子どもたちにサッカーを好きになってもらうための指導富士山の麓にある静岡県裾野市で幼稚園児から小学校6年生向けのサッカースクールを運営しています。指導者の道に進もうと決めたのは、高校卒業後に石川県のチームに2年ほど通っていた時のことです。トップレベルの選手たちとの試合で、自分が超えられない壁を感じました。その時から「自分はトップレベルの選手と競える選手を育てたい」と指導者を目指し、20歳のころに地元の静岡県沼津市に帰ってきました。指導者としての最初の仕事は、地元少年団で小学生にサッカーを教えることでした。あるとき、アスルクラロ沼津の母体だったチームの社長さんと出会って、「指導者を目指しているので勉強させてください」と思いを伝えました。それから社長さんに付いて回るようになったんです。しばらくすると、クラブで指導者のポストが空きました。21歳くらいだったと思います。入社して2015年まで指導していました。指導者になったばかりの僕には、すごく尊敬している人がいました。沼津セントラル(現在のアスルクラロ沼津)の山本浩義さんに出会って、言葉遣いなど小さい子どもへの接し方、サッカーの動きを子ども達に伝える表現力、保護者とのコミュニケーションのとり方を見て必死で学びましたね。当時は、サッカーの理論よりもどうしたら子供たちにサッカーを好きになってもらえるのかを考えていました。チームづくりは丁寧な環境づくりから子ども向けのサッカースクールを運営していて、指導者になりたての頃の経験があってこその今なんだと感じます。新人時代、指導者になるための経験を0から積みましたが、子ども向けの教室には泥臭いところもあります。失敗しても助け舟を出してくれる仲間に恵まれましたね。子どもと保護者と指導者が「三者一体」になって子どもを育てるんだという気持ちで過ごして、時間があっという間に過ぎていきました。学生時代の部活動では顧問に恵まれました。今ではクラブチームは珍しくないですが、僕が中学生の頃はなかったです。だから、部活動はサッカーができる唯一の場所と言っていいくらいでした。今じゃ考えられないくらいの鬼指導で、精神的にとても強くなりましたよ。当時は中体連が終わるとサッカーをしてはいけないような空気が校内にあったんです。でも、その先生は僕のサッカーに対する情熱を汲み取ってくれて、サッカーをさせてくれました。中学校の部活動では、3年生はプレーしながら1年生の面倒を見ることになっていました。少年団のサッカーの練習にも顔を出すことがあったんです。他人に教えることはその人とチームを強くするだけではなく、自分の成長にもなるとこの頃から体感していました。ALAサッカースクールは立ち上げて今年で7年目になります。スタート当初から、このチームを運営する上で僕が大切にしていることは環境づくりです。その一つは、自分のクラブのコンセプトやメソッドをしっかり持ち、同じ価値観を持った人間をそばに置くことです。マネジメントも重要だと独立してから感じます。サッカースクールの運営を含めた全ての経営について考えないといけない。限られた時間をどう使って、その時間の中でどうやってサッカーに使うのか。多種多様なスペシャリストと作り上げる、丈夫な選手を育む環境僕らの指導には3つの軸があります。1つは「心」です。スポーツでは心の強さだけでなく心をコントロールする力が欠かせません。もう1つは「体」。サッカーは格闘技だと思ってます。小学生だろうが体がぶつかり合います。怪我をしない体づくり、怪我をしたときにどうやって回復するか、知識をもとに考えます。最後は「食」。保護者向けに栄養学に関する講座を開催します。子どもたちにも食に関心を持ってもらうため、どんなお弁当が良いのか、コンビニでも大丈夫かなどお話しするんです。この3つの軸について、昔から付き合いがあるメンタルトレーナーや地元で接骨院をしているトレーナーに講義をしてもらいます。怪我の状態は個人情報なので無断で知ることはできません。でも、保護者がOKを出せば調子が悪い部位の細かい情報が届くので、「この子はこれくらい休ませよう」とか「こんなトレーニングにしようか」と一人一人に合ったメニューを出すことができます。食についての講義を受けてから合宿に行くと、子どもたちが変わりました。いつ、どのタイミングで何を食べるか意識するようになるんです。食べられる量だってそれぞれ違うことがわかるようになっていました。これは食や栄養のスペシャリストたちのお陰です。僕よりも専門家が話したほうが説明も上手いし、子どもたちも納得してくれます。このように、さまざまなスペシャリストと一緒に選手を育成していくことを理念にしています。僕には「自分はなんでもできる」という考えはないです。ある人が栄養についてとても詳しいなら、栄養に関する講座はその方にお任せします。「スクールを巣立った子たちが親となって帰ってきてくれるのは感慨深い」26年近く指導してきたなかで、「指導者をしていてよかった」といろんな場面で思ってきました。指導者という立場ですが、どの大会でどんな成績だったかよりも子供たち一人ひとりが成長した姿を見ると嬉しくなるんです。出会いがあれば別れがあります。小学校6年生の子どもたちが最後の練習を終えると、僕たちのチームから巣立っていきます。そのとき僕は、どの大会でどんな成績だったかよりも子供たち一人ひとりがサッカーを通して成長してくれたことをとても嬉しく思います。かなしい気持ちもありますが「嬉しい」「付いてきてくれてありがとう」という思い、それから保護者の方々への感謝の気持ちがわいてきます。一番かなしいときが一番嬉しいときかもしれないなって思いますね。そうやってお別れしても、また再会することだってあります。教え子たちがお子さんを僕のスクールに連れてきてくれる、これは指導者として一番嬉しいことですね。この前もグラウンドで保護者から声をかけられました。子供の頃と顔が変わっちゃって、名前を聞いて教え子だと思い出すことが多いんです。僕のことをずっと覚えてくれていて嬉しいです。 サッカーがあったから出会えた人がたくさんいるので、サッカーには本当に感謝しています。サッカーを通して素敵な出会いがあることが、指導者という仕事の1番の魅力です。これから僕は、自分のクラブの成長を目指すよりも静岡県にサッカー文化をもっと根付かせたいです。静岡県が「サッカー王国」と呼ばれたのは今は昔。これは僕の勝手な考えですけど、今でも静岡県はサッカー人口密度が高い県だと思うんです。公園で孫と一緒にボールを蹴っているおじいちゃんを見ることもあります。ヨーロッパでは、人々の生活のなかにサッカーが当たり前に存在していて、僕もその光景を目の当たりにした時に「サッカーってこういうものだよな」と感じました。選ばれた人がするスポーツではなく地域一帯で、老若男女でサッカーを楽しむ空気があるといいですね。これから生まれてくる子供たちのためにサッカーをさらに広めたいです。静岡だけでなくたくさんの都道府県がそんな風に動いてくれたら、ワールドカップでトップ5も狙えるかもしれませんね。