親友との出会いが、指導者人生を大きく変える出来事に導いてくれた。僕の大親友のイギリス人の友達がいるのですが、彼は英会話教師という職で来日し、アジアのサッカーを変えようと奮闘していたんです。そんな彼に紹介してもらった形で、ナイキアカデミーでのヘッドコーチというお仕事をいただく形になりました。過去に二年間、イングランドにいっていたという経験もあり英語ができたというのもありまして参画することになりました。ナイキアカデミーでは、外国人のスタッフの方々と一緒に全国を回って海外のトップクラブのトレーニングやインテンシティを体感してもらうクリニックと、海外のプロアカデミーからコーチを呼んできて指導者講習会をするというプログラムがありました。当時、マンチェスターユナイテッドのサプライヤーがナイキだったということもあり多くの指導者の方が参加してくださいました。その参加者の中に、当時は名古屋グランパス のアカデミーダイレクターだった方がいらっしゃり、後にFC岐阜のGMになられた際に「外国人選手がいるし、元気いいから」とヘッドコーチとしてお声がけいただき、FC岐阜で指導させていただけたんです。エラーの改善より、ナイスプレーへの称賛を。サッカーが大好きなのですが、人に指導をしている感覚はあまり感じないんです。その中でもピッチ上のことに関して影響を受けたのは、マンチャスターユナイテッドアカデミーとして2回目に来日された際のアカデミーダイレクターであるトニー・ウィーランさんという指導者です。彼の指導の仕方やアプローチの仕方は自分の考えが全てひっくり返ったような感じでした。彼と出会って以降僕も同じやり方を真似しましたし、指導者として大きな影響を受けましたね。僕自身もイングランドでのライセンス取得やJFAのB級ライセンスを持ってますが、ほとんどの指導方法はテーマがあって、キーファクターがあると思います。例えば広い方から攻めましょうといったテーマがあった時に、ボールとは逆のサイドも見ておこうというキーファクターがあります。大体は、キーファクターに関わるエラーがあった時にフリーズをしてみんなに説明をするという流れです。そこで選手たちが気づいて改善していき、新たな気づきを得ます。しかし、彼はエラーが起きているのに全く止めなかったんですよ。講習会を受けている指導者の方々はバインダーを持って何をいうのか待っているのに何も言わない。とうとうフリーズした時は、成功した時でした。エラーではなく、求めていたプレーが出た時ですね。「今なんでこのプレーできたかわかる?」と選手から成功の要因を引き出すと、他の選手も「自分も褒められたい」とさらに奮起するしどんどんチャレンジが増えてきます。これまで僕が知っていたフリーズのタイミングと全く真逆でした。でも、自分の現場で何回も同じようにやってみたらうまくいくんですよ。練習のテンポが一気に上がって、活気が出たり「良いことしかないじゃん」と思って。(笑)もちろんうまくなるのも大事ですが、選手の個性をなるべく消したくないと思っています。JFA の教科書に対してダメ出しをするのではないですが、エラーを逐一改善するのは個性的な選手を消してしまう気もするんです。コーチに教えられたことをやるのではなく、自ら気づいてやったことをわざわざ止められて褒められるのは選手からすると嬉しいに決まってるじゃないですか。自主性もどんどん出てくるし、僕も実践してから選手たちやチームが見違えるほど変わりましたね。その中でも日々選手たちとの関係性はもちろん大事だと思っているので、こういった指導法に加えて対人としての接し方にも気を遣っています。(マンチャスターユナイテッドアカデミー初来日時のアカデミーダイレクターで、ユナイテッドのレジェンド ブライアン・マクレアー氏と。)選手の個性を最大限引き出すのは、“全力本気”クラブのフィロソフィーとしては “全力本気” を掲げています。どこでも聞くような言葉ですが、先日も2~3時間「全力本気て何だ?」というミーティングをコーチ陣としたくらいです。どんな時でも自分の持っている力を出し尽くすということは、トップチームであれば一番のエンターティンメントになると思っています。さらに、地域に対してもすごくこだわりを持っています。全力で何かに取り組む人を応援することは楽しいですし、地域と一緒に何かを取り組むことで活性化にもつながります。みんなメッシやプジョルになれということではなくて...プジョルは少し古いか。(笑)個性豊かな選手たちそれぞれが自分の武器を光らせるために、全力本気であってほしいなと思います。楽しくないのに全力にも本気にもなれないですし、100%の力を発揮することはできません。そういった大元となる楽しみを生み出すのも僕たち指導者の役目だと思います。なので、僕はただのフットボールファンとして自分の好きなものを共有しているという感覚なんです。指導者としての喜びや楽しみは、毎日感じています。楽しみと同じくらい、責任やプレッシャーも感じます。そういったものを超えるほどの刺激を選手たちが夢中になっている姿から与えてもらっています。小学生のゲームに自分が参加した時も、服を掴んででもボールを取ろうとしてくる姿や激しく当たってくる姿を体感すると「あー、良かった」なんて思いますね。お父さんお母さんたちがお子さんの試合を見て夢中になっている姿を見る時も嬉しくなります。勝ち負けが関わってくると、お父さんお母さんも焦っちゃったりいろんなことが起きるんですよね。「誰かがJ下部いっちゃった」とか、「トレセンにうちの子は選ばれない」とか。そういったものも少しでも解決してあげたいなと思いますね。大森FCのフットボールで、大田区を熱くする。僕は中二の終わりくらいに、たまたまうちの父親が家に衛星放送を入れてくれて、イングランドのサッカーを見ることができていました。それを見て、ボロボロ泣くくらい感動したんですよ。サッカーを大好きになるきっかけがそこだったので、自分が感動したものを大田区で表現したいという気持ちです。「このフットボールでみんなを感動させて泣かせてやる!」という野望みたいなものですね。しかし、そういった感動を与えるステージとしてのグラウンドがなかなか都心にないというのも現状です。そういった中でも観客席のあるスタジアムを作って、みんなが毎週末熱狂できるエンターテインメントを作りたいという夢があります。うちのアカデミーから、見る人を感動させられるような選手たちがどんどん出ていったらいいなと思いますね。