2022年7月15日にJFAが策定した「ナショナル・フットボール・フィロソフィーとしてのJapan's Way」。日本代表がW杯でトロフィーを掲げる未来を目指し、そこから逆算して今何ができるのかを示すものとして発表されました。日本サッカー界のフィロソフィーを確立するためには、街クラブ、部活動、ユース、プロ、全てのカテゴリーに関係するサッカー関係者、とりわけ指導者の共通理解が必要不可欠です。Footballcoachでも新たな企画としてこのJapan’s Wayを取り上げ、ご協力いただいているさまざまなカテゴリーのサッカー指導者の方々をゲストにお招きしてみなさんと一緒に日本サッカーの未来を考察します。今回は、第三章『プレービジョン』を軸にゲスト指導者の天野圭介さん、杉山心持さんとディスカッションを交えながら、『日本代表として世界のトップを目指すプレービジョンとは如何なるものか』『プロを本気で目指す育成年代の選手に求める、勝利を手繰り寄せるために必要なものは何なのか』を考えました。「トレンドとしての言葉の一人歩きではなく、一人一人の理解に落とし込む必要がある」第一部で焦点になったのは、『次のW杯に向けた日本代表の戦い方』。2022年のカタールW杯での日本代表の戦い方を踏まえ、これからの四年間で日本代表が突き詰めるべきものをお聞きしました。「言葉によって解釈が変わるのも前提でお話しすると、"シームレス" がキーワードになると思います。途切れないという意味ですが、攻撃・守備においてシームレスな切り替えが世界で勝っていくためには必要であると今回のW杯で日本以外の試合も見ても思いました。ボールを奪うことだけでなく、即時奪還、即ゴールへ向かう姿勢をどのように変化させていくのかに期待しています。」(杉山さん)「たとえば、相手ゴールに近い位置でボールを奪う守備から攻撃につながる回数がこれまでよりも多くなったというパーセンテージがデータとして出てきた時に、それが "日本サッカーのトレンド" として言葉だけが一人歩きすると、正しい個人を伸ばすことに繋がらない可能性もあるのではないかと思います。サッカーはゴールゲームなので、『ゴールを奪うこと』と『ゴールを奪われないこと』が一体化した上で、高い位置でボールを奪うことの有効性を考えなければなりません。これを理解した上で、育成年代の選手たち一人一人に個別に伝えていけるようになることが、今後W杯で躍進していくためのキーポイントになると思います。本当に選手一人一人が理解できているものなのか、というところまで落とし込む必要がありますね。」(天野さん)杉山さんと天野さんのお話から、Japan's Wayで記されている日本のプレービジョンにおける指針、さらにはカタールW杯で日本代表が世界に示した結果やプレービジョンを『新しい日本サッカーのトレンド』という言葉に集約するのではなく、これからの日本を背負う育成年代の選手たち一人一人の理解に落とし込む必要があると感じました。選手ファーストを軸に、チームとしての方針も作り上げる 「育成年代においても、チームで一貫したプレービジョンを共有することは重要です。これは戦術や規律といった勝つために行うピッチ内での行動だけでなく、選手の向上心やサッカーが本来持つ楽しみを引き出すという軸を持った上でのもの。その上で気をつけることは、指導者やチームが目的だけを見過ぎないことです。それぞれの選手によって持っているビジョンや目的も違います。選手たち一人一人が何を求めているのかを理解しないと、選手が感じているものを表現できなかったり、やりたいことができなかったりする時間がすごくもったいないと思います。この部分は自分自身にも言い聞かせながら、選手一人一人に向き合う心構えでいます。」(天野さん)「大事にしていることは、『子どもたちのサッカーをエンジョイする気持ちを尊重し、クラブとしてのビジョンや指導者としての学ぶ姿勢を形作ること』です。保護者の方からも預かっている大切な選手たちなので、三者一体となった育成も心がけています。選手だけでなく保護者の方にもこういっ純心育成をしているという発信は欠かせません。さらに、勝利への考え方も子どもたちによく話します。"勝つために手段を選ばない" のではなく、選手たちが普段取り組んでいるものの延長線上としての勝利を目指しなさいと指導しています。」(杉山さん)トップカテゴリーはもちろんですが、育成年代では特に選手それぞれの個性を潰さない、邪魔しないように理解した上でのチーム方針やプレービジョンの共有が必要であると改めて感じました。「このクラブ、チームはこういうサッカーを目指しているから、こういうプレーをしなさい。」といった指導は間違いなく選手たちの成長の妨げにもなります。常に、選手ファーストな考えをベースにしたプレービジョンの構築、個々への共有が重要です。日本の未来を担う、育成年代の選手と指導者に求めるもの「杉山さんが長年ご自分のクラブを持たれてきて、成長させるために子どもたちや指導者の方々へのアプローチの仕方で『こういうことをやったらうまくいったな』という体験談やエピソードはありますか?」天野さんからの質問に、杉山さんは次のように答えてくださいました。「小さな街クラブなので、コミュニケーションは互いにとりやすい環境です。自分が代表という立場にいる以上は、トップダウンせずにボトムアップを意識しています。なるべく他の指導者や選手たちの声を取り入れています。一緒にいる指導者の意見を互いに聞きながら、『じゃあ、こうしていこうか』というコミュニケーションを行うことで信頼関係も構築されてきました。指導者が同じ方向性を向けると、選手たちにも伝わると思います。選手それぞれへのアプローチの仕方も共有しながら指導にあたっています。」「杉山さんのおっしゃった、感情を皆が出せるような心理的安全性の保たれた環境づくりは私も大切だと感じています。これまでは経験則で作られてきた環境が、これからは意図的に作っていくことで違う角度から日本サッカーとしてレベルアップできるのかなと思いました。」と天野さんからも "指導者が行う選手ファーストな環境づくり" への言及が。「子どもたちがこれからJリーガーになりたい、日本代表に入りたいと思っているのであれば、資料にもあった日本サッカーが掲げるプレービジョンからの逆算として個の技術を養わなければならないですし、何より育成年代でも『勝利へのメンテリティ』は備えるべきだと重要視しています。」(杉山さん)「資料に書かれていた、『最後まで諦めない気持ち』の部分はまさに三笘選手のスペイン戦でのプレーで表れましたよね。あのシーン・あの映像・あの画像一つだけで、みんなが同じ方向を向くことができます。色々な選手たちの多様性を高めて、成長スピードを高めるために "個人にフォーカスしましょう" といった方向性があるのであれば、その個人に関わる人数や分野を広げていく。指導者がよりマネジメントもできて、さらにサッカーの要素も伝えていける存在にならなければいけないと思っています。」(天野さん)長きにわたり育成年代の指導に携わる指導者の方々の対話から、これから世界に羽ばたく育成年代の選手たち一人一人に寄り添った選手ファーストな姿勢が、これからの日本