「おもしろいな」好奇心に素直心理学を勉強することにしたきっかけは、元々すごく興味があったわけではなく、なんとなくおもしろそうだなと選びました。おもしろいと思うきっかけとして、その活動を楽しそうにしている人が身近にいることが重要なのかもしれません。研究の道を選んだきっかけも、大学1年生の時から「この先生、おもしろいこと言ってるな」と思っていた教授の方々にメールを送って研究室まで質問しにいくことを繰り返していたら研究への好奇心がわいてきたからです。今でもつながっている教授の方もいます。サッカーも研究も純粋に「この人かっこいいな!」と思った憧れの方たちを追いかけてきました。なので、自分にとって周りにどういう人がいるかが自分の好奇心を搔き立てるのに重要なのかもしれません。サッカーの指導を始めたのは大学入学した後です。大学ではプレーせず、プレーヤー以外にも指導者としてサッカーに関わることができると思って始めました。そう決めてから様々な講習会等に顔を出して、積極的に色々な方に話かけさせていただき、コネクションを作ることで、指導現場を持つことができました。なぜスポーツ心理学と文化を研究するのか研究内容は、簡単に言うとスポーツ心理学、文化心理学、モチベーションの3つの掛け合わせです。スポーツ心理学は研究分野として選手の心理に対する文化の影響はあまり注目されてきませんでした。ただ、サッカーだけでなく他のスポーツでも言えることですが、技術が高く、海外に挑戦したけれど文化に馴染めなくてすぐ帰ってくる選手が結構いますよね。こういう事例の解決案を考える時、文化の影響を考えることは妥当なのではないかと考えています。例えば文化によってモチベーションの上げ方、思考パターン等が異なる可能性があります。こういったことを選手、及び指導者の方々が共有することで、お互いの関係が良好になるのではないかと考えています。このような考えをもとに、私の研究テーマの一つは、スポーツ選手がパフォーマンスをどのように発揮しようとしているかが文化によって異なるのではないかということをを明らかにすることです。例えば、日本とカナダでのサッカー指導経験、それから心理学の研究を基にすると、試合に負けた時、どこに原因を求めるかに文化差があると考えています。ある理論では、ネガティブな経験をした時に何に原因を求めるかが文化的に異なることがわかっています。サッカーの文脈で話すと、カナダ人は負けた原因を外に求めがちで、相手が強すぎたとか運が悪かったと考える傾向があります。そうすることで、自分の自尊心を保つわけです。一方で日本人は、そういうネガティブな出来事が起こった時に、その原因を自分に求めて、自分たちは何が悪かったのかを考える傾向にあります。このように自分の指導経験と心理学の知識を考慮すると、どうやらスポーツ選手の心理面にも文化差が存在しそうだと考えています。ただ、こういった文化差を考慮しながらも、文化差に関わらずすべてのサッカー選手が持つべきメンタリティもあると思います。なので、文化差を尊重すべきこととサッカーをする上で誰しもが持つべきメンタリティの境界線を考えることが今後の個人的なテーマになっています。科学は社会のためにある現在は、研究と現場(サッカー指導とメンタルサポート)の2つの分野に身を置いています。研究結果を現場に広める機会を持つことで、現場の方々のお役に立てればと考えています。選手の方であれば、メンタルヘルスを保ちながら健全に選手として成長するためにはどうすればいいか。指導者の方であれば、どのように選手と関われば選手が健全に成長できるのか。という命題に寄与したいと考えています。一方で、現場に身を置くことで、研究のための新たな発見があることもあります。このように研究と現場に身を置くことで相乗効果の恩恵を受けていると考えています。科学、特にスポーツ心理学のような応用科学は直接的に社会をよくすることができると思っています。そういった意味でも研究と実社会の両方に関わっているのが自分の考えに沿った生き方なんだろうと思います。僕には自分が幸せになるために生きてるっていう感覚はあまりないのかもしれません。。大学には私より頭が良い人がたくさんいます。研究の世界では、論文の数と質で自分が評価されます。自分よりもすごい研究者がいくらでもいるのもわかっていますし、論文を出したから幸せになるというよりはホッとした気分になることの方が多いかもしれません。。指導もきっと巡り巡って自分のためにしてることになりますが、自分が幸せになるために指導しているかと言われると少し違うかもしれません。とはいえ、サッカー指導をしていて嬉しかったことはありました。北海道大学を卒業してからイギリスの大学に進学するまでの間、母校でサッカー指導を経験したんです。色紙は、基本的に定型文のようなメッセージが多い印象なのですが、最後に選手から貰った色紙を見た時、私と選手個々人の間の会話やストーリーが書いてありました。それまで、選手が立てたチームの目標を達成するために自分が個々人の選手とどうコミュニケーションを取るべきかを思考錯誤していたので、そういった思考錯誤が報われた気がしました。「2足の草鞋」で進みたいこれからも研究と現場の2つをできるだけ両立させたいです。研究のみに従事していると段々と社会との繋がりも薄くなって、何のために研究しているのか個人的に時々わからなくなってしまうことがあります。とはいえ、現場の活動だけしていると最新の情報をキャッチできなくなりますし、自分の考えが正しいかを検証する機会も限られてしまいます。研究者の評価軸と指導者の評価軸っていうのは全く違うのですが、今後も研究と現場に関わることが目標です。研究をしながら社会と繋がっていけるように、これからもできるだけ研究と現場にい続けたいです。いよいよ今年(2023年)卒業する予定ですが、現在の活動を続けられるかわからないところもあります。これからに関しては卒業間近ということもあり、将来こうしたいというよりも、まずは地に足つけて、やりたいことをし続けられる環境に身を置けるよう仕事を見つけることを優先したいです。