自分が点を取ってチームを勝たせる。そんなストライカー像に、多くの人が「エゴイスト」というラベルを貼る。けれど、それはただの自己中心的なプレースタイルを意味するのだろうか?この言葉には、単なる“利己主義”を超えた、勝利への執念や信念が込められているのではないか。田中順也の言葉から始まったこの探究は、「育てられるエゴイスト」という命題に対し、現場の声と実例をもとに一つの仮説を提示する試みだ。日本の育成現場における“個性”と“結果”の関係を、リアルな対話や経験に根ざしてひも解いていくことで、指導者や選手、そしてその両方を目指す人々にとってのヒントを提供できればと考えている。遠回りに見える道の先で育ったエゴイスト横浜F・マリノスユースで歴代最多得点を挙げながらもトップ昇格を逃し、筑波大学で再スタートを切った内野航太郎。その内に宿るのは、「自分のゴールでチームを勝たせる」という明確な意思だ。彼が語る“ゴールへの執着”は、大学サッカーという土壌の中でより強く、鋭く育まれていった。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fs57n-ixChmk%3Fsi%3DV_7843QVXlohVxdC%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E「大学の方が自分にフォーカスできた。自分の武器を見つめ直す時間があった」と内野。プロへの近道ではなかったかもしれないが、その4年間は“自分の中のエゴ”を磨き上げるのに必要な時間だった。自分に正直でいることが許された環境が、彼の「決める」という感覚を深めていったのかもしれない。その経験は、進路に悩む若手選手にとって、必ずしも“即プロ”が正解ではないという、もう一つの選択肢を提示してくれる。指導者の視点が変わると、選手も変わる現FC岐阜アカデミーダイレクター・田中順也もまた、自らがエゴイストとして活躍した一方で、その経験を育成現場に落とし込もうとしている。鍵となるのは「個別対応」と「信じる力」。恩師・生方修司氏との対話から浮かび上がるのは、型にはめず、個性を見抜き、選手の“やりたい”を尊重する指導のあり方だ。生方氏の言葉「キラキラした目を育てることが指導者の仕事」は、すべての始まりと言える。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FwDlSgWNw8QU%3Fsi%3DHYoeu6EX6xZDB01D%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E一人ひとりの選手と向き合い、彼らが何にワクワクするのか、どんな瞬間に一番輝いているのかを見逃さずに引き出す力。それこそが、エゴイストの土壌を耕す第一歩になるのだろう。ジュニア年代で「打っていい」という空気を与えられた田中は、のびのびと左足を振り続けた。その積み重ねが、後の“ゴールに執着するフォワード”を形づくった。自信のない子に「打っていいんだ」と思わせる、そのひと言が、未来のゴールゲッターを生むのかもしれない。エゴイスト =「繊細な表現者」?田中と鄭大世の対話では、エゴイストという概念に新たな視点がもたらされる。自信満々で突き進む“王様型”とは対照的に、彼ら自身は「認められたい」「存在を証明したい」という不安から、ゴールに執着していたという。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F7kFJYiq82_Y%3Fsi%3Dm__qu4eYC7b5eFhr%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E鄭は語る。「自分が点を取らなければ、価値がないと感じていた」。それは、強い意志というより、繊細な感情の裏返しだ。チームの期待、観客の視線、成績表に刻まれる数字——それら全てが自分の存在を肯定してくれる証だと、信じたくなる時期がある。つまり、エゴイストは“自分を信じ抜いた結果”ではなく、“自分を守るための衝動”から始まることもあるのかもしれない。そしてそれは、悪いことではない。むしろ、その衝動を認め、どう昇華していくかが、選手としての成長に直結していくのではないだろうか。指導者が「エゴイストを育てよう」とする危うさここで重要なのは、田中と鄭の言う「エゴイストは観る人が作る」という言葉。エゴイストを育てようとするあまり、「型」を押し付けてしまえば、かえって選手の個性を奪うことにもなりかねない。本来、エゴイストとは「ゴールに貪欲であること」「自分の判断を信じること」から自然と生まれるもの。だからこそ、指導者はエゴイストを“作る”のではなく、選手自身がその状態に辿り着けるよう“環境”を整える必要があるのではないか。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FB6BeDEJQ3Dg%3Fsi%3DyiA_ViAyglZlfB8C%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3Eクロスのタイミング、シュートの間合い、球際での判断。すべてを言語化して伝えることで、選手は迷わず、思い切りプレーできる。その結果、彼らは“自分の判断で打てる”存在=エゴイストになっていくのだろう。そしてその過程では、選手自身が「打っていいのか」「今の判断は間違っていないのか」と迷う瞬間が必ずある。だからこそ、その迷いを消してあげるのが、指導者の最も重要な役割なのではないかと感じる。「育てられるエゴイスト」──その仮説とこれから田中順也が語る「次世代に世界で戦えるストライカーを」という想いは、ただゴール数を求めるのではなく、“自分を貫く強さ”を持った選手を増やしたいという願いに他ならない。そのために必要なのは、“我慢”ではなく“解放”。失敗を恐れず、打つことを躊躇せず、自分の判断を信じること。そして指導者がその選択を認め、支えること。その繰り返しが、結果として“点を取る”という選択肢を躊躇なく選べる選手を生み出すのかもしれない。「育てられるエゴイスト」は、決して作為的な育成ではなく、自由と信頼に満ちた環境の中で“自然と芽吹く個性”なのかもしれない。それは押し付けではなく、引き出す力。管理ではなく、解放。これが、今の時点での一つの仮説である。企画はまだ続く。だからこそ、これからも現場の声と向き合いながら、問い続けていきたい──“育てられる”とは何を意味するのかを。そしてその答えは、一つではないのかもしれない。筑波大学から世界へ。エゴイストが貫く“ゴール”への執着エゴイストは育てられるのか?田中順也が恩師と語る"個性"と"指導"のリアル「ゴールを決めることだけが自分の価値証明だと思っていた」田中順也と鄭大世が語る『エゴイストの真髄』