スポーツ庁が中心となって2025年度末までの実現を目指す部活動地域移行。従来の部活動の形を変える、改革ということもあり、当然メリットとデメリットがそこには存在しています。今回は、部活動地域移行実現に向けての国の取り組み方針・さらには部活動地域移行におけるメリットや課題に焦点を当てて記述します。部活動地域移行運動部活動の地域移行に関する検討会議提言によると、まずは休日の運動部部活動から地域移行に向けてスタートしていくと記載されています。令和五年度の開始から三年後の令和七年度末を目処に、地域におけるスポーツを楽しむことのできる環境の機会創出と、さまざまな種目を楽しみたい生徒のニーズに合った活動機会を充実させる狙いだそうです。公立中学校の運動部を中心に、部活動を民間事業者や地域のスポーツクラブに徐々に移行していくこの流れは、もちろん国主導では動くものの現状部活動を実施している公立中学校や自治体、部活動を受け持つことになる民間事業者や地域のスポーツクラブなどさまざまな組織が連携して進めていく必要があります。『部活動地域移行の背景』でも述べたように、これまでの当たり前とされていた学校での部活動の形が変革期を迎えようとしており、学校で部活動を行うにあたって課題となっていたものが少しずつ改善されようとしています。これまでの日本の教育文化が迎えた変換期運動部活動の地域移行に関する検討会議提言を軸に、政府は令和四年度約14億円の予算案により大きく分けて二つの取り組みを事業として推進していく方針を固めました。第一に、『地域における新たなスポーツ環境の構築に向けた整備』です。これは全国各地に拠点を構え、令和五年度から開始する休日の運動部部活動地域移行に向けた実践研究を実施するというものです。民間事業者や地域のスポーツクラブなどが部活動の受け皿となることで新たに懸念される費用面の負担問題や指導者の確保に対する策を考えるために、2億2900万円を注ぎ込み『地域運動部活動推進事業』と銘打って検討されることが話し合われました。また、部活動を担当する教員に代わって引率、指導する部活動指導員の配置支援には10億8000万円を投じ、検証されています。第二に、『子どもにとって望ましい大会の推進』です。競技思考ではない子どもたちにとっても成果発表になりうる場所として新たに大会を新設したり、地域スポーツ活動に参加する子どもたちも参加できるようなニーズに合った大会を増設する際の自治体への補助なども行っています。このように、国が大きな予算をかけてまで行うべき大改革として部活動地域移行は進められているのです。こうした取り組みを行う中、メリットとデメリットも同時に浮き彫りになっています。部活動地域移行がもたらすメリットは、"教師の負担軽減" と ”保護者の金銭面"国が進める部活動地域移行は、いくつかのメリットが考えられています。まず一つ目が、教師の負担軽減です。現在の、部活動ではその学校に勤める教師が時間外活動として顧問を担当することがほとんど。もちろん、部活動の顧問として指導したい教師もいるがその反面、いわば "人数合わせ" のような名目で経験も知識もない競技の顧問に学校側から当てられることもしばしば。教師の第一優先事項である、授業への準備や担任クラスにおける業務などをこなした上で時間外業務として部活動の指導が入るのは大きな負担として声を上げる教師も増えてきています。部活動地域移行が進んだ場合、こうした教師の負担は地域のクラブチーム指導者や事業者に属する指導者に委嘱されるため「教師としての本来の職である授業準備や担任業務に全うしたい」という教師には追い風となることが考えられます。二つ目が、専門知識を持った指導者による指導の質向上です。前述にもあるとおり、これまですべての部活動において経験のある指導者が受け持ってきたとは限りません。「本気で技術を上げたい。」「より高いレベル指導を受け、大会や試合を通して競技としてレベルアップしたい。」と意気込む選手たちが求める指導の質を提供してくれる指導者が少ないというのも現状です。こういった現状を打破するのもまた、部活動地域移行であると言われています。また部活動の指導を続けたい教師に関しても、外部から委託される形で費用が発生しながら指導を継続できる可能性もあります。望まない指導者からの指導を望む子どもたちはもちろんいない。