欧州で挑み続ける、”自分自身で意思決定できる選手” を育む環境づくり現在RBライプツィヒのU15でフィジカルコーチをしています。ドイツは今年で7年目を迎えますが、振り返ると長かったようであっという間といった感覚ですね。プロフィールに書いてある ”タレント育成” という言葉は、僕が日々の活動において抱えている想いとちょうど合致しているため使っています。どんな選手を育てたいのかという問いに対して、僕自身が単純に稼ぐサッカー選手を育成したいのかと言われるとそうでもなく、僕が関わった選手には、自分自身の意思で輝ける人や選手になって欲しいと思っています。自分の人生を主人公として楽しむ選手、またそのような生き生きと輝いて見えるような人が育まれる環境づくりをしていきたい、そういったスタンスで関わっていきたい、このような想いから ”タレント育成” という言葉を採用しました。今働いているのはRBライプツィヒというクラブで、最近ではトップチームがUEFAチャンピオンズリーグにも常連と言っていいほど出場しているクラブです。そういったクラブになってくると、言うなればベルトコンベア式に選手を育成することも可能になってきます。ただベルトコンベア式の育成をしたところで、工場でできる製品と同じように「言われたからやりました」「なんかここまでこれました」といったような量産型の選手が出来上がるだけだと思うんですよね。そこで必要なのは、ベルトコンベアの上でも重要な箇所に ”自分の意思で選択するポイント” をあえてデザインすることだと思っています。選手が自らの意思で決断し行動できるように、そういった環境づくりを担う一人として選手と関わることを心がけています。何においても僕がやれって言えばやると思うのですが、ある程度は選手たち自身が何のためにやっているのかを理解できていないとしょうがないですし、必要な時に必要なものを選択できるように、そのプロセスを手助けできるように僕は選手と関わっています。答えを押し付けるのではなく、選手の意思を尊重する指導選手の動きを見れば、ある程度はここに痛みを抱えそうだなというのがわかります。ただ、僕がそれを危惧して予防としてこれをやった方がいいと言っても、僕がみている選手たち(U15、日本での中学2,3年生相当)は、自分の動きと怪我の繋がりがそれなりにイメージできない限り何のためにやるのか自らの頭で理解することができず、あまり気持ちがのらなかったりするわけです。僕がやれと言い続けることでその時の怪我は防げるかもしれませんが、この先身体が大きくなってもっと大きな怪我をするリスクがでてきたとき、場合によっては選手自身が異変を察知しないといけないかもしれません。その際に選手自身が察知してどう対処すべきなのか考えたり、分からないからフィジカルコーチに聞いてみようという思考ができるようになって欲しいんです。それでももちろんできる限り選手に怪我をさせたくはないので一度は伝えますが、それを聞かずに自分で判断して行動に移すならやめさせようとはしません。その後選手自身が違和感を感じ、僕の元に来たらまた改めて話をします。僕の判断で選手の決断や行動をやめさせるのではなく、あくまでも情報を提供した上で最終的な判断を選手自身にさせることで、間違っていた場合に自分で気づくことができます。「フィジカルコーチに言われていたことが起こっちゃった」と気づいたタイミングが一番学習できるタイミングだと思うので、そこで「僕が言っていたのはこういうことなんだよ」と丁寧に話をしています。こういった指導を心がけるようになったのは、指導者としてのキャリアを少しずつ積み上げながらだと思います。最初は小学生にサッカーを教えていたのですが、その後はサッカーの指導者というよりもメディカル側のスタッフとしてキャリアを積みました。ドイツに来てからはまず小中学生のサッカー指導を経験し、現在のフィジカルコーチとしての活動に至ります。こういったこれまでの経験の中で、選手たちをみて、どう反応するのかを日々試行錯誤しながら指導してきたことで今のスタイルに行きつきました。何を伝えるかももちろん大事ですが、それ以上に “選手たちの吸収力が高いタイミング” に気づくことができるかが大切なんじゃないかなと思っています。ドイツに来て6年半。感じた日本との違いと、これからの日本に抱く夢。今ちょうどドイツに来て6年半くらいだと思いますが、6年半もドイツにいるとだんだん日本のことがわからなくなってくるんですよね。なので、日本とドイツの違いについてコメントしにくくなってきてはいるのですが、こっちに来た当初から言っていることとして、指導や教育という場におけるコミュニケーションがあります。指導者と選手という肩書きの違いはあれども立場が上とか下というわけではなく、そこにいる人として対等な上で、あるテーマにおいてより知っている指導者が何かを教えることもありますし、その一方で知らないからこその固定観念にとらわれない意見などが選手から投げられることも出てきます。立場がどうこうではなくて、それぞれが持ってるものをお互いに提供し合う、そういった指導現場におけるコミュニケーションがドイツにきていいなと思ったところです。あとは単純に違いとして、日本人の方が細かいところまで拘りたがる印象はありますね。僕の頭の中にあるイメージなんですが、日本人は下から丁寧に積み上げて上まで作り上げるような感じで、ドイツ人は先にゴールを決め、ある程度芯を定めてから必要なピースをつけていくといった感じなのかなと。目指すべきものを意識できているとそこに辿り着くまでのルートを臨機応変に変更することができますし、途中でゴールそのものに修正をかけることもできます。こういった思考のプロセスは、やれることがいくらでもあるフィジカルという領域においてもとても有効だと感じています。選手が怪我をしにくくなるためであったり、パフォーマンスアップのためだったりと考えると、数えたらキリがないほどのやれることがあるのですが、それらを全部やってると終わらないですし、選手は一向にピッチ上でプレーすることができません。なので、まずは選手が目指しているところをゴールとして定め、その上で今限られた時間の中で何を提供できるのかということを考え抜くことがすごく大事です。そこに、フィジカルコーチとしての仕事があるなと感じています。僕は夢の一つとして、日本代表がW杯で優勝するところを見たいというのを抱えています。そこに向けて何か直近で起きてほしいことがあるとすれば、もっと指導者やメディカルスタッフなどが欧州とかで挑戦して活躍していってほしいというのがあります。僕が日本代表のW杯優勝にどういう形で貢献できるのかはわからないですけど、やっぱり国と国の対決では日本代表を応援しますし、日本代表が優勝して日本中が沸いている瞬間が起きるのであればそれが一番最高だなと思っているので、そこに近づけるようなことはいくらでもしていきたいなと思っていますね。