トレーナー不在のなか、自ら調べる私自身は高校までサッカーをしていました。トレーナーを目指したきっかけは、膝の十字靭帯怪我です。後遺症もなくて生活で困ることはなかったですけど、怪我をする前と同じ感覚で動いているのに思うように走れないのが不思議で、体の仕組みに興味を持ちました。高校のサッカー部にはトレーナーがいなかったのでトレーニングについて自分で調べるようになったんです。そんなきっかけでトレーナーを目指して専門学校に通いました。初めからサッカーのトレーニング活動に関わりたかったのですが、社会人としてトレーナー活動を始めるときにまずフィットネスクラブや子供の運動指導に関わり始め、その流れで今も活動しています。専門学校を出た後、ラグビーのプロ選手だった師匠に弟子入りしました。フィジカルトレーニングを大切にしているラグビーのトレーニング手法を学んだのは貴重な経験です。当時のサッカーではフィジカルトレーニングは今ほど一般的ではなかったですから。「最適なもの」を考え続けるトレーナーとして大事にしているのは「その人やチームに最適なものは何か」を考えることです。相手は大分高校の選手、小さな子ども、健康な体づくりを目指す人、さまざまです。手当たり次第に目新しいものを薦めるよりも、その人の課題に向き合って役に立ちたいと思っています。それから、中学生や高校生にもなぜ今そのトレーニングが必要なのか納得してもらえるように、彼らに必要なトレーニングを「翻訳して伝える」ことを意識してます。とはいっても私はいつも全てを言語化できているわけではないので、「私が言ってることは100%正しいわけじゃないよ」とも伝えるんです。選手に自分で考える力をつけてもらうのもトレーナーの大事な役割だと思っています。インプットがある程度ないとアウトプットすることはできないので、こちらから知識を共有するという意図もあるんです。サッカー経験を生かしてトレーナーの仕事ができるのは強みだと思っています。サッカー経験がないトレーナーが「走れる選手」を解釈すると、持久力やスタミナがあって、高い心配機能や筋持久力が必要だと思いがちです。でも、サッカーで言う「走れる選手」って、最後までスプリントやコンタクトを高いレベルで繰り返せる選手であり、筋力や瞬発力、パワーが不可欠。サッカーを経験していないとわからないこともあるはず。嬉しいことに、トレーニングに関心を持ってる選手が増えているように思います。チームとして求められる量をしっかりこなした上で、自主練をフィジカルトレーニングに割こうとする子もいるんです。フィジカルトレーニングを取り入れるかどうかは選手の判断に任せていますけど、アドバイスさせてもらうこともあります。チームでのコミュニケーション選手とコミュニケーションをとるとき、サッカー以外のゲームや漫画の話を意識してます。サッカーとか自分が真剣に打ち込んでいるものについて「それって違うんじゃないの」って言われると受け入れにくいと思うんです。すすめられた漫画はできるだけ読んで、おもしろくなかったら「おもしろくなかった」と言います。サッカー以外の部分でいい関係性を作っていたら、サッカーに関することも意見をぶつけやすくなります。好きな人から自分と違う意見を言われてもある程度は聞きますよね。トレーナーと選手の距離感って、ケガなど個別の相談を受けることも多いため、指導者と選手よりも近いことが多いです。一時期、選手側に寄りすぎるのも良くないかもしれないと思って、少し距離とろうとして上手くいかないこともありました。指導者や選手との距離感はいまも試行錯誤しています。学生に向けたトレーニング指導は週に1回あって、指導者の先生方から「それはちょっと違うんじゃないか」と指摘してもらえるのはすごくありがたいです。違う考えも言い合えるのはトレーナーとチームの関係性がうまくいく証拠だと思ってます。フィジカルへの偏見を拭いたいやっぱり高校サッカーが好きで、さらに「自分のチーム」と言えるくらい深く関われている今の環境で幸せだなとか楽しいなと感じます。高校の試合で負けた時って、これだけ腹が立つことが普段の生活であるかってくらい感情を引きずるんですけど、それは醍醐味でもある。学生のサッカー選手を対象にしたトレーニング指導以外に力を入れているのが、小さい子ども向けの運動教室です。ご存知の方も多いと思いますが、サッカーに限らず色んなスポーツや習い事があります。でも、経済的な事情でそういう習い事に通う機会がない子どももたくさんいます。身体の力を伸ばす上ですごく大事なことは、小学生ぐらいまでの時期にさまざまな運動や遊び、スポーツを経験することです。サッカーでも身体能力は上がりますけど動きは限られています。私は競技スポーツをしている人たちへのトレーニング指導を広げるよりも、多くの子どもたちが体を動かして遊べる場所や機会を作りたいと思って活動しています。サッカーに関してはフィジカルトレーニングへの偏見を無くしたいです。よく「フィジカルに逃げるな」って言葉を色々なところで見聞きします。例えば、ゴールデンエイジとも言われるジュニアユース、ユース年代はフィジカルに逃げずにボールを使ったスキルを伸ばした方が良いという意見があるんです。それ自体は間違いではないですけど、速く走るとか転ばないようにぶつかる体を動かすことも重要なスキルです。トップスピードでのボールコントロールと、止まったままでのボールコントロールは別のスキルであり、スピードがある選手はそのスピードを発揮する中でのボールコントロールが伸びることが大切です。速い、強い、跳べる、長く走れるなどフィジカル的な特徴を発揮させながらスキルを伸ばしていく方が絶対に選手のためになります。フィジカルトレーニングは、器具を使ったウエイトトレーニングのイメージが強いのかもしれませんが、早く走るためのダッシュの方法やストップの方法を養うこともフィジカルトレーニングです。そういった ”フィジカルトレーニング” の捉え方も、今後ますます変わっていくことを願っています。