選手との個人連絡はNG、同性であってもスタッフが選手の着替え場所に立ち入るのはNG、同部屋で水溜りが一つでもある中での試合はNG。イングランドでは明確に子どもたちがスポーツを安心・安全に楽しむことができ、その環境を守るための基準が決まっています。日本でも同様の取り組みが必要ではないか?イングランドでサッカークラブ London Japanese Junior FC を運営する水野さんが現地で感じた日本サッカー進歩のための提案を伺いました。イングランドフットボールの常識、セーフガーディングそもそものセーフガーディングの起源は、1989年 イングランドで制定された児童法。FAではこの頃からセーフガーディングが策定されていますが、実は日本サッカー協会がセーフガーディングを策定したのは2021年11月18日です。長らく、イングランドフットボールの常識となっているセーフガーディングをここからもう少し深く読み解きましょう。「子どもの権利を守るために、セーフガーディングはなくてはならないものです。今はサッカー界の話をしていますが、これはサッカー以外のスポーツや教育現場にも当てはまります。」と水野さんはおっしゃっています。実際にFAで定められているセーフガーディングには、“Our aim is SAFE, FUN, and INCLUSIVE football.”(私たちの目的は、安全で、楽しみがあり、全てを受け入れることができるフットボールです。)という一文が記されています。イングランドで指導者資格を取得する際はセーフガーディング講習も必須で行われるなど、まさにイングランドフットボールの一番の原点として取り扱われています。「セーフガーディングの浸透により、子どもたちが安全に自由に思いっきりフットボールを楽しむことができ、その結果競技人口の増加やレベルの向上につながり、フットボール界の発展に寄与しています。」水野さんのこの言葉からも分かるとおり、今日のイングランドにおける "フットボールカルチャー" は、セーフガーディングの常識化によって成り立っています。イングランドでは水たまり一つで試合中止?!「では、ここからセーフガーディングがなぜ必要なのかをお話ししたいと思います。それは、子どもの権利を守るため。指導者の方々には子どもと接するときは、以下の四点をチェックしていただきたいですね。もちろん、指導者だけでなくクラブ運営者の方々にも知っておいて欲しい項目になります。イングランドではセーフガーディングによって子どもと接する職に就く人へ、無犯罪証明書の提出が義務付けられています。つまり、1つでも犯罪の履歴がある人は子どもたちの心理的安全性を脅かす恐れがある人材としてみなされるため、指導者や保育士、教師など子どもと接する職に就くことが許可されません。ここまで徹底しているのがイングランドの現状ですね。イングランドではフットボールだけでなく、社会においてもセーフガーディングが浸透しています。」「また、セーフガーディング先進国 イングランドならではの事例もあります。イングランドでは、ピッチに水溜りが一つでもあれば練習や試合が中止になることがよくあるんです。日本では考えられないですよね。(笑)これも、子どもたちの安全を最大限考慮しているが故の事例です。安全面だけでなく、『水たまりのピッチでプレーしたくない』という子どもたちへの心理面にも寄り添っています。」水野さんが共有してくださった、イングランドのセーフガーディング。ここまで徹底していると、「日本もそろそろ」と思う方も少なくないはずです。こうしたルールがしっかりと設けられていることで、子どもたちの権利を国や地域をあげて守っていく姿勢が見受けられます。「日本にも、より現状に目を向けたセーフガーディングを」ここからは参加された会員の方の質疑を一部抜粋しながら、より学びを深めていこうと思います。「JFAとFAのセーフガーディングを比べた時に、FAの方がより言い切った形の明確化された文言がありました。これ以降の出来事や時代の変化によって、明確化されているセーフガーディングが変化していくことはあるんでしょうか?また、近年変化してきている所はありますか?」との問いに対して、水野さんはこう続けます。「最近は、性別・宗教・人種に関して言及されている量はかなり増えてきました。枠組みや仕組みを作るのが上手いイングランドなので、このように常に時代の変化に柔軟に対応する姿勢を見せています。また環境面でも悪天候の多い国ということもあり、人工芝のグラウンドが増設されたり、雨の日でもプレーできるフットサルのメジャー化に向けた動きも活発です。この働きかけもセーフガーディングの一つ。選手たちの怪我のリスクも減らせますし、雨の日に外でプレーしたくない選手の心理に寄り添っていますから。」国民性とも言える柔軟さもまた、セーフガーディングをより機能させるために欠かせないものとなっているんですね。(イングランドでは、水たまりのあるピッチでの試合は中止すべきという見方が。選手の怪我のリスクを考慮した、日本では考えられないまさに "セーフガーディング" な考え方。)さらに、「セーフガーディングの有無が、選手のパフォーマンスに差を生むのですか?」という質問には、水野さんもすかさず「いい質問ですね」と返答しご自身の考えを共有してくださいました。「セーフガーディングの有無は選手のパフォーマンスにも大きな差を生みます。マズローの五段階欲求では、一番下の階層(ベースになるもの)に生理的欲求がありますがその上が安全欲求なんですね。つまり、人間は安全が担保されていないと全力のパフォーマンスを発揮できない。何かを恐れながら、危険な状態で全力は出せないですよね?選手たちが全力を出して、その選手のポテンシャルを最大限に発揮させることが使命である指導者が、第一にこの安全を担保してあげなければいけないのです。」選手が楽しめる環境だけでなく、安心して常に最大のパフォーマンスを発揮するために、まずは指導者がセーフガーディングをしっかりと理解していかなければならないと今回の水野さんのお話から再認識できました。スポーツを楽しみ、「恐れてプレーする子どもたち」を無くすこと。ここに向けた課題は、まだ日本にも多く残っています。今後JFAが主体となって、”より日本の現状に目を向けたセーフガーディング” を確立していくことが日本サッカー界の発展に大きく影響すると感じました。根底を知り、排除するために必要なものを考える。 暴力をこの世からなくすために我々がすべきこと自己表現豊かな選手が集う "ロンドンにある日本の街クラブ"“特徴を特長へ” サッカー指導者が語るJapan’s Wayの存在意義と選手たちに求めるもの。