大津高校から鹿島アントラーズアカデミーといった名だたる名門チームで指導後、JFA海外派遣指導者として中国四川省成都市のサッカー協会へ。「成都市で新たな育成システムの構築や世界に羽ばたける指導者を輩出し、中国サッカー界におけるシンボルになるように取り組みたい」そう語る天野圭介さん。JFA海外派遣指導者とは、JFAからアジア各地に派遣された代表監督や育成コーチ、審判インストラクターなどを指します。2021年 フィリピンリーグ カヤFCでACLに出場された大村真也さんをゲストにお迎えし、『アジアサッカーのポテンシャル 指導者と選手から見た未来像 日本以外のアジアから学ぶこと』をイベントとして実施いたしました。指導者としてアジアサッカーの発展に尽力されている天野さん、フィリピンで選手としてアジアサッカーを肌で感じた大村さん。”アジアサッカー” というキーワードで異なる視点をお持ちのお二方からアジアサッカーの現在を知り、ポテンシャルや未来像を見る良い機会となりました。技術、経験の他に重要なのは ”考え方の共有”日本での選手育成を経て、中国では指導者育成という分野でご活躍されている天野さん。「四川省成都市サッカー協会から私が赴任した時にリクエストされたのは主に二つ。指導者養成と成都市サッカー協会の育成システムの構築です。テクニカルダイレクターと言われる役職なんですが、それ以上の仕事を担っています。赴任して2ヶ月経ったある時、感じたことをノートに書き殴ったんです。ノートを見てみると、そこには日本にはあって成都市にはないものばかり書いてありました。これは、大変な仕事だなと思ったんですがどうやって新しく構築していくかを一つずつ考えながら実行していきましたね。」「日本から中国に行ったときは、すぐにその国の文化を知ることに重きをおきました。成都サッカー協会には30代の若い指導者もいるんですが中国代表経験のある人もいるんです。将来有望な指導者が多いので、彼らの指導者としての育成には力を入れて取り組んでいます。何かを教えるということももちろん大事ですが、論理的思考力を鍛えたり問題解決に向けたプロセスやヒントを与えたり。本質的な部分を指導していくことで、持続可能なシステムを成都サッカー協会が自ら構築していくことを目指していますね。」ああしろ、こうしろ、ではなく常に問題の原因はなんなのか?どうすればこの問題を解決できるのか?といった ”考え方” を成都の指導者たちに落とし込むことに注力されているのですね。指導者としてのノウハウや技術、経験だけでなく、このような思考力においてもまだまだ成長の余地があるとお話してくださいました。中国で目指すは、"新たな文化の創造"「成都には小学生のチームが500チームあります。しかしそこから中学生年代は成都FA+10の中学校、高校生年代は成都FA+3の高校、大学に至っては推薦入学でしかサッカーを続けることができない。成都だけでなく、中国国内ではサッカー=勉強できない子がするものというイメージを持つ方がたくさんいらっしゃるんですよね。日本では、サッカー選手はなりたい職業ランキング上位の職業。中国では、その逆ということなんです。このようなイメージをまずは成都から払拭していきたいなと思います。指導者たちの認識を変え、選手の保護者の認識を変え、社会の認識を変える。簡単なことではないかも知れませんが、そうやって少しずつサッカー自体のイメージを新しく塗り替えていくことで、中国国内の新たなサッカー文化を構築できると思っています。1から作り上げる感じがワクワクしますね。」世界的名プレーヤーが数多く中国に移籍し、一気に影響力をつかんだ中国サッカー界ですが、当時の勢いも今は下降線を辿っている印象です。短時間でガラッと文化やサッカーのイメージを180度変えることは至難の業であったが故に、いかにして持続可能な国に根付いたサッカー文化を作り出すかが今後の大きな鍵になると言えます。ネガティブな事実ももちろんあるとは思いますが、考え方を変えるとポテンシャルは無限大ですね。ここで、ゲストである大村真也さんからは「成都の指導者の方で、天野さんがポテンシャルを感じる方はいるんですか?」といった質問が。これには、「それがいるんですよね〜」と天野さんは即答します。「成都には、勉強意欲があって性格も良い指導者が揃っています。こんなところは珍しいですと通訳の方からも言われましたね。そういった指導者が成都からどんどん外に出ていって活躍すると、成都市サッカー協会が成功モデルを作ることができます。この成功体験を中国全体に広げていって、国として指導者育成がより盛んになれば最高ですね。」フィリピンと中国。二つの国から見えてきた、"アジアサッカーのポテンシャル"ここまでの天野さんのお話に続いて、フィリピンで約10年選手としてプレーされた大村さんからもフィリピンにおけるサッカーの立ち位置を共有していただきました。「フィリピンでは、サッカーよりもバスケットボールが盛んです。その中で、国内でサッカーをどう盛り上げるかというのは難しい部分ではあるんですけど、結局はサクセスストーリーが一つもない状態で進んでいっているのが原因かなと思います。国内で育った選手ではなく、幼い頃から海外で育った選手たちが代表チームに入っているという現状です。近年少しずつ、フィリピン国内で育った選手たちが出てきていますが更にサッカー協会が育成システムを整えることができれば増えていくでしょうね。今後国内で育った選手たちが増えていくことで、国民のサッカーへの注目度も上がっていくと思います。」中国の指導者育成における成功体験のお話と同様、良い事例を増やしていくことで指導者・選手育成のモデルが形作られ、国自体のサッカー熱を発生させる役割もあります。「東南アジアという枠で見ると、タイやベトナム、インドネシアは給与面や待遇も整っています。インドネシアでダービー戦があると六万人入る試合もありますから。そういった国も日本以外の国でどんどん増えてきているので、フィリピンも良い影響を受けてサッカー人気があがってくれると嬉しいですね。」大村さんがフィリピン、東南アジアで感じた ”サッカー熱の違い” と ”ポテンシャル”。このような、日本以外のアジアの国々のサッカー文化の台頭には指導者の力が欠かせないと天野さんはおっしゃいます。「私のように、JFAから派遣された指導者の方々が東南アジアにも大勢いらっしゃいます。U23アジアカップでウズベキスタン代表が日本代表相手に勝利したり、ベトナムやタイ、カンボジアなど確実に日本以外のアジアの国々が力をつけてきています。このような、躍進の影には必ず指導者の功績があります。まずは日本からの指導者がサッカー文化構築の土台作りに参画し、そこからそれぞれの国の指導者がどんどん育っていくとアジアサッカー全体がもっと盛り上がると思います。」日本のいい部分をアジア諸国でそのまま用いるのではなく、日本での成功体験や実績をもとにアジア諸国で新たなシステムや文化を構築していく。これこそが、”アジアサッカー全体の底上げ” に繋がると思います。これを機に、天野さんをはじめアジア諸国で奮闘される日本人指導者の方々やアジアでプレーされる日本人選手のご活躍にぜひ注目してみてください。指導者養成と代表監督の視点から見る アジアのサッカー文化構築に必要なもの