大学時代の恩師からの一声が、指導者キャリアのスタートプレーヤーとしての区切りがついてから、正直もうサッカーは関わらないだろうと思っていました。サッカーを通じてたくさんの人と出会うことができましたし、サッカー以外でも多くの方と関わるうちに、サッカーだけではなくいろいろなものを勉強したいなあという思いになったんです。オーストラリアで引退した時「そのままコーチで残っていいよ」と言われましたが、そういった思いから日本に帰る選択をしました。 そんな中、母校である神奈川大学の大森監督からコーチ就任の話をいただいたんです。もちろん自分の中では大切な方でしたし、自分のことを頼ってくれてるのであれば全力で応えたいなというところから、指導者キャリアがスタートしました。指導者として歩み出すきっかけにもなった神奈川大学の大森監督には選手時代から大きな影響を受けています。学生時代からサッカーだけではなくプラスアルファの活動も行っていこうというお考えで、指導者としても素晴らしいものをお持ちですが、人として教育していただきました。ただ部活動でサッカーをするだけではなく、地域からも愛されるチームでないといけないと常々おっしゃっていて、普段の生活の部分から成長するようにと教えられてきました。そういった指導をいただいてきたので、僕自身も大森監督に惹かれる部分が多かったです。そんな大森監督からのコーチ打診だったので、二つ返事で「お願いします」となりましたね。指導の軸は、『選手の持っている良さを最大限引き出す』こと先述のよう流れで、指導者の経験がないままプロに一番近いアマチュアレベルである大学サッカーの選手たちを指導することになりました。日本でもなかなか珍しい指導者キャリアの歩み方なのかなと思います。初めて指導するチームが大学サッカー部ということで、新たな気づきも多かったですし、自分自身の指導の軸もできました。それは、『選手の良さを引き出してあげる』ということです。ウィークやネガティブを治すための指導よりも、その選手が持っている良さを最大限引き出してあげる役割が指導者にはあると思っています。教育って英語で education というのですが、この語源はラテン語で『潜在するものを引き出す』という意味合いもあるそうなんです。日本では、教育=教える というイメージがどうしても強いですが、語源通り子どもたちの持っているものを引き出す教育は大切にしています。子どもたちをよく見て、その子たちの一番いいものを引き出してあげるということは僕の中ではブレずにやっていきたいですね。勝負の結果よりも、応援してもらえる選手としての成長が指導者冥利に尽きる大学でコーチをやっている時は、勝負にもこだわりを持って指導していました。今指導しているU10のチームでも、もちろん試合に勝った時は嬉しさを感じますが、選手たちのサッカーとしての部分や人としての部分の成長に元気をもらいます。大学時代からいろんな人たちのつながりがあってサッカーを楽しめることを身に染みて感じていたので、自分が見ている子どもたちがそうやって第三者の方から応援してもらっているのも嬉しくなりますよね。U10の子たちの親御さんでも、勝てばすごく一緒に盛り上げてくれるし負けたら「お前のせいだ」って言われているような感覚もあり、日本よりも距離が近い印象です。そういった意味でも、子どもたちはもちろん親御さんにも喜んでもらえるような瞬間を増やしていきたいなと思っています。以前は選手として、そして現在は指導者としてオーストラリアで生活していますが、こっちの人たちはオンオフのメリハリがしっかりしているなという印象です。U10の子たちをメインに指導させていただいているんですが、『やる時はしっかりとやって楽しむところは楽しむ』といった雰囲気作りが上手いなと思います。日本人からしてみれば、「話聞いてなくない?」と思うこともあるんですが。(笑)大人の草サッカーなんかでも、一生懸命プレーして終わったらみんなでビール飲んで、今日も楽しかったよねと談笑するのが当たり前のようになっている国です。こういった光景は、オーストラリアの良さなんじゃないかなと思いますね。関わりを持ってきた全ての選手たちの幸せが、自身にとっての幸せに。選手の時もあまり先を見ずにというか、とにかく今自分にできることに全力で取り組んできました。10年後20年後に振り返った時、「あの頃よかったよね」って言えるような人生でありたいなというのが自分のスタンスです。環境や生活面でも、「日本の方がいいなぁ」とか「オーストラリアの方がいいなぁ」とか色々考えることもあると思うのですが、自分が求められているところで精一杯取り組むことだけに今は集中しています。指導者を70歳まですることが、もしかしたら自分にとってのハッピーなことかもしれないですし。(笑)今はとにかく今見ている子たちや大学で関わってきた子たちが、これから幸せな人生を送っていってほしいと願いながら日々を過ごしています。これからの夢としては今頑張れることを一生懸命やって、今関わってくれている子たちや今まで日本で関わってくれた子たち、これから関わっていく子たちがサッカーに関わらず大きく成長していってくれることを応援していきたいということですね。その子たちなりの夢を叶えてくれるのが、僕の夢かなと思っています。今目の前にいる子たちを幸せにすることだけに全力を注いでいきます。