「教育の現場を長年見てきていますが、大人が嫌がっていたものを子どもにさせるのは子どもの成長に繋がらないです。親ができなかったものを子どもにさせようとする例も少なくなく、これはサッカーの現場でも同じだと思いました。コーチができないのになんで押し付けるの?という考えに子どもたちもなってしまいますよね。大人が目指すところがはっきりしていれば、モチベートが高い子どもたちが集まってきます。」元Jリーガーで現在は幼稚園や保育園で巡回保育として体を動かす楽しさを広めるボブ高瀬さんはこうおっしゃいます。『子供の頃には持っていた、自らを奮い立たせる能力』大人になるにつれ、どのように変化していくのか?また、選手のモチベートに長けた指導者が実践するモチベートが高い子どもたち、選手たちが集まる秘訣とは?子どもたちが奮い立つ一歩目づくりを指導者がすべき「子どもにはあって大人にはないのではなく、奮い立つ能力というのは共通して持ち合わせていると思います。年齢が上がるにつれ、奮い立つことを忘れて行っているもしくは諦めてしまっているという印象を受けるのですがどうでしょうか。子どもたちが今やっていることに対して、周りの大人や指導者がどれだけ夢中にできるような状況や環境を作ってあげることが子どもたちが ”奮い立っていく” 一歩目になると思います。」ロンドンで日系クラブ London Japanese Junior FCを運営される水野嘉輝さんは、指導者が行う子どもたちへのアプローチに対してこう表現します。子どもから大人になるにつれ少しずつ薄れて行ってしまう ”自らを奮い立たせる能力”。今回のキーワードになるこの言葉を軸に、ディスカッションが展開されていきます。「僕は幼児の成長の違いがすごく大きいと感じます。4月生まれの子と3月生まれの子の差が本当にすごいんです。同じ学年に4月生まれの子と3月生まれの子が存在することが成り立たないと思うことも多く起こります。生まれ月のことも考えながら、フラットに調整してあげて出来る子にはできない経験を、できない子には出来る経験をさせてあげることでいい失敗いい成功を生み出す環境づくりを大切にしています。」水野さんは、子どもたちにフラットな成長の機会を与えているそう。子どもたちにとって、このような常にチャレンジしやすい環境での生活はまさに自ら奮い立つ上では絶好の環境であるといえます。「私もすまいるキッズという名前で巡回保育をやっていますが約五年ほどそこでも色々な試行錯誤をしています。年少〜年長までの三学年を分けずに混ぜてやるんですが、当然一番下の子たちはお兄ちゃんお姉ちゃんに比べて理解力であったり運動能力は敵わない。しかし、見てて思うのがみんな勝手に奮い立つんです。年長さんは下の子たちが見ているから俺は出来るんだ!というふうにアピールしていたり年少さんや年中さんもお兄ちゃんお姉ちゃんを見て自分も自分もとチャレンジします。身近なちょっと上のライバルを作ることで成長を促せているのだと思います。」ボブさんも日々、指導現場で感じる子どもたちの成長をお話ししてくださいました。子どもたちが自然と奮い立つ環境づくり。これには周りの大人や指導者の配慮や工夫が大きく現れているのだと感じました。子どもたちのモチベーションを下げさせない秘訣「指導者がしてはいけないことをしたら、子どもたちのモチベーションは一瞬にして下がってしまいます。このような経験はないですが、結果的に振り返って子どもたちのモチベーションを下げさせてしまったなと思ったのは『形通りしっかり教えること』です。僕もどっちがいいのかわからないんですが、例えば体育の時間だからこれをしなければいけない・話を聞くときはこういうふうにして聞かなければいけないなどですね。そこの形ばかりを整えようとすると、幼児や特に小さい子たちはモチベーションが上がらない傾向が強いなと思いました。教える人が『こうじゃないといけないよね』と思っても、子どもたちはその動作自体に楽しさを覚えるので。ここが指導者と子どもたちでずれちゃうとどんどん収拾がつかなくなってしまいます。」水野さんがおっしゃったこのお話は、日本の教育現場で頻繁に見受けられる光景のように感じます。こうでなきゃいけない、この通りにしないといけないという指導では子どもたちは自分自身で楽しみを覚えるというよりも言われたことをただやっているだけで面白みに欠けてしまいます。一見しっかりと中身を指導しないといけないと思いがちですが、指導する年代によっては楽しみを感じることを優先して指導することが大切だと水野さんから学びました。「主に巡回保育で幼い子どもたちと時間を過ごしているので、あえて自分が崩した状態で接することもよくあります。自分が楽しく振る舞っていたら自然にこっちの輪に入ってくるし、自分が話していたら聞いている子もいるので、いかに教える側の僕が崩して子どもたちと接することができるかを大切にしています。」こう語るボブさんのお人柄から巡回保育の様子も想像できるほど。指導者が ”正解を教える大人” として子どもたちと接するのではなく、子どもたちの楽しさや笑顔を引き出す存在として接していかなければいけないとお二方のお話から感じ取りました。わがままは、子どもの良い素直さのあらわれ会も終盤に差し掛かり、司会進行役からあるテーマがふられました。「ここで、ゲストのお二方に ”わがままの概念” についてお聞きしたいと思います。わがままを押さえつけるよりも、自分が持っている素直な状態として受け入れることが重要だと思っています。海外で、日本の基準で言うところの最高級のわがままを発揮している子どもたちを見ました。しかし、彼らはそれを思いっきり楽しんでいるようにも見えました。海外で指導されている水野さんと選手として海外でプレーされたボブさんにも、わがままの概念とそういった子どもたちとのエピソードをお聞かせいただきたいです。」このようなテーマに、まず口火を切ったのが水野さん。「今のお話を聞いて、共感できます。わがままのちゃんとした意味はわかってないですが、わがままと聞くとネガティブイメージを持たれる方も多いと思います。でも子どもたちにとっては自分を素直に表現しているとも捉えられると思うんですよね。この素直さを大人が押さえつけるのはよくないと思います。この素直さが育っていく環境を我々が作ることができれば ”奮い立つ個々” が生まれてくるのかなと考えます。イングランドの教育がまさに個の部分からなので、こっち(イングランド)の教育現場での子どもたちの言動は日本の基準で言うわがままに値するのかもしれません。やりたいことをやる中で、自分がやった結果から『あれ、これ違うな』と自ら感じてもらうことで奮い立つ個々が育っていくのではないかなと思いますね。」イングランドで感じた奮い立つ個々の誕生を促進する働きかけ。チームや組織の輪を乱したり、他人の邪魔をする以外の素直さが前面に出たわがままを押さえつけてはいけないと改めて感じました。「面白くなかったら、やらない。面白かったらやるというのが僕が見ているキッズ年代の子たちです。自分の欲求を表現できる子供たちは素晴らしいと思います。いい欲求はいいわがままとして捉えて、ケジメはしっかり保ったまま接してあげるのはコーチング・ティーチングという観点ではいいアプローチだと思います。」とボブさん。自己の確立への道を幼いうちから進むことは、その後の人生に大きく関わるのではないかと感じました。子どもたちの奮い立つ能力を邪魔せずに認め、奮い立つ能力がすくすくと育つ環境づくりは我々大人に求められるミッションなのかもしれません。選手と同じ目線で "3つのふりかけ" を持つ指導者のモチベーターとしての価値スマイル全開のボブ流 “子どもたちと本気で楽しむ環境づくり”自己表現豊かな選手が集う "ロンドンにある日本の街クラブ"