多角的にフットボールに携わってきたキャリア-田丸さんのこれまでのスカウトとしてのキャリアを教えてください。FIFAの試合映像等を観て、選手の能力値を可視化する仕事をパートタイムで始めるところからフットボールに関わり始めました。その後、Jリーグのアカデミーをコンサルする会社を経てファジアーノ岡山のアカデミーに転職しました。2019年にイギリスの大学に留学し、1年目から一貫してスカウト業務に携わり、4シーズン目になります。現在はイングランド2部のストーク・シティFCというクラブのアカデミーで16~21歳までの若手選手のスカウトと、スコットランド1部のマザーウェルFCでファーストチーム(大人)のスカウトを行っています。その他に、フットボールに特化した英会話を教えるRodansnapという会社でコンテンツ制作にも関わっています。移籍の意思決定をサポートするのがスカウトの役目-スカウトの道に進むことになったきっかけはありますか?イギリスに行く時には、チャンピオンズリーグに出るようなクラブでコーチか監督になりたいと思っていました。実際、最初の1年はUEFA Bライセンスを取得する意気込みで臨みましたが、同時並行でやっていたスカウトの方が楽しく、周りからも評価されたんです。グラウンドに試合を観に行ったり、選手の情報を様々な手法で集めたりする事が性に合っていたようです。そんな経験からスカウトの道に進みました。-スカウトは、具体的にどういった事を行うのでしょうか?スカウトと聞くと、試合を観たり、代理人と話す、というイメージがあると思いますが、そもそもの存在意義は「移籍の意思決定権を持っている人たちのサポート」にあると僕自身は考えています。意思決定をスムーズにするために必要な事は何でもしますが、その一例が視察であり、代理人とのコミュニケーションです。他にも、選手のデータベースの構築やリサーチも行います。最近ではマシンラーニングやビッグデータを活用した情報を取り寄せる事もあります。中でもリサーチは特に重要な業務です。どんなリーグ、どんなクラブ、どんな選手、という事を詳細化してクラブに提案しますが、あらゆる手法を使って情報を集めます。コーチに聞いたり、新聞を読んだり、ネット検索したりして集めた情報を整理していく事が大切です。日本の人にスカウトという仕事を知ってもらいたい-SNSで、ご自身の経験やお考えを積極的に発信されている意図はございますか?主な目的は日本の人にスカウトという仕事を知ってもらう事にあります。認知が高まり、スカウトになりたい人が増えると、そのニーズをクラブがキャッチして、スカウトの形も多様化するのではないかと考えています。現状はフルタイムで働く人がメインですが、例えば、アカデミー専門スカウトをパートタイムで雇用するといった形態もあり得ます。こういった広がりを通じて、今スカウトの目に留まっていない子供たちの選手としての可能性が開けると期待しています。-日本に比べて、欧州、特にイングランドはスカウトが盛んな印象があります。人口が集中しているロンドンのような都市では、スカウトの間で話題になる選手が、早ければ数週間でどんどん入れ替わります。センターステージを取る選手がものすごいスピードで変わる理由は、やはりスカウトの人数にあると思います。スカウトの数が少ないと、どうしても情報の新陳代謝も上がらないので、やはりスカウトの数を担保する必要があると強く感じます。イギリスはスカウトの数が日本と比べものになりません。多様なロールモデルがある事から、スカウトになりたい人が潜在的な層も含めて多い印象です。更に、スカウトをサポートするサービスも増えています。従来のデータや映像の提供だけではなく、ニッチなエリアの選手情報、アマチュアの若手選手の情報、選手の怪我の情報を手に入れる事も可能です。そういったサービスの後押しもあり、イギリスにおけるスカウト文化は豊かで恵まれていると感じます。-スカウトとして、やりがいを感じる瞬間を教えてください。埋もれていた選手がどんどん人目に触れ、目指していたプロという夢を叶える姿を見るのは自分の事のように嬉しいです。自分が見つけた選手が、たとえ他のクラブで活躍する事になってもやはり嬉しいです。選手を世に送り出せた瞬間がスカウトとしてのやりがいです。自らのステップアップとこれからのスカウト育成について-これからのご自身のステップアップやキャリアについてどのようにお考えですか?冒頭でも触れたように、スカウト業務以外にも、フットボール特化英会話のコンテンツ制作にも携わっています。日本の選手が海外でプレイする手助けをしたい、という思いももちろんありますが、指導者、分析官、スカウトといったスタッフにもどんどん海外に出て行ってもらいたいです。ピッチ上で選手が使う英語以上にスタッフが使う英語は複雑です。例えばフォーメーションの違い等を適切な英語で説明する必要があります。業界に特化した英語力を身に着ける事で、活躍のチャンスが広がる事を望んでいます。-スカウトとしての今後の夢や目標についてお聞かせください。スカウトとしては、私の活動を通して少しでもスカウト文化を豊かにして、後進の育成をしていきたいと思っています。自分がスカウトになった時は本当に情報がなく、手探りでした。今後は情報を整理して、スカウトを目指す人を増やし、業界をアップデートしていきたいです。そうする事で、クラブが本当に必要としている選手も見つけられるようになると思います。将来は移籍の意思決定権を持つポジションになりたいです。スカウトの提案は必ずしもクラブに受け入れられるわけではなく、最終決定までには何人もの承認が必要です。30代のうちに自分も選手移籍の決定権を持てるようになりたいです。それ以外は、繰り返しになりますが、自分が経験してきた事を失敗も含めて若い世代に伝え、スカウトの育成にも力を入れたいです。