「この本はタイトルにある通り、13歳を分岐点としてアートの捉え方やアート思考の養い方に言及しています。なぜ13歳というワードが用いられているのか。それは、中学校における美術の授業が大きく関係しているんです。」近年、よく耳にするようになったアート思考。そのアート思考を養うべきタイミングとされている ”13歳” の意味とは?また、アート思考は日常においてどのような状況下で発揮されるものなのか?を『本を読まずに参加する読書会 Booked』主宰の浦野さんによる図解と解説を交えながら参加型ディスカッション形式で進行する時間となりました。“13歳から” に込められた想いと、アート思考を養うためにすべきこと「本の冒頭では、こちらの一枚の絵画にまつわるエピソードから始まります。この絵を見た、四歳の少年が『この絵の中にカエルがいる』といったんです。これはモネが描いた有名な絵画なのですが、カエルはどこにも描かれていません。少年には、絵画には描かれていないカエルが、水の中に泳いでいるように想像できたのです。大人になってくると名画の本物を目にしたときに、横に書いてある解説文や何年に誰によって描かれ、タイトルや描かれているものは何なのかなどの既存の情報に目がいくのではないでしょうか。四歳の男の子はそんなところ見ないんですね。つまり、じっと動かない一枚の絵画を目にし、自分なりの答えを導き出すことこそが “アート思考” であり、万物に自分なりの答えや考えを持つアート思考はこれからの世の中を生き抜くために必要なものだと筆者は記しています。」Bookedを主宰する浦野さんのこの言葉から会がスタートしました。今回取り上げる書籍は『13歳からのアート思考』。当時美術教師をしていた作者が「大人にこそ必要」と語るアート思考について、養い方や生かし方が書かれている書籍です。ここから浦野さんは、この書籍に込められた筆者の想いを語ります。「この本の作者は、ご自身が当時中学校の美術教師だったことから学校教育科目としての美術に対しての意見も述べています。この本のタイトルにある通り、13歳を分岐点としてアートの捉え方やアート思考の養い方に言及しています。小学校から中学校に上がった時の、「好きな科目」としての人気の下落度合いはどの科目よりも美術が一番大きいんです。これの原因として、中学校での美術が個人の創造性を奪っていることにあります。授業では絵を描くことやものを作ること、アート作品の知識を得ることを中心に展開されています。しかし、筆者は『創造性や自分の物の見方を養うには作品を見ることが最も大切である』と主張しているんです。」答えを決められたものや、テーマに沿った創造物を作る時間が本来の美術とは相反しているということでしょうか。「自分はこの作品のこの部分にこう感じた。」といったような自分なりの捉え方こそがアート思考であり13歳から養うべき思考力であると思いました。アートは植物に似ている?「書籍の中で、筆者は『アートは植物に似ている』と言っています。みなさんはたんぽぽを思い浮かべるときに何が真っ先に頭に浮かびますか?おそらく、大半の人は黄色い花を思い浮かべるでしょう。しかし、一本のたんぽぽが花を咲かせる時期というのは一年のうちの一週間程度だそうです。つまり、たんぽぽのほとんどは花を咲かせていない状態にあるということです。花も根っこがあって、茎があってこそ咲くもの。私たちが、たんぽぽとして思い浮かべる花はほんの一部分でしかないということですね。アートも同じように、作品としてのイメージが強いですが、実はその作品が生み出されるまでの過程がアートの本質であると筆者は述べています。真のアーティストは、アートという植物を育てることに一生を費やす人であり、その花を咲かせることよりも過程を楽しむ人のことを指すということです。」と語る浦野さん。この書籍で述べられている ”真のアーティスト” というのが、アート思考が備わっているが故に表現される言葉であると浦野さんの解説から感じ取ることができました。少しずつ参加者の皆さんもアート思考やアーティストについての理解が深まり、浦野さんの問いかけにもそれぞれが思い浮かぶ回答や考えを表現していくようになります。まさに、イベント中にアート思考を養っていく時間となっていました。「先程お話しした、たんぽぽの例えが美術の話になるとこのような構図になるんですね。昔は注文を受けて宗教画や肖像画を描く美術が主流でした。ここでは、以下に正確な表現ができるかが求められたんです。写実されているものが正解とされている時代でした。ここから20世紀になりアーティストたちがどんどん誕生していくわけです。例えばピカソやゴッホ、モネなど、 ”自分なりの表現” をアートに落とし込んできた人たちです。こういったアーティストたちが軒並み世に出てきたのには、あるものが原因なのですがお分かりですか?それは、カメラの登場です。約百年前に生まれたこの文明の力が、20世紀以前のアートとされていた宗教画や肖像画を人間が表現しなくてもいいものに変えてしまったのです。カメラの登場から、より人間にしか出せない、アイデンティティを表す作品に注目が集まるようになりました。これこそが真のアーティストが生まれた背景であり、アート思考の人々にスポットが当たった瞬間だったんです。」これまでの芸術、美術のあり方を大きく変えたカメラの存在。人間の行動が機械によって代替されることで、人間にしか表現できないものや個々人が描く世界観に魅了されていく人々が増えたのですね。現代社会においてもAIの普及や人の仕事を機械が行うようになっていくことでより真のアーティストが注目を浴び、人々の中にアート思考が必要になってくるのではないかと思います。「アーティスティックなチームは、ファンが多い」「人に解説してもらったり、話を聞かせてもらうことで自分の中で対比ができて、自分で本を読んでいる感覚よりもさらに深い学びに繋がりますね。1冊の本を読んでいるというより、何人もでディスカッションしながら読んでいる感覚があるので頭の中にもかなり残ります。特にカメラの登場という部分。いつかきっと人間が不要になる時が来るのかもしれないという危機感を抱いておかないといけないと思いました。この感覚は持とうとしても持てないと思うので。」こう語るのは、今回ゲストとしてご参加いただいた井手豊さん(広島市立広島工業高等学校サッカー部監督)。「正解がない中で、自分の思ったもの感じたことをこのイベントでも表現しようとしました。頭がすこし複雑になった時もありましたが、自分自身の色を探っている心地よさもありましたね。これが、アート思考かと思いました。初めは自分に向いたベクトルが、他の人の感じ方も気になるなぁと外にベクトルが向く瞬間もあったりして。アート思考、非常に面白いですね。」初参加のBookedで今回はアート思考がキーワードということもあり、参加型のディスカッションで進められた内容が腑に落ちた様子でした。浦野さんから井手さんへは「サッカーにおいて飛び抜けて強いチームには、オリジナリティや真似できないような違いといったアーティスト的な部分が必要なのか?」という問いかけが。「端的にいうと、誰がみても応援してもらえるチームが “アート的なチーム” です。勝ってても、面白くないのはすべきことだけを遂行するチーム。大会での優勝回数が少なくても、常に特徴ある選手が出てくるチームは人気があったりしますもんね。サッカーには一定数ロマンス主義もいるので。」サッカー部での指導の傍ら、広島県の高体連技術委員長もされている井手さんがさまざまなチームを見られてきた知見をもとに ”サッカーチームにおけるアートとは” といった文脈で回答されました。今回のキーワードである、アート思考。それはビジネスのみならず現代社会やスポーツにおいても重要な思考方法であり、「我々もまだ遅くない」と感じさせてもらえるほどに必要性に気づく貴重な時間となりました。盛り上がり必至の人気企画。本を読まずに参加する読書会『Booked』サッカー現場に落とし込む、ビジネスにおける ”リーダーシップ論”"本を読まない読書会" で考える、サッカーチーム理論