指導者にとっても、子どもたちにとっても互いにwinwinの関係性を構築するのは最重要事項です。(写真:2022年8月7日 島根県雲南市にて開催した澤村公康氏による指導者講習会の様子)このようなオフラインでの指導者講習会開催とともに、オンラインを活用しての指導者講習会も積極的に行なっております。2023年からは東京都世田谷区様とともに、オンラインでの指導者講習会の機会も創出しています。サッカーだけでなく文化部の指導者の方々にもご参加いただき、指導者の心得や生徒たちへの振る舞い方などを一緒に考える時間となっています。(詳細:『部活動指導員養成プロジェクト』を通して、自治体さまの部活動地域移行における課題にアプローチ。))保護者の金銭的負担への懸念部活動地域移行において、課題となっているのが『保護者の金銭的負担』。これまでの部活動は、教員が 労働時間内”として部活動の指導を行っていたため、保護者による部活動自体への金銭的負担はほとんどないに等しいと言えます。しかし、外部に委託する形になるため部活動を指導する指導員に対してはしっかりと対価が支払われる体系に変化します。”スポーツはただ” という認識を徐々に払拭していかなければならないのです。2022年6月6日に公開された東洋経済education x ICTの記事によると、スポーツ庁『運動部活動の地域移行に関する検討会議』座長で日本学校体育研究連合会会長の友添秀則氏は「日本で定着している『スポーツをするのは“ただ”』という意識を転換し、地域のスポーツ指導者を職業として確立しなければならない」と強調しています。教員の部活動への負担を減らす目的かつ、本気で指導したい教員や指導者の新たな “金銭が発生する雇用の創出” が期待されるだけに、これまでよりも金銭的負担が保護者にのしかかるということです。現状、実証実験の対象となるスポーツ団体では会費のみでは指導者の給与を十分に賄うことはできないとしているのもあり、長期的にいかにしてスポーツ団体の運営をおこない、その財源をどうするのかが今後の課題となりそうです。(参考:スポーツ庁シンポジウム、部活の地域移行で「日本のスポーツ」が一変する訳 運動部活動の検討会議、提言案の実現に課題も)指導者の質と量の担保に難あり?上記の、保護者の金銭的負担と同じく部活動地域移行の課題として挙げられているのが “指導者の質と量の担保” 。運動部活動の地域移行に関する検討会議提言によると、「公益財団法人日本バスケットボール協会では、多様なニーズに対応できるコーチを一貫したシステムにより養成し、その指導力の向上を図ることや、コーチの位置づけと役割に応じたコーチライセンス認定を行い、社会的信頼を確保することなどを目的にコーチ養成講習会を開催している。 」と記載されています。これまでの部活動においては上記にもあるとおり、競技経験のない教員が穴埋めとして知識が皆無に等しいスポーツの顧問に任命されるケースがありますが、バスケットボール協会の例のように、その競技に精通した指導者がチームを担当することで指導者の質という面では課題を大いに解決できると考えます。このような ”指導者の質” 問題と同様に、 “指導者の量” 問題も同時に解決していかなければなりません。指導者の確保等については、スポーツ庁の「地域運動部活動推進事業」を活用するなど、先進的に取り組んでいる地域があります。また、部活動指導員の活用やこれまで通り競技の指導を行うことを望む教員が指導に当たっているもの、外部のスポーツ団体や大学からの指導者派遣など地域によってさまざまです。特にこの問題に対して、我々がチャレンジしている『指導者養成プログラム』(公開後記事リンク挿入)は、大きなソリューションになり得ると考えています。さまざまなカテゴリーで指導する指導者、有資格を持った指導者を多く抱えている我々が今後『指導者の質と量の担保』という課題において寄与することは、部活動地域移行にとって必要なアクションです。引き続き、サッカー指導者の方との意見交換を行いながら今回焦点を当てた『部活動地域移行における課題』への解決策を探っていきます。部活動が廃止?! 部活動地域移行の背景に迫る部活動の地域移行の最前線!成功事例から読み解く未来の可能性『部活動指導員養成プロジェクト』を通して、自治体さまの部活動地域移行における課題にアプローチ。