東日本大震災後の水戸で感じた絆- 震災当時より水戸ホーリーホックで指導を始められたということですが、どのような影響がありましたか? 震災後、ライフラインが全てストップし、クラブ自体も大きな被害を受けました。練習もままならず、施設も使えない状態が続きました。そんな厳しい状況下で、地元の方々のサポートが大きな力になりました。今思い返しても、あの時の支えがあったからこそ、今の水戸ホーリーホックがあると思います。- その支えが現在まで続く絆に繋がっているのでしょうか? はい。震災を通じて、水戸という街に対する愛着が強まりました。あの出来事がきっかけで、多くの方々に助けていただきました。それが私が水戸ホーリーホックに長く携わっている理由の一つです。この街の人たちに恩返しをしたい、という思いが常にあります。- 具体的に印象に残っているエピソードはありますか? 2011年の震災後、震災による被害を受けたスタジアムはボロボロでメインスタンドは使用できない、非常に厳しい状況の中でリーグ戦は再開しました。街中に震災の爪痕が残る中で、チームは「サッカーで日本を元気にする」という思いを胸に一丸となって闘いました。前半に先制点を奪われる苦しい展開になりましたが、選手達は最後まで諦めずに戦い、後半アディショナルタイムに逆転ゴールを奪い勝利に繋げました。試合後の周回の時にスタジアムのサポーターが涙ながらに「ありがとう」と選手達に感謝の思いを伝えていた光景は、今でも強く心に残っています。選手達が自分以外に誰かの為に闘う姿が人々の心を動かす瞬間に立ち会えたことが、指導者としてこの上ない喜びでした。ゴールキーパー育成における独自の指導法- 指導者としての哲学について教えてください。 選手一人ひとりの個性を引き出すことを大切にしています。ゴールキーパーは特に体の使い方が重要なので、選手それぞれの特徴を最大限に活かす指導が必要です。同じ方法で全員を指導するのではなく、その選手に合った方法で教えることが、成功への鍵だと思っています。そして、サッカーの枠を超えたトレーニングを行うこともあります。例えば、古武術や相撲から学んだ体の使い方をゴールキーパーの動きに応用しています。また、テニスやバレーボールの選手のフットワークも参考にしています。異なるスポーツの動きを取り入れることで、選手の視野を広げ、柔軟な動きを引き出すことができるようになります。- ゴールキーパー指導において、選手の特性をどう活かしているのですか? 私の指導方針の一つは、選手になるべく多くの武器を持たせてあげることです。じゃんけんをするときに「グー」と「チョキ」だけでは勝てる可能性は低くなりますよね。だから「グー、チョキ、パー」の選択肢を常に持たせてあげることが重要だと考えています。シチュエーションに応じて、どの技術や動きを使うかは選手自身の判断によりますが、そのためにはあらゆる場面に対応できる準備が必要です。例えば、どの場面でグーを出すのか、チョキを出すのか、それは試合の駆け引きや選手の特性によって異なりますが、私はその準備を整えることを重要視しています。選手が自分の特徴を活かし、柔軟に対応できる環境を整えることが、彼らの成長に繋がると信じています。- 影響を受けた指導者について教えてください。現在、南葛SCで監督をされている風間八宏さんが「自分がサッカー選手だった時に人と違うことをずっとやり続けていたら、僕は日本一のサッカー選手になっていた」とおっしゃっていました。これが私の指導哲学にも大きく影響しています。周りの人と同じことをしていても違いを見せることは難しい。選手たちには常に新しいアプローチを試みるように指導しています。- 先日、今季で引退を発表された本間選手とのエピソードについて教えてください。 本間選手は私が水戸ホーリーホックに来た時には既に34歳になるベテラン選手でしたが、その研究熱心さに非常に驚かされました。例えば、ダイビング一つにしても、どこの筋肉を使い、どのような意識で行うかを徹底的に考え、常により良い動きを追求していました。彼のこだわりの深さを間近で見ながら、私自身も指導者として多くのことを学びました。彼の動きは、私が持っていたゴールキーパーのイメージを遥かに超えていて、「こんな動きができるんだな」と感心させられることばかりでした。彼は引退を控えた今でも、本気で上手くなりたいと思っているし本気で上手くなれると思っていて、誰よりも負けず嫌いな選手だと思います。この姿勢は、私自身が選手たちを指導する上でも大きな影響を与えています。選手一人ひとりに「自分の限界を決めず、常に新しい可能性を追求する」ことを伝えています。スポーツが持つ「スポーツ力」とは- 「スポーツ力」という言葉の意味を教えてください。「スポーツ力」とは、スポーツによって人々が興奮、感動したり、スポーツを中心にコミュニティを形成し社会が活性化されたり、スポーツをすることで健康が促進されたりする、「スポーツが人々や社会に与える力」を表す造語です。私の恩師である萩原武久さんが教えてくれた言葉で、スポーツには人々の心を揺さぶり、社会にポジティブな影響を与える力があると考えています。- 水戸の街や地域との関わりについて、どのように考えていますか? 水戸はサッカーだけでなく、他のスポーツでもプロクラブが存在するスポーツが盛んな地域です。私自身も、サッカーの指導をするだけでなく、スポーツを通して地域全体を盛り上げていくことが目標の一つです。スポーツを通じて人々が集まり、街が活気づくような環境を作ることができれば、私にとっても大きな達成感があります。水戸ホーリーホックと共に、地域を盛り上げる手助けをしていきたいと考えています。- 今後の目標やビジョンについて教えてください。私の目標は、水戸ホーリーホックをJ1に昇格させることです。現在はJ2というカテゴリーにいますが、選手たちがさらに成長し、チーム全体が一丸となって上のステージへと進んでいけるよう、全力でサポートしていきたいと考えています。また、ゴールキーパーだけでなく、クラブ全体が高みを目指して進んでいくために、自分の役割を全うしたいです。