「しっかりと地面に足がついた状態で準備することで、体のバランスだったりパワーの出し方が安定していました。」現役WEリーガー 松本真未子選手(マイナビ仙台レディースGK)は、GKの開始姿勢についてこう語ってくださいました。松本選手が実践しているのは、シュート時にしっかり地面に足をついた状態から対応する "ゼロコンタクト"。シュート時に、少しジャンプして対応する "プレジャンプ" という方法を取るGKも多いです。対照的な二つのGKにおける開始姿勢について、GKコーチとしてJリーグでの指導経験がある澤村公康さんにそれぞれの特徴を伺い、松本選手の試合やトレーニングでの感覚も交えながら意見交換する機会になりました。※今回のイベントは、澤村さんの著書である『GKコーチ原本 "先手をとるGkマインド" の育て方』にも収録されている内容となっております。タイミング次第では、イージーミスにつながる?GKのキャッチング前の予備動作でもある ”プレジャンプ”(キッカーがキックする際に、GKが少しジャンプしてタイミングを測ろうとするGKの開始姿勢)育成年代のみならず、プロ選手でもプレジャンプを行うGKがいますが、今回は主に「そもそもプレジャンプは必要なのか?」「プレジャンプと相反するゼロコンタクトの重要性」といったテーマで選手と一緒に考える貴重な時間になりました。「現役選手でもプレジャンプを行う選手がいますが、プレジャンプはタイミングが合えば爆発的なセービング力を発揮します。しかし、タイミングを外されるとイージーなシュートでもゴールに入っちゃうのでこのようなタイミングの取り方には疑問が残りますね」澤村さんがこうおっしゃるように、プレジャンプは “キッカーのタイミング次第” といった予備動作であることがわかります。「川崎フロンターレで指導していた際、川島永嗣選手とトレーニングしていたんですが川島選手以外のGKはみんなプレジャンプをするタイプのGKでした。当時J2でも得点王になった選手でジュニーニョというブラジル人選手がいましたが、彼はプレジャンプするGKに対しては、タイミングを外すためにいつもトーキックでシュートしていました。」プロ選手でも、プレジャンプを回避するキッカーにはなかなか適応しにくい動作ということですね。ここで、澤村さんはGKの予備動作に関して、「どちらが良いか悪いかではなく、ゼロコンタクトという選択肢もあれば、キッカーにタイミングを外されてもスムーズな動き出しが行える」とおっしゃいます。ゼロコンタクトとは、キッカーが蹴る直前まで両足を地面につけたままタイミングを測る予備動作。つまり、プレジャンプのように跳ばずにシュートに反応する動作です。「こうすることで、予期せぬシュートにもスムーズに反応することができる」と澤村さんは続けます。両足が地面にしっかりついたゼロコンタクトを徹底し、安定感が生まれたこのような、澤村さんのお話についてマイナビ仙台レディースGK 松本真未子選手は昨シーズンを振り返ってお話ししてくださいました。「昨シーズンは、足底を鍛えるトレーニングに力を入れていました。しっかりと地面に足がついた状態で準備することで、体のバランスだったりパワーの出し方が安定していました。体の力みも無くなりましたし、派手なセーブが少なったんです。同時にユニフォームが汚れる試合が少なかったです。(笑)他のGKよりもサイズが小さいですが、100%の力を出せる足の使い方ができたので、ダイビングの高さや横移動のスムーズさはいい感触でできていました。」松本選手のシュートストップ時には、ゼロコンタクトが取り入れられているそうですね。「僕にとって真未子の印象は、”足が運べるGKだなあ” ということ。プレジャンプをしちゃうと、キャッチングのいい選手がしっかりとしたパフォーマンスを発揮できなかったりミスが多くなってしまうことがある。そういった意味では松本真未子という選手はその反対のイメージ」と澤村さんは、松本選手にはゼロコンタクトが合っていると評します。「ジュニアユースから浦和レッズレディースでプレーしてきて、プレジャンプやゼロコンタクトというワードを用いて指導されたことはなかったので初めはプレジャンプでシュートへの対応をしていました。しかし、カテゴリーが徐々に上がることでもちろんシュートスピードも速くなって、そのシュートスピードが上がることで自分がジャンプしていたら間に合わないなと感じ、無意識のうちにゼロコンタクトに。トップカテゴリーではペナルティーエリア内でパスを繋ぐチームが多くなって、いつシュートを打ってくるのかタイミングが取りづらくなったというのも大きな要因ですね。」松本選手がこうおっしゃるように、カテゴリーが上がるにつれ無意識にプレジャンプを行わなくなる選手たちが多いということがわかりました。ボール以外にも見なければいけないものが増えてくるため、頭の位置を変えないためのゼロコンタクトとも言えますね。もっと詳しくゼロコンタクトを学びたい人はこちらの動画を見る→video.footballcoach.jpジュニア年代はプレジャンプを一切しない?「ジュニア(小学生)年代の選手たちは、プレジャンプを一切しない。すごくタイミングをとるのが上手なんです。しかし、一つ上がったジュニアユース(中学生)年代になるとプレジャンプをし出すんですよ。面白いですよね。これは、”より大きなパワーを出さないといけなくなった” ということだと思います。ボールの大きさも、コートサイズも、ゴールマウスの大きさもジュニアと比べて変わります。このような、環境の変化によって届かないところが多くなってくるので、届かないところを届くようにするためにプレジャンプを行うキーパーが増えるんだと思います。」澤村さんのこの見解は、非常に興味深いですね。世代が進むにつれて周りの環境や体の変化からプレジャンプが身についてしまうという経緯があるようです。このような話を踏まえ、最後に澤村さん、松本選手からのGKへの思いのこもった指導者の方へのメッセージでこの会が終了しました。澤村さん「準備のタイミングや構えなど、プレジャンプやゼロコンタクトを用いて解説してきましたが一概にも善悪を決めつけるのは良くないですね。その選手によって、プレジャンプを行う方が最大限の力を発揮できるのかもしれないしゼロコンタクトの方が向いているのかもしれない。指導者の方には、『これをしろ!』という指導ではなく、しっかりと開始姿勢をとった準備を常にしておこうという声かけをしてあげてほしいですね。」松本選手「指導者の皆さんには、GKは派手なポジションではないと思っているので、GKの楽しさを伝えていってほしいなと思います。練習の最後に、よくゴールを決めて終わるというシーンがありますが、GKが止めて終わるシーンをもっと作っていってあげてほしいです。シュート練習もFWが決めて終わるのではなく、GKのスーパーセーブで終わるってなるとGKも最高のテンションで終えることができます。GKがいて当たり前という感覚ではなく、GKも大切に指導していってくれる指導者が増えることを願っています」