「今回ご紹介する本は2022年の7月に出版された教育が大きなキーワードとなる本です。この本を紹介しつつ、これからの日本の教育についてみなさんと考えていきたいと思います。日本の社会問題を教育から変えていこうといったことが記されています。伸び悩む日本、メンタルの幸福度の低い日本を教育から変えていくためにみなさんとディスカッションしながら考えていきましょう。」今回のBookedテーマ書籍は、『2040 教育のミライ』。民間側の視点から日本教育をとらえられた本となっています。この本をBooked主宰の浦野さんを中心に、都立保谷高校教員の田中隆晴さんをゲストにお迎えしディスカッションを展開していきました。教育現場の “外” からの見え方で書かれた本を、教育現場の “中” で過ごされるゲスト指導者と考える時間。ここから、日本教育の新たな歩みを見つめる貴重な時間となりました。世界と比べて明らかに低い ”日本人の自己肯定感” は教育が関係している?!まず初めに、参加者の皆さんで『日本の教育における問題点』というテーマで意見交換を行いました。「日本に生まれると気が付かないことなのですが、北欧で生まれた日本人の友人からは『そもそも学校で行われている科目や授業内容がまるで違う。』という話も聞いたことがあり、学力をどこまで学校教育で養わせるべきかを考える機会が多いです。」と浦野さん。「シュタイナー教育というものが世界で少しずつ広がってきています。要は、知識の詰め込み教育ではなく、個性となる発想や新たな視点を養うものです。日本の学校などの公的教育はまだまだ知識を広げる教育に偏っている気がします。」と田中さんは語ります。こういった、日本における教育の課題ついて参加者の皆さんも交えたディスカッションを踏まえた上で、本の内容に入っていきました。「ここで、面白いデータが紹介されています。『自分は価値のある人間だと思うか?』という問いに対して、日本以外の国は約八割が『はい』と答えるのだそうです。しかし表からもわかる通り、日本人が『はい』と答えるのは全体の約4割。半数にも満たないんです。つまり、日本人の半数以上は自分自身に価値を見出していないということになります。先ほども申し上げた通り、これは世界の中でもかなり少ない割合です。この著者はあくまでも、教育現場の外の方なので個人の推測ではありますがこの原因として『人と比べてしまうこと』『大人に対する依存心』をあげています。学校や大人による ”こうあるべき” といった人材の育成や、子どもや生徒に対する命令が多く、自らの頭で考え行動するという癖がそもそもつかないといったものです。」浦野さんの図解による解説に、田中さんをはじめ参加者の皆さんも日本の教育課題として捉えている様子。さらにここから、教育の当事者となっている5つのものについて話題は展開していきます。「著者は『教育の5大当事者』として、①省庁 ②親 ③社会 ④塾 ⑤学校 をあげています。この中でも特に学校に関して、負のスパイラルが起きていると訴えておられます。日本の小中学校での受験文化に言及されているのですが、公立中への信頼の薄さから私立中への受験を決め、受験の難化によって早期の受験勉強を余儀なくされ『子供が子供らしく過ごせる時間が減少してしまう』という流れです。この著者の意見に当てはまる事象が起こっているかどうかは、地域差もあるとは思いますが事実としてこのような負のスパイラルが存在しているということですね。」浦野さんが解説くださったように、地域差があるとは思うものの、全国にこのような事象が乱発していくことを危惧する必要はあると思います。日本の現状からは考えられない、驚くべき中国の教育改革。「世界でも、ヨーロッパを中心に教育改革が進んできています。特に中国の教育改革についての内容は新鮮で、一番驚かされました。中国では、双減政策というものが進んでいます。『双減』つまり、二つのものを同時に減らすという意味ですね。その二つのものというのが、宿題負担と学習塾です。これまで行ってきた受験特化型の教育を問題視し、抜本的な改革を打ち出したのです。スローガンを掲げるだけでなく、徹底して実行しているんです。宿題負担の軽減に関しては、宿題にリミットをかけて規則に反した学校が出るとかなり厳しい罰則を与えるといった動きをとっています。子どもの睡眠時間を確保し、これまで宿題に費やしていた時間をスポーツや読書などに充てるという狙いです。学習塾削減に関しては新規での開設を禁止したり、現存の学習塾をNPOに再登記させたりと根本的に学習塾の在り方を見直しています。学校の長期休み期間の開校を禁止するなどかなり徹底的に実施しているそうです。その他、私生活における『オンラインゲームの規制』なども行われています。」この本で述べられていた中国の『双減政策』には、「日本もそうなればいいのに」と思った方も多いはず。いい大学を出て、いい会社に就職することが果たして本当の幸せに繋がるのか?いい大学に入るための、中学・高校での受験激化や競争激化が本当に子どもたちの未来に繋がるのか?といった疑問が出てきます。これからの日本の教育を考えていくきっかけにするために、こういった他国の教育の取り組みに目を向けるべきだと思いました。「最後に、これからの日本教育について述べられていた部分を紹介します。これからは教育を通して忍耐強さよりも粘り強さを発揮できる人材を育むべきだと著者は述べています。不条理を我慢したり自分の意思を抑える人間になるのではなく、自分のやりたいことを追求し、失敗しても試行錯誤を続ける。この似て非なるものを大人たちも心がけようというものでした。」これからの日本の教育を考える「中国はやっぱり思い切るなぁという印象を受けました。これまでさまざまな文化を作りながら、現代にフィットしたかのようなこれまでとは180度かわった双減改革に踏み切ったのはすごいなと思いますね。こういった改革を進める意思決定の強さは日本ではなかなか難しいことなのかなとも思いました。特性という言葉で片付けていいのか分かりませんが、国のトップや我々教育現場の人間の含め変えていかないといけないものなのかなと。」田中さんは今回の内容で最も印象に残っているものとして中国の双減改革を挙げてくださいました。中国の大胆な改革は、トップダウンだからこそできるもの。日本においてはなかなか国家の仕組み上難しいとはいえ、声をあげていくことも大切です。ここで、浦野さんがこの本に対して抱いた印象を共有してくださいました。「私はこの本を面白く読ませていただきました。教育の外部からの視点を踏まえた意見が述べられていて非常に興味深かったです。しかしこの著者はいわば教育のエリート街道を突き進んで現在のキャリアを築いており、自身の娘にもかなりの教育費をかけています。したがって、そういった方の定点観測的な書籍であるという認識は持っていただきたいです。優秀な人間にとって何が足りないのか、そういった少し上の角度からの視点で書かれている印象を受けました。実際、日本の教育を受ける対象となる人は多様です。大多数は、能力を高めるために学校があるのではないと思います。これは、サッカーの指導に共通するものがあると思ったんです。実際のサッカー指導者は決して一流のプロや優秀な選手ばかりを指導しているわけではないですよね。部活の先生や少年サッカーの先生は、違うところに目的を持っていると思ったんです。ウェルビーイングであったり、自分や他者の幸福のためといった思いを持っている指導者の方が多いと思いました。」このような、浦野さんがテーマ書籍に対して感じた印象に田中さんも続きます。「私は高校のサッカー部顧問として活動していますが、リーグ戦や公式戦をやり進めるうちにもちろん強いところが勝ち進んでいきます。果たしてこれが本当に、サッカーを楽しむ選手たちの幸福に繋がるのかと疑問を抱いたことがあります。一部の人間だけがのしあがれるツールは果たしていいものかと。ただ、それがあるから僕たちが得れるものもあるとは思っています。」学力や経歴、お金がまだまだ幸せの指標(ステータス)となってる日本。良い悪いを考える前に、「果たして本当にこれが皆にとっての幸せなのか?」「もっと多様的な社会を目指せないのか?」と常に思考を巡らせ、その根本にある ”日本の教育が抱える課題” により向き合う社会の構築を少しずつ進めていくべきなのではないか。今回のBookedは、これからの日本の教育を考えるきっかけになりました。盛り上がり必至の人気企画。本を読まずに参加する読書会『Booked』『13歳からのアート思考』に学ぶ、自分の色を表現し “真のアーティスト” になる方法。サッカー現場に落とし込む、ビジネスにおける ”リーダーシップ論”"本を読まない読書会" で考える、サッカーチーム理論