部活動地域移行とは単に部活動を廃止しようという動きではなく、公立中学校の運動部を中心に、部活動を民間事業者や地域のスポーツクラブに徐々に移行していくという動きです。まずは休日の部活動指導から民間事業者や地域のスポーツクラブへの委託を進め、2025年度末までの実現を目指しています。今回は、部活動地域移行への意向を文部科学省やスポーツ庁が示した背景を考え、現行の学校教育における部活動になぜ転換期が訪れているのかを記述します。部活動地域移行に向け、動き出した背景2022年6月6日 スポーツ庁の有識者会議は、中学校の部活動を地域のスポーツクラブや民間団体などに移すための対応策をまとめた提言をスポーツ庁 室伏広治長官に提出しました。さらにこの提言を受け、スポーツ庁 室伏広治長官は「地域移行を前に進めるため、一層の連携を図って取り組みたい」とし、7月26日 公立中学校の運動部における部活動休日指導を地域に移行するため、日本スポーツ協会に協力要請を出しました。(参考:“部活動の地域移行”は教師の負担軽減につながる?そこには課題も)この提言では、”学校教育の一環として行われる運動部活動は、異年齢との交流の中で、生徒同士や教師と生徒等の人間関係の構築を図ったり、生徒自身が活動を通して自己肯定感を高めたりするなどの教育的意義だけでなく、参加生徒の状況把握や意欲向上、問題行動の発生抑制など、学校運営上も意義があった。”(引用: 運動部活動の地域移行に関する検討会議 提言)と記されていますが、第一に『少子化』、第二に『教師の長時間労働』が主な原因となり、本来の部活動のスタイルは限界を迎えているのです。日本の学校教育における文化とも言える "部活動" が迎える大きな転換期。この国の働きかけに、我々Footballcoachは一つのソリューションとして『指導者養成プログラム』(記事公開後リンク挿入)にチャレンジしています。本気でスポーツを楽しみたい生徒たちが満足できる環境を。部活動地域移行の背景の一つとも言える、少子化問題。公立中学校の生徒数が、1986年に比べ2021年はほぼ半分になっているというデータが出ています。そして、これだけが部活動地域移行への背景となっている訳ではありません。重要なのは公立中学校の生徒数が減少しているのに対して、部活動の数が減っていないということ。つまり部活動に入ったはいいものの、部員数が少なすぎて試合や活動を思うように行えない生徒が出てきているのです。これは、現状の運動部における大きな課題となっています。(参考:スポーツ庁シンポジウム、部活の地域移行で「日本のスポーツ」が一変する訳 運動部活動の検討会議、提言案の実現に課題も)本気でスポーツを楽しみたい生徒たちが満足できる環境が整っていないのは、スポーツを辞めるきっかけにもなりかねない。こういった課題への解決に向けた動きとして部活動地域移行が有効でないかと考えられています。部活動を民間事業者や地域のスポーツクラブに移行することで、中学校単位よりも広い範囲でのチーム編成が行えるため、上記のような "選手の人員不足" の解消が期待されています。 現在の公立中学校の部活動は部活動への参加を義務付ける学校も存在し、生徒の主体性や自主性に沿ったものとは言えません。部活動地域移行が進むことで、子どもたち自らに "スポーツの楽しみを味わう選択" を与えることをスポーツ庁は目指しているのです。(写真:2022年5月28日 島根県雲南市にて開催した澤村公康氏によるサッカースクールの様子)部活動地域移行で教師の負担を減らし、学校教育の質向上にまた、教師においても部活動地域移行が "労働負担の軽減" といった役割を担うと期待されています。OECD(世界経済開発機構)の2018年調査によると、日本の中学校教師の仕事時間は週に約56時間とされていてOECD参加国中では最長の仕事時間とされています。さらに、教職員としての職能開発活動に費やす時間は参加国中最短とのデータが出ています。(参考: 我が国の教員の現状と課題 – TALIS 2018結果より –)つまり、教師のメイン業務とされている授業計画や改善・教育の質向上の時間を部活動の指導に費やしているということになります。中には自らが競技経験のない中、人員調整のために部活動の顧問として配置されるケースもあり、"望んでいない部活動顧問" が生まれてしまうこともあります。平日授業後の部活動指導はもちろん、休日の引率や大会やリーグ戦などの運営への参画が求められるなど、教師にとって大きな業務負担になっている実態があります。実際、教師たちの間でも休日の部活動への参加義務や労働時間超過、保護者からの部活動へのクレーム対応に追われるなど嘆きが多くなってきています。こうした、教師の負担を部活動地域移行が軽減できる余地があると考えられているのです。教師は学校での授業準備や担任クラスの業務に重点を置くことができ、これまで以上に教育現場において教師に求められる業務に割く時間を増やすことができます。2022年6月6日に公開された東洋経済education x ICTの記事によると、スポーツ庁『運動部活動の地域移行に関する検討会議』座長で日本学校体育研究連合会会長の友添秀則氏は「もう倒れそうだという先生だけでなく、部活動指導が大好きという先生でも状況を変えたいと考えている」と述べています。部活動指導を目的に教職に就いた教師であっても、早急に現状変化への訴えを投げかけています。部活動地域移行を国が検討し、実現に向けて動き出した背景としては主にこのような2点が関係しているのです。世界でも類を見ない日本独自の部活動のあり方とこれからの姿そもそも日本で部活動が誕生したのは、明治初期。当時来日した外国からの教師や将校が学生にスポーツを教えたことが由来となっています。(参考: 運動部活動の成立過程と取り扱いの変遷)以来、日本の教育やスポーツにおいて ”部活動” はある種文化として普遍的なきものとして存在してきました。しかし、この部活動は世界的に見ても非常に稀有なスタイルで、日本独自のものといえます。ヨーロッパやアメリカでは、日本のように生徒が特定のチームのみでスポーツをするという文化がなく、平日の放課後に毎日練習を行う部活動のようなものも存在していないことが多いのです。さらに、アメリカの場合はさまざまなチームと掛け持ちする生徒も多く、スポーツがシーズン制で行われるため日本の部活動のように一年中同じチームで活動することがありません。このような世界の “スポーツを楽しむ文化” には、閉鎖的な側面がなく生徒も教師も縛られない環境があります。(参考: 1つの組織に専属しない、アメリカの部活動から日本が最も学ぶべきこと)上述の通り、現行の部活動は『少子化によるチーム編成の偏り』『教師の長時間労働』といった主に2つの課題を抱えており、部活動地域移行の必要性が増しています。。一方で、部活動が日本の教育現場において担ってきた重要な役割や布石には触れつつ、誰もがスポーツを楽しめる環境をさらに増やしていくためにこれらの課題解決が望まれます。部活動地域移行がもたらすメリット・デメリットとは?部活動の地域移行の最前線!成功事例から読み解く未来の可能性元サンフレッチェ広島GKコーチ 澤村公康さんによるサッカースクールを開催しました【島根県雲南市】「目的を明確にし、楽しみを与える」有望選手を輩出し続けるスペイン人指導者が訴える、"指導者としてのあり方"