「私自身がイングランドで日頃取り組んでいるセーフガーディングについて、今回さまざまな専門家の方の意見をお聞きできて ”やっぱりそうだよね” と安心できました。今後もスポーツ界から暴力を排除するために精一杯この考えを発信していきたいです。」London Japanese Junior FC 監督の水野嘉輝さんを中心に、スポーツマンシップ協会・心理カウンセラー・弁護士などさまざまな専門家の方々とセーフガーディングについての捉え方、スポーツ界における暴力の根底にあるものを考えたこのイベント。サッカー界のみならず、スポーツ界や教育現場、家庭に蔓延る暴力を無くし、子どもたちが安心安全に暮らすことのできる社会の創出に必要なものとは?指導者が選手たちの心理的安全を担保してあげる「人は安心感を感じていないとピリピリ、イライラしやすいです。イライラしながらするサッカーは、楽しめないしプレーではなくなっちゃいますよね。これは子どもも指導者も同じことだと思います。恐怖心を感じながらやるようなことではないですからね。そのために、指導者や周りの大人は ”結果を強く求めすぎない” ということを意識していただきたいです。どうしても結果を出そうと必死になりすぎると、心理的安全性が損なわれて失敗できないというプレッシャーを過度に与えてしまいます。これだと、のびのび楽しめないです。」心理カウンセラーの片田智也先生からは、ご自身の分野でもある心理的観点からこのようご意見が。暴力は手をあげる物理的な暴力だけでなく過度な圧力や期待、不安感を与える言動なども含まれるということですね。「ロアッソ熊本のGKコーチ時代、現日本代表GKのシュミットダニエルを指導した時の情景が思い浮かびました。彼は当時ベガルタ仙台で3、4番手という試合にも出れずベンチにも入れない時期に期限付き移籍でロアッソにきたんです。ある練習後に、『今日の練習どうだった?』と僕が聞くと、あのプレーが良くなかった、これができなかったと “できなかったネガティブなこと” を話したんです。『当然プロのGKコーチやってるから、俺もダンができなかったことはわかるよ。できなかったことじゃなくて、できたことを話そうよ』とアプローチしました。日本人特有の謙虚さというか、謙遜だったのかもしれないですが心理的にプラスの方向に選手を導いてあげることができていたんだなと今お話を聞いて安心した部分でもあります。」数々のGKを指導してきたGKコーチ 澤村公康さんの教え子であるシュミット選手への声かけ、指導はまさに選手の心理的安全を作り出すもの。選手からしてもこのような一言の声かけがその一瞬だけでなく、以降のプレーや人生、自分への大きな自信につながるのだと感じました。“体罰を受けたことがない人は、体罰をしない。”「サッカーに限らず、僕たちが学生時代に教わった先生たちは大学で教職免許を取って22歳で社会に出たらいきなり先生になりますよね。社会経験がない状態で、何かを生徒たちに教えないといけない存在になるのは正直辛いと思いますよ。教師になりたい子たちは教えたいという願望があるけど生徒たちには舐められたくない。そのジレンマから、無意識に生徒たちにマウントをとってしまう教師も少なくないと思うんです。教師は生徒たちの前では自分の非をさらけ出せないですし。このような教師が増えていくと、脈々とこの風潮が受け継がれます。私も今大学教員として生徒を教える身として、指導者はもっと自分の非を教えてくれる生徒や子どもたちに感謝すべきだと思います。これが広がると、体罰をなくす一歩になるとは思うのですがどうすればこの機運を広めることができるんでしょうね?」日本スポーツマンシップ協会 理事長で千葉商科大学 准教授の中村聡宏さんの皆さんへの問いかけから、”体罰の根源” についてのディスカッションへ。「体罰を受けたことない人は、体罰しないと思うんですよね。体罰を受けた経験があって、それを正当化しようとするというか、悪しき継承として下の世代に流している気がするんです。体罰受けたことないけど、自分は体罰で解決したいっていう人はまずいないと思いますね。」中村さんは、体罰がなかなか無くならない世の中をこのように捉え、悪しき継承を危惧されています。これには片田先生も続きます。「大体、暴力は家庭の中にあります。声の大きさや相手をコントロールしようというスタンスを親や子どもが双方で繰り返すような環境で育った人は人を動かそうとする癖がどうしても残ります。そうなる前に、啓発的な教育を広めていく必要があると思います。他人からのパワーによって自分の意思を変えてしまった経験のある人は、自分がされたことと同じように目の前の相手にもしてしまいます。」体罰や暴力が生まれてしまう背景には、育った環境・バックグラウンドも大きく関係しているようです。負のスパイラルを断ち切る手段の一種、セーフガーディング「イングランドでは、サッカー協会がセーフガーディングを明文化しているということもあり暴力=悪という世間イメージが日本よりも浸透していると思います。争いや意見の食い違いから衝突が起きそうな場合は対話で解決するかその場から離れるということも大事です。これは子どもと大人にかかわらず、大人同士子ども同士でも言えることです。僕自身が大切にしているのは、子どもと接するからといって絶対に下に見ないこと。もしかしたら、子どもの方が自分の枠組みを超えているかもしれません。いくら自分が思っていることと違ったとしても、その思いに至った経緯や本心を聞き出すまで判断はしてはいけないと長い指導者人生で学びました。今回の皆さんとの会話からたくさんの学びを得ることができましたし、確認、新しい発見もありました。僕自身がセーフガーディングというものを広めていくことと今日の学びを現場に活かし、直接的かつ間接的にでも暴力をなくすための世の中づくりを少しずつ進めていかないとなという思いです。」子どもたちが安心、安全に伸び伸びとサッカーを楽しめる環境づくり。引き続き我々も水野さんをはじめとするサッカー界から暴力をなくそうと発信し続ける指導者の方々、専門家の方々と一緒に今回のようなディスカッションの場を設け世の中に訴えかけていきます。これはすぐに改善される問題ではないかもしれませんが、セーフガーディングという考え方・海外での事例や取り組み・指導者や専門家の方のご意見を通して必ず作り出される未来であると信じて、ポジティブに突き進むべき道であると感じました。世界の常識、セーフガーディング。恐れてプレーしても上達しない、イキイキとプレーする選手を増やす環境づくり。