「自分がプロとしてサッカーだけで生活できるなんて思ってもみなかった」U17W杯で日本を優勝に導き、大会最優秀GK賞も受賞したマイナビ仙台レディースGK 松本真未子選手の当時の心境や周囲の反応には変化があったのか?また、昨年からプロ契約としてサッカー中心の生活になって、新たに芽生えた ”サッカーの向き合い方”とは?現役プロ選手たちのサッカー人生に大きな影響を与えた『人生のターニングポイント』に迫る企画として開催。松本選手と親交の深い澤村公康さんとの対談企画の様子を、一部抜粋してお届けします。U17W杯での栄光の裏に抱えた葛藤澤村公康さん(以下澤村)真未子を語る上で外せないのが、U17W杯だよね。あの時、初めて松本真未子という選手を知ったんだけど、ついに日本人選手でこんな賞をもらえるGKが出てきたのかと感銘を受けた。松本真未子選手(以下松本)その頃から知ってくださっていたんですか?!ありがとうございます。あの大会は6試合中5試合に出場しました。自分でも大会中、最優秀GKに選ばれるなんて感触もなかったので「え?私が?」って感じだったんです。私がその賞にふさわしいのかという葛藤を感じました。澤村 こんな名誉ある賞を受賞したら、この先第一線でやっていけるって普通なら思いそうだけどね。松本 一度も思ったことないです。日本に帰国してからも、もちろんいろんな方におめでとうという言葉をかけていただきました。でも、当時所属していた浦和レッズレディースでも「それはU17だからね」みたいな雰囲気で迎えられましたね。自分はまだプロで何も成し遂げられていなかったし、GKコーチからも「山郷を超えてから認めてやる」って言われていました。ここで満足している暇がないという気持ちでしたね。澤村 自信が過信になって、過信が慢心になる選手も多いと思うけどそこで満足しないというか、まだまだ上のカテゴリーを目指してやっていくって気持ちになったんだね。松本 もちろん下手くそだったし、当たり前なんですけどこんなもんじゃ認めてもらえないんだって思って。さすが、ビッククラブだなと。澤村 U17W杯の時は、トップチームの選手として参加したの?松本 いえ、ユース所属としてトップチームの試合にも出場できる二種登録でした。澤村 なるほどね。トップに上がった後も、なかなか正GKの座を掴むのに苦労したという話も以前聞いたことがあったけどやはり難しかった?松本 そうですね、逆にU17の時になんで一番手として試合に出れていたんだろうという葛藤はありました。「一番手を手にすることが、こんなにも難しいんだ」って上のカテゴリーに行ってから感じましたね。でも、その時は「上手くいかないな、なんでだろう」というより、上の人をずっと追い続けて「もっと上手くなろう」「もっと吸収しよう」という向上心を持ち続けていたので精神的にキツくなったことはなかったですね。新たに芽生えたサッカーとの向き合い方澤村 今でこそ日本の女子サッカーはWEリーグになって、プロとして多くの選手が所属することになったけど、それまでのなでしこリーグはアマチュアだったよね?当時を振り返ってみて、どう?松本 アマチュア時代は、日中働いて仕事終わりの夕方や夜から練習という生活を送っていました。当時から、私はプロの選手としてやっていきたいんだ!という気持ちもあまりなかったです。上の選手たちから、常々女子サッカー界は厳しい世界だよっていうのも聞いてきましたし。サッカーだけで、生活できるようなものじゃないと思っていたし、日中働いて仕事終わってから練習という毎日が当たり前だと思っていました。澤村 そうだったんだ。そういう意味では、WEリーグができて少しづつサッカーだけで生活できる選手が増えてきてるのは良いことだね。僕も30年近く、プロの世界で指導者としてお仕事させてもらっているけど、このチームで指導したいので雇ってください!って頼み込めばなれるものじゃないし実力がないとプロへの道はなかなか開かれない。真未子は、実力を認められて仙台から声がかかって移籍したと思うんだけど、当時の心境はどうだった?松本 仙台に初めてきた時はプロとしてではなくアマチュアとして呼ばれました。なので、WEリーグができてプロ契約になるまで仕事とサッカーの両立でした。今は、チームもプロになってサッカーにだけ集中できる環境になって、サッカー以外は自分と向き合う時間も増えたので。ここまで、自分の時間をレイアウトできる環境でサッカーをしたことがなかったのでサッカーだけではなく体にも気を遣うことを大切にしています。澤村 話にもあったように、咋季からWEリーガーとしてプレーしているわけだけど何試合に出場したの?松本 全20試合中の19試合です。澤村 年間を通して、プレーしてどうでしたか?松本 純粋に楽しかったです。勝負の世界なのでもちろん勝つのが一番楽しいですが、勝ちにも負けにも学ぶことはあります。個人としても、チームとしても成長していってるのを感じながらプレーできたので、充実した一年になりましたね。澤村 仙台は良いスタジアムがあって、気持ちよくプレーできると思うしね。ファンサポーターの方も増えていって。いろんな環境が変わってきた中で、真未子自身でアマチュアの時と比べて特に変わったなって思うところはある?松本 変わったところはあまりないです。サッカー選手としてやっている以上は、プロ選手も育成もアマ選手も全部変わってないと思ってたので。常に見てもらうし、評価されるスポーツをやってるってだけなので、そういう意味では変わらなくてよかったかなと思いました。澤村 こうやって、自分をしっかり持ってる選手は活躍しているイメージがある。トップ選手のベースになるものなんだろうね。松本真未子にとっての指導者とは澤村 最後に、真未子からみて指導者はどういう存在だったのか? また、指導者のこういったアプローチのおかげで自分は助けられたといったエピソードがあれば聞かせてください。松本 本当にいろんな指導者の人がいて、自分も選手やっててこの人合わないなって思う人もいれば、無理だって思う人もいました。でも、やっぱりそこで「もういいや」って投げ出したら、全部自分に返ってくるじゃないですか? 我慢する部分もあったんですけど、選手がどういう顔をしようが、良い時も悪い時も指導者の方には変わらず会話をし続けてほしいなとは思いました。ありきたりの挨拶だけでもいいですし、今日の気分を聞くだけでもいいですし、たわいもない会話でもいいので、必ず1日一回ぐらいは話し続けるっていうのはすごい大事なのかなって思いました。選手にも指導者にも言えることですね。澤村 やっぱり人と人との関わりの中で行うサッカーというスポーツにおいて、コミュニケーションって凄く大事だしね。指導者として、将来プロになりたい子どもたちと関わる機会の多い私にとって、非常に貴重なお話でした。本日はどうもありがとうございました!来季のご活躍も期待しています。松本 ありがとうございました!楽しみにしていてください。「あの日、あの経験がここまで導いた」現役プロ選手が本音で語る『人生のターニングポイント』自信の持てなかった私を変えてくれた、指導者との出会い人生最大の困難から立ち直った、藤嶋栄介のマインド変化