に以前の勤務先を退職するまでの14年間、サラリーマンをしながら指導者をしてきました。2015年には、サラリーマンをしながらソサイチの日本代表(GK)としてスペイン遠征に行き、招待試合に出場したことがあります。その前に参加していた大学の後輩から聞いて選抜会に参加し、代表に選ばれました。サッカー本来が持つ楽しみの部分を伝えることが指導者としての役目。-指導者になって気づいたことや、当たった壁などはあったのでしょうか?サッカーをプレーする立場から指導する立場になって改めて思ったことがあります。「サッカーはおもしろい!」この一言に尽きます。指導者になりたての頃、「良い練習にしたい」という気合もあって、本を読んでメニューを考えて準備してましたね。でも、大事なことが抜けていたと早い段階で気が付きました。最初、私は教えることに意識を向けすぎて、サッカーを楽しむことを忘れていたんです。メニューをどうしようか考えてばかりでサッカーを楽しめていない私に子どもたちは気付いていたと思います。-これまで出会ってきた指導者の方の影響も大きなものがありそうですね振り返ると、私が教わってきた指導者は私を含め子どもたちに良い影響を与えてくれていました。指導者デビューしてからもずっと連絡を取り続けている方がいます。小学校のときに教わっていた方で、たまに相談にのってもらったりもするんです。その方はブラジル代表の大ファンで、ロナウドやロマーリオの話になると「(あの選手は)ドリブルがすごいんだよ〜!!」と言ったり、とにかくサッカーが好きなのが伝わってきます。ユーモアのある一言一言がいつもおもしろくて、練習も合間の休憩も本当に楽しかったのを覚えています。その方がいたからサッカーを続けることができました。なので、私もまずは原点に立ち返って、自分がサッカーを楽しむことを大切にしようと思いました。この方とはコーチ対選手という関係を超えて親しくさせていただいてます。私にとって人生の先輩でもあり、家族ぐるみのお付き合いができる方です。大学を卒業した後にサラリーマンでなく留学してコーチの勉強をしようかなどと悩んだ分岐点がこれまでいくつかありました。その方には必ず相談していて、いつも客観的な意見をおっしゃっていただいた上で「最後には自分がやりたい道を選んだほうがいいよ」と背中を押していただきました。-そんな指導者の方からの気づきを、今の自身の指導にも活かしていかれているのですね私自身もGKスクールの運営や指導を通して、私が経験してきたものを一人でも多くの子供達に伝えたりですとか、スクール生たちとサッカー教室の枠にとどまらない関係を築いていけたらという思いがあります。この方を含めて、小学校から社会人まで貴重な出会いがいくつもあったと思ってます。このインタビューで全部話したい気持ちもありますが、時間の関係で難しいですね。ご縁は大事ですよ。良い出会いを大切にして行動することについても子ども達に伝えたいと思っています。私自身もこれからの人生で人とのご縁を大切にしていきたいです。子どもたちと交わす「3つの約束」-GK指導者として、中山さんが大切にされている指導軸についても伺えますか?いま大田区で教えているカテゴリーは、ジュニア世代(小学生)とジュニア・ユース世代(中学生)です。どの現場でも子どもたちと必ず約束することがあります。1つは、「楽しく真剣にサッカーをしよう」。私自身も一番大切なのはサッカーを楽しむことだと思ってます。でも、サッカー教室やサッカークラブに来る子どもたちの目的は一人ひとり違います。中には、限られた時間や人数、場所のなかで「楽しくサッカーをするだけじゃなくもっと上手くなりたいです」という高い向上心を持ってる子もいる。ふざけてしまうとその人たちに迷惑がかかってしまう、だから楽しく真剣にしようと伝えます。2つ目は、「オンとオフの切り替えをしっかりやろう」。子どもたちが高校生になっても大人になっても、どんな場面でもメリハリを付けることは大切だと思っています。3つ目は、「 常に自分が主役と思ってプレーしよう」。「自分が主役」というのは、独りよがりなサッカーをして自分だけが楽しければ良いという意味ではありません。GK指導者として子どもたちに言うのは、「GKこそチームが勝つために何ができるか主体的に考えよう」ということです。GKは試合でボールを持つ時間は少ないけれど、GKにしかできないことがある。自分はチームにとって大切な役割を担っている主役だと自覚することでサッカーとの向き合い方が変わります。指導者として大切にしていることは、習得するスピードや捉え方は一人ひとり違うことを大前提にして指導することです。みんな一緒に同じ練習メニューをすることが多いからこそ、一人ひとりに寄り添ったトレーニングをしたいと思っています。僕の好きな言葉は「十人十色」です。サッカーだと「十一人十一色」になるかもしれないですけど。これについては有言実行していきたいと思っています。やっぱり一番は楽しむことです。私自身は今でも毎回の練習後に反省も多いですが、ゲーム要素も入れながら楽しく真剣に考えながら指導したいと思ってます。GKをしたがらなかった教え子の変化-中山さんが指導者冥利に尽きる瞬間は、どんな時でしょうか?指導者をしていて一番良かったと思うのは、自信を持った子どもたちが試合で活躍している姿を見るときです。私一人の力で子どもたちが成長できるとは思ってなくて、本人のがんばりはもちろん、身近な保護者のサポートやチームに関わっている他のコーチ陣の支えがあるお陰です。多くのサポートがある中で、私が少しでもその子の成長に関われたと思うと嬉しいですね。指導者として長く関わった冥利だと思える出来事がありました。直近2~3年の間、大田区のジュニア・ユースのチームで週末にGK指導者をしてました。現在高校1年生の元・教え子と出会ったのは彼が中学校1年生の頃です。その子はフィールドもGKもしてましたが、私がGK指導者として練習に行くとあまりGKが乗り気でなくて。「GK嫌いになったのかな」と心配になったりしました。1〜2年経ったころ、その子のGKの技術が上がり、試合でPKを止め、練習でも決定的なシュートを止めるようになりました。本人は喜びながら練習に入るようになって、上手くなって自信を得られたんだなと思ってたら高校推薦のGK枠で進学することになったんです。この子のすごい成長は何よりも本人の努力あってのことです。それでも、卒業する時に「コーチ、本当にありがとうございました」と言っていただいて、少しでもその子の人生に良い影響を与えられたのかなと指導者をしていてとても良かったなと思いました。これは私がGKスクールを立ち上げた大きな一つのきっかけです。子どもの人生を豊かにするGKスクール-これからの夢や目標を教えてくださいGKスクールの目標は、会員数を増やすことです。会員数が増えればいろんなメニューの練習ができます。それからもう一つ。これは誤解を招くかもしれないですが、「GKスクールぽくないGKスクールにしたい」と思うんです。どういう意味かというと、1つはサッカーのGKとして必要な技術を身につけられるスクールにするということ。大前提として、GKは専門的な練習を時間をとってなかなかできず、専門のGK指導者もまだまだ少ないんです。それなのに、GKは多くを求められます。GKとしてのスキルから人間性、高い運動能力などです。フィールドの選手以上に体全体を使うポジションでもあります。ドイツ代表のノイアー選手は小さい頃に体操をしてましたし、少し古いですがデンマークのシュマイケル選手はハンドボールの選手でした。サッカー以外の競技等からもヒントを得て、子ども達の運動能力を高められる場所にもしたいと思っています。子どもたちの先の人生をより豊かに、選択肢を広くするために、サッカーの枠にとらわれず学べる場所にしていきたいと思っています。いろんな競技や体の使い方も学べる場所にしていきたいです。夢は、大田区だけでなく全国各地に活動を広げることです。GKスクールは全国的に増えてますけど、スクール同士で子供たちの奪い合いをするよりも横のつながりを作ってGK自体を盛り上げていきたいと思っています。