ブンデスリーガの名門クラブ RBライプツィヒ。U15 フィジカルコーチとして指導する荒岡修帆さんに聞く「育成年代におけるフィジカルコーチの役割」とは?本記事は、2023年5月27日に開催された『【encounter x Footballcoachコラボ企画】サッカー育成年代のフィジカルコンディショニング~チームにおける傷害予防とトレーニング~』をもとに一部抜粋してお届けします。傷害予防における第一の目標は「ユース年代以降の長期離脱を防ぐこと」U-15における傷害予防の中でも僕が特に意識している点は、ユース年代以降の怪我を防ぐこと。子どもたちだとまだまだプロフェッショナルとしての心構えを持ち合わせている選手が少ないので、そういった選手がキャリアにおける重要な時期であるユース年代において、大きな怪我で長期離脱をしないよう、心がけています。義務として強制するのではなく、選手たちとコミュニケーションをとりながらやりたいようにやらせる方法をとっています。自身で判断した結果として症状が悪化した際には、選手にケアの重要性を気づいてもらえるように指導しています。こういった指導をすることで、選手たちの年代が上がっていきユース年代になった頃には自分の問題への解決方法を考えることにつながったり、問題が大きくなった時に相談した方がいいのかなどといった判断もできるようになっていきます。必要な時に必要な助けを求められる選手になっていくように指導するというのが僕の目標です。また、こういった選手の傷害予防と並行してパフォーマンスアップも目指さなければなりません。『パフォーマンス=どれだけ短い時間で大きな仕事ができるか』だと定義した際に、傷害予防とパフォーマンスアップが必ずしも同じ線路上にはないと考えているので、サッカーという90分間のスポーツの中で、高いパフォーマンスを発揮することと、傷害予防を両立させるための最適解を探っていく必要があると考えています。フィジカルコーチの役割として、僕の中では最も大切にしている部分がコミュニケーションです。選手とのコミュニケーション、指導者とのコミュニケーション、そして保護者とのコミュニケーション。チームに所属しているフィジカルコーチとして、最終的に全ての責任と決断を負う監督を手助けする存在であるべきだと思っています。例えば怪我人が出た時、「このプレーヤーはこういう状態だから、これだけのことはやってもいい」というような状況におけるコミュニケーションの中でも言葉の定義がしっかりできていると、指導者間のミスマッチも減ります。常に僕がピッチ上にいるわけではないので、選手のプレークオリティをテクニカルやタクティカルな視点以外の疲労やパフォーマンスの質といった視点から指導者とコミュニケーションを取ることで、指導者の目を養っていくための役割も担っていると認識しています。フィジカルトレーニングの範囲と考案するステップフィジカルトレーニングの範囲として、基本的にはサッカーのトレーニングでは扱えないことをフィジカルトレーニングとして別枠で行う必要があり、その上でサッカーの時間を削るだけの価値があるものでないといけないとも思っています。そういった認識のもと、サッカーという複雑なスポーツの中で改善しにくい走りや方向転換、シュートモーションのようなものを取り出して動作として改善していくトレーニングが必要です。サッカーのトレーニングから複雑さを削ぎ落とした、単調とも言える動作に限った改善などを行うものとして、フィジカルトレーニングは存在しているのだと考えます。そういった一つずつの動作レベルを上げることは、試合を決める瞬間のパフォーマンスを発揮する準備として捉えることもできます。トレーニングメニューの考案で、大事にしているステップは①ピッチ上で欲しいものは何か②サッカーのトレーニングで扱えるか③どの程度サッカーから切り離す必要があるかの三点です。サッカーの中では改善しにくいアクションを取り出してフィジカルトレーニングとして行うというのが僕の方針ですが、もちろんサッカーの中でできるのであれば、それをサッカーのトレーニングとして扱うことが最適だと考えています。またどれだけくっつけて行うべきトレーニングなのかは、トレーニングメニューを考案するプロセスとしてとても重要視しています。フィールド上のトレーニングを考案する際に考えることとしては、『選手はどんなコンディションなのか』『それが試合の後なのか、試合前なのか』『前日のトレーニング強度はどのようなものだったのか』ということ。こういった情報を頭に入れた上で、この状態で改善したいアクションを洗い出し、さらにはそのアクションでキーになる動作は何なのかを考え、その動作のためのドリルやそのドリルを効率化させるアクティベーションなどを決めていき構築しています。こういった切り離して考えたものを最終的には、繋ぎ合わせてサッカーの状況に繋げていくというプロセスです。選手との信頼関係が怪我予防に影響する育成年代を指導する際に、大事だなと思ってるのは『一番最初の小さなリアクションを見逃さない』ということです。まず選手たちへ身体の各部位に対するエクササイズをインストールすると、それぞれの選手にルーティンが生まれてきます。その上でセルフケアの時間を与えた際に、他の部位に対するエクササイズを入念に行っていたり、普段のルーティンとは異なる様子があった際に、見逃さずにコミュニケーションが取れる状態でいることを大切にしています。特に育成年代の選手が一番考えていることは、『試合に出たい』ということだと思っています。怪我を理由に、試合や練習から外されることが嫌だと考えていることを前提とした上で、選手とフィジカルコーチの信頼関係がしっかり築けているのかはとても重要です。怪我の予防という観点でも、選手が痛みや『いつもとちょっと違うな』と感じたときに隠さずに相談できるか否かでその先の対応が大きく変わってきます。『ちょっと話してみようかな』と選手が思えるような存在でいることも、フィジカルコーチとしての非常に大きな役目だと感じています。独クラブ所属フィジカルコーチの挑戦「その人を輝かせる意志を育てたい」