『BOS理論』で読み解く現代サッカー──守備と攻撃の境界線を曖昧にする新常識「ボールにオリエンテーションする」──欧州の現場で練り上げられたこの思想は、従来の守備概念を一変させた。日本にもその影響は静かに、そして着実に広まりつつある。本稿では、『BoS理論(Ball Oriented System)』を軸に、河岸貴氏によるKiot Camp、酒井高徳選手の体験、そして育成年代の観察まで、現代サッカーにおける守備と攻撃の連続性、育成へのインプリケーションを5つの視点から深く探る。BoS理論とは?──「ボール中心」の再定義BoS理論(Das Ballorientierte Spiel:ボールにオリエンテーションするプレー)は、その名の通り「ボールにオリエンテーションする」思想に基づく戦術哲学だ。従来の守備はスペースを管理することが主眼だったが、この理論では「ボールのある場所がすべての判断基準」となる。結果として、守備も攻撃もボールを中心に展開され、攻守の切り替えが極端に短くなる。この哲学は、河岸貴氏がドイツ・VfBシュトゥットガルトで育成年代からトップチームに至るまで指導を重ねる中で、実体験として体得してきたもの。ボール非保持編は書籍として、ボール保持編はFootball Channelさんにてコラム連載としてそれぞれ発信している。『BOS理論 -ボール非保持編-』はこちら『BOS理論 -ボール保持編-』はこちら日本は甘い?プレッシングの本質は「パスが出ない三角形」%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FYGelEy_PR4A%3Fsi%3DL_SmFVXnoTgsv0lU%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E2024年のシーズンオフに実施されたKiot Campでは、BoS理論を元に自身が代表を務めるサッカーコンサルティング会社 Kiot Connectionsにてエージェントを担当している若手Jリーガーに徹底指導。BoS理論の実戦的な応用に踏み込む時間となった印象的だったのは、プレッシング理論のセッション。河岸氏が「日本とドイツの守備意識の違い」を浮き彫りにした。「日本では“寄せて止まる”守備が一般的だが、ドイツでは“寄せ切る”。守備で最も重要なのは“相手にパスを出させない状況”を作ること。BoS理論では“パスが出ない三角形”を描くことが大事だ」この“パスが出ない三角形”とは、守備者がボールホルダーとの互いの距離感とタイミングを調整し、パスコースを封じるように対峙することで、ボールホルダーに圧をかけながらも次の選択肢を消し去る状態を指す。選手たちは、「どこに立てば味方と連動してパスコースを消せるか」「どのタイミングで寄せれば相手を迷わせられるか」といった思考を繰り返しながら、守備を“行動”から“設計”へと昇華させていった。「プレッシングとは、ただ走るだけではない。『誰が』『いつ』『どこに』寄せるのか、それが組織として共有されていなければ意味がない」と河岸氏は語り、BoS理論の根底にある“判断の共有”を強調した。酒井高徳が語る「守備の哲学」──BoS理論が変えた視点%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FVTV_alVWytY%3Fsi%3Dk0SGmxECVT9zNBJk%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E酒井高徳選手は、BoS理論を日本のトップレベルで体現する第一人者だ。21歳で渡独し、VfBシュトゥットガルトやハンブルガーSVでの経験を経て、彼は守備に対する意識を根底から刷新された。「守備は攻撃の起点。ボールにオリエンテーションして、どう奪うかではなく、どこに追い込むかが大事」。この視点の変化は、BoS理論の最重要ポイントのひとつである。ヴィッセル神戸での彼のプレーには、ボールに寄せていく守備が前提としてあり、味方と連動したいわゆる “ハメる守備” が随所に見られる。守備のタイミング、距離感、プレッシングのスイッチ──これらを全選手がチームの共通認識として持つことで、BoS的な陣形が形成されていた。また、育成年代に対する発言でも「パス回しの巧拙よりも、ゴールに直結するプレーの意志が重要」と語る酒井選手。ここにもボール保持時のBoS的な “ゴールに向けた直線的意図の共有” が色濃くにじむ。BoS理論こそ、日本のスタンダードにBoS理論は、戦術ではなく思想であり、身体と言語、感覚と構造を繋ぐ橋渡しだ。指導者が選手に伝えるべきは、「なぜそう動くのか」「なぜそこに立つのか」という問いかけであり、その思考の習慣こそがBoS理論の最大の成果だ。日本サッカーが次なるステージへ進むには、ボールの周囲で思考をめぐらせ、行動できる選手と指導者の存在が不可欠だ。守備と攻撃の境界線を、あえて曖昧にするBoS理論。その“問い”のあるプレーが、日本サッカーを次のフェーズへ導いてくれるだろう。▼あわせて読みたい!日本サッカーに必要なBOS理論「あと1mmを突き詰めろ」現役Jリーガーによるオフシーズンキャンプ密着【前編】「日本の基準だと甘い」正しいプレッシング理論の理解と自己判断力の鍛錬を【後編】「より効率的にゴールを奪う守備は...」酒井高徳の守備概念を変えた『BoS理論』「高校サッカー決勝を見て感じたのは...」酒井高徳が語る、『育成年代の現在と未来』