「圍謙太朗は多岐にわたって、”受信する能力” が非常に高い選手。だからこそどのチームに行っても重宝されてきたんだと思います。」GKコーチとして大津高校、Jリーグで数々のGKを輩出してきた澤村公康さんは圍謙太朗選手(SC相模原)をこう評します。澤村さんは圍選手が小学校5年生の頃からトレセンやGKスクールで定期的に指導し、長い間圍選手を近くで見てきた指導者の一人です。「GKコーチ原本 」第三弾となる今回は、GKテクニック論からは少し離れたマインドや立ち振る舞い、GKにおいて技術以上に必要とされるコミュニケーションについて圍選手と恩師 澤村さんが対談。今回のイベントは、澤村さんの著書である『GKコーチ原本 “先手を取るGKマインド” の育て方』にも収録されている内容となっております。※本記事における圍選手の所属先は、取材当時(2022シーズン)のものです。高校三年間で培われた "傾聴力" が武器に。「最初から人の話を聞ける人間ではなかったです。自分のサッカー人生はエリート街道ではなかったし、これからも困難なことの方が多い気がしているんですが。一試合も試合に絡めず、トップチームにも入ることができずといった状態で自分に何ができるのかと考える時間が多くなりました。その中で自分に何ができるのか考えた時に、トレーニングは一緒にできないけれど話を聞いたり、人が言われているものを聞いて自分のものにすることだったり、人がやっている練習や行動を見て真似したりといった行動をし続けた高校三年間でした。その三年間が大学で実を結んだんです。他の選手も自分に話してくれるようになったので、自然とチームの中心にいました。」今回の対談におけるキーワードでもある ” 傾聴力” 。まさに、圍選手の澤村さんへ対する受け答えや、紡がれる言葉一つ一つから傾聴力のある選手だと伺えました。「 “傾聴力” と辞書で引くと、”相手をより理解するために聞くことを言う” と書いているんだよね。GKはコミュニケーション力が高いと思うけど、いろんなチームメイトからも話がきたりする選手、人望がある選手という印象が強い」澤村さんから見た圍選手はこのような印象だそう。澤村さんも常々おっしゃる「GKとして一番と言っていいほど大事なのはコミュニケーション」。圍選手はまさに、この言葉を体現している選手なんですね。「試合に出れていない時と、今のように試合に出続けている時と比べて傾聴力の部分で変わったこととかはないの?」と澤村さんから圍選手へ、”ステージや状況に傾聴力は左右されるのか”といった質問が飛びます。「僕自身は変わってないはずなのに、自分の今の立場によって周りの話し方であったり内容であったりが変わるなと思ったことがありました。自分がどの状態でもコミュニケーションを取り続けることができるようにしておくことで、自分自身の成長に大きくつながるなとここ三年ほどで感じましたね。」圍謙太朗が実践する "自分を表現し、組織と合わせる" 方法「 トップカテゴリーでやっている選手たちは全員 ”自分を持っている” と思っています。そのような自分の絶対曲げれない部分をどうやってチームで合わせていってるんですか?」との進行からの問いかけには指導者である澤村さん、選手である圍さんのお二方が答えてくださいました。「昔はよく、自分の考えや主張をはっきり伝えるようにしていました。しかし、今中学生や高校生へ教える時は少し変わった部分があります。それは、あまり自分の主張を中心に伝えなくなったことです。これは、自分の中で言いたいことを押し殺しているという意味ではなく、必ずなぜそう思ったか・なぜそれが正しいのか などといった ”なぜ?” を大事にコミュニケーションを取るようにしています。ここのバランスはトップカテゴリーの指導者はうまいなと、自分がトップで仕事して感じた部分でもあります。自分を振り返ってみると、どの年代でも選手たちを認めることがよりできてきたかなと思っています。」指導者としてのキャリアを踏んでいき、さまざまなカテゴリーでのさまざまな年代の選手を指導してきた澤村さんだからこそ気づくことのできる”自分自身の傾聴力の変化”。圍選手は、選手目線からまた違った角度からの考えを共有してくださいました。「もちろん自分を持っていないといけないと思います。しかし、今の自分はこれまでの自分が作り上げたもの。これからの自分は、周りの人や指導者の方々からの影響、教えでできていくと思います。人との会話から吸収して、相手の意図を理解するために自分で分析しないといけないですし、向こうが聞く耳を持っていない状況もあると思います。これを積み重ねていって、お互いで理解しあい、会話できるようになれば一番いい関係ができます。何回トライしても会話が成り立たないような相手の場合は、会話を成立させようとするエネルギーではなく、相手の意図やいっていることを自分で分析するエネルギーに集中した方がいいですね。」できないものを考えるのではなく、できることを考える。他人事ではなく、自分ごとに考える圍選手から、コミュニケーションの極意を学ばせていただきました。経営者とGKは似ている?サッカー選手のみならず、他競技や他業種の方ともよく交流するとおっしゃる圍選手。その中でも、特に経営者の方と接する際にGKと似ていると感じるそうです。「GKは前にいる10人のチームメイトを動かして、いかに失点しないようにするかを考えます。試合に負ける時は必ず失点していますし、負けてしまうと必ずGKに目がいくと言っていいほどチームの責任を背負うポジションだと感じます。GKと同じで、会社でうまくいっていない時に見られるのは社長です。経営者の方とお話しする時、業績が悪化したらどうしているんですか?と絶対聞くようにしているんです。不思議と返ってくる答えはみなさん一緒で、”何かを言う前にひたむきに取り組む姿を見せ続ける” とおっしゃるんですよ。背中を見せ続けて社員を信じる経営者と同じで、チームメイトを期待するっていうのもGKには大切だなと感じました。」これには澤村さんも、「サッカー以外の方の話を聞くことは大事」とおっしゃいます。サッカーのみならず、さまざまな分野においてその分野に精通している人や中の人からの意見、アドバイスも大事ですが、また違った角度や視点からの捉え方も必要です。”そこに共通点を見出し、自分に活かす力” を持つために必要になってくるものが傾聴力であると今回のお二方のお話から感じました。現役選手と考えるGKの開始姿勢 プレジャンプとゼロコンタクト日本をGK大国へ。 指導者がすべき、”受け入れる指摘"