イングランド二部 ストーク・シティFC、スコットランド一部 マザーウェルにてスカウト活動を行う田丸雄己さん。トレンドが移り変わるモダンフットボールにおいて、プロの世界で求められる選手の能力も変化します。 『プレミアリーグで輝きを見せる、三笘選手や冨安選手が何故輝けるのか?』イングランドの地でスカウト活動を行ってきた田丸さんのノウハウを徹底公開していただき、将来有望選手の定義から紐解いていきます。今回は、この企画より一部抜粋してお届けします。イングランドのスカウトは、どこをみているのか?イングランドでは、8歳~15歳までと16歳以上で大きく二つにスカウトが着目することが変わります。8歳~15歳までの選手を見る場合、今のフットボールに大きく当てはまる基礎テクニックの部分を指標をもとに重要視します。僕自身も14-15歳のスカウティングを中心に行なっていますが、どのポジションでも言える共通する部分を見て、その中でポテンシャルとしての身体能力やボールフィーリングを見ています。成長期を終えた16歳あたりからは、ファーストチームと変わらないようなスカウティングなります。その選手のパフォーマンスや試合での結果が特に重視される印象ですね。ポテンシャルよりも、『今現在どのくらいのパフォーマンスレベルか?』『チームにとっての戦力になるか?』が大切です。アカデミーの年代ではファーストチームとは違って、他のチームに所属しながら自チームのプレトライアルに呼ぶこともイングランドでは可能です。プレトライアルとはよく『タレント確定のフェーズ』とも表現されるのですが、クラブが主催するトレセンのようなもの。そこに呼んだ選手の中から、実際にオファーの対象かどうかを見極めていくという流れですね。イングランドの全てのクラブに当てはまるものなのですが、細かく分けると四つの部分で選手を評価しています。『ハイインテンシティの運動下における、ハイクオリティなスキル』というのが、イングランドで活躍する特徴だということもリサーチで出ているんです。あくまで一つのクラブのやり方ではありますが、そのために必要な要素としてこちらの四つが理想的な選手像として存在しています。WGとSBで見る、ポジション毎のスカウティングここからはポジション毎で見ていきたいと思います。後に三笘選手と冨安選手を例に挙げるので、ここでもWGとSBにポジションを絞ってお話ししていきます。WGの場合は、このような項目ですね。意外と皆さんが驚く部分はないのかなと思います。これらの項目それぞれを、回数、結果(成功・不成功)、頻度というさらに三つの軸のもとで分析します。一試合を通しての仕掛けた回数・それが成功だったのか不成功だったのか・試合前半や後半に集中せずにコンスタントに発揮されているのかが、スカウトがWGを評価する際の需要な指標になっていると言えます。ここには書いていませんが、位置というのも指標に含まれています。突破を仕掛ける位置がかなり大外なのか?それとも、ソンフンミンのように中に入ってきた中での仕掛けなのか?そういった選手のプレースタイルも十分に把握した上でスカウティングしています。さらに、プレーのアングルを見る場合もありますね。ドリブルやパスの方向などです。挙げ出すとキリがないのですが、主には三つの軸でWGを判断しています。SBに求められる項目はこのようになります。イングランドのプレースタイルが多様化しているので、DFですが複数ポジションでのプレーが求められる傾向にあります。WGやアタッカーはそのポジションを専門職としている選手を高額で獲得するというケースが近年は多くなっているのですが、DFに限ってはサイドやセンター場合によっては一列上がったMFでの起用なども増えています。言葉は悪く聞こえるかもしれませんが、便利屋的な扱いをされることが多いです。ペップやクロップのような戦術家が出てきた近年のフットボールでは、世界の主流として内側のレーンを取れるSBが重宝されてきているというトレンドもありますので、そういった意味でも複数ポジションをこなせる選手が求められるというところに繋がるのかなと思います。プレミアリーグは、五大リーグの中でも〇〇が多い?!プレミアリーグの特徴は、やはりフィジカル的部分です。五大リーグの中で、『1選手のプレー中平均速度とハイインテンシティのアクション数が最多』というデータが出ています。よくプレミアを見られる方は、その早さにお気づきだと思いますがデータでもしっかり表れているんです。また、『ビルドアップやミドルサードへの侵入、相手ボックス内の侵入の際はパスではなくドリブルが多用されている』というのも大きな特徴です。なので他のスカウトの方に聞いてもそうなのですが、プレミアで活躍する選手というのは目の前のスペースにパスではなくドリブルで侵入していける選手が多いです。パスだけの能力でトライアルとか、もしくはスカウトされてる中で生き残ってる選手は体感になりますが、少ないような印象があります。つまり、インテンシティーが高い中でボールを自分で前進させることができる選手が非常に多いリーグということですね。三笘、冨安両選手がプレミアで活躍できる理由は『リーグ屈指の圧巻なデータ』にあり昨季、プレミアリーグで活躍した二人の日本人選手のデータをここで見ていこうと思います。まずは三笘選手。相手の逆を突く動きのドリブルやサイドを取るタイミング、サイドで幅を取る時の高さの調整のうまさ、実際に得点まで繋がるアシストが目立ちましたよね。実際にデータで見てみるとこのようなものになっています。プレミアリーグの22/23シーズンで、ボール運びが上手い選手ランキングみたいなものなんですが、横軸が1試合当たりのペナルティーエリアへのボール運びの回数です。ちょっと下を見てみると、スターリング、サラー、ザハ、マルティネリなどがいます。世界トップクラスのアタッカーの中でも、三笘選手がかなりの数値を叩き出していますね。さらに、縦軸が1回のボール運びの中での距離です。下にはベルナルドシウバ、サカ、ウェストハムのベンラーマンみたいな選手がいます。我々がドリブルでイメージするような選手です。これらの数値を掛け合わせたこのグラフや、アシスト・ゴールなどの得点に直結するプレーの結果を見ても、三笘選手がプレミアリーグ屈指のWGアタッカーであると言えます。さらに、プレミアリーグで求められる選手という点でも合致しているので昨季の大活躍にもうなづけます。クラブに溶け込んでいるとかそういうレベルではなくて、プレミアリーグのベストウィンガーの一人として君臨しているんじゃないかなと思います。次に冨安選手を見てみましょう。SBで必要な『ボールを前進させる能力』が彼の強みで、それにプラスして一対一の守備力が光りますよね。実際に試合を見てみると、前方にあるスペースの空間認知力やボールを受けた時にビルドアップで選択肢が増えるような体の向きに長けている印象です。中にもパスを出せるし、斜め前にも出せるし、縦にも出せるし、バックパスもすぐできるような体の向きができています。何より、アルテタ監督もインタビューでよく言う『両足でコントロールできる能力』はリーグ屈指のものであるとデータからも見て取れます。このデータは、『右利き選手の左足を使用する割合』を表しています。つまり、逆足頻度ですね。これはプレミアだけの数字ではなく、五大リーグのものですので欧州で見ても、両足でボールを扱える貴重な選手であることがわかります。アーセナルという、特にビルドアップを大切にするクラブでは強みが非常にうまくリンクしているなと思います。そのほかにも、これまでプレミアリーグで活躍した選手は岡崎選手や南野選手、武藤選手など様々なプレースタイルの選手がいます。上記の二選手を例に挙げましたが、プレミアで活躍する選手は『その選手の特徴が、リーグやクラブの特徴とうまくリンクしている』ということ。リーグの傾向に合わせてスタイルを変化させるのではなく、その選手が本来持っている特徴に磨きをかけていくことが、プレミアリーグで活躍する選手たちの共通点なのではないかなと改めて感じました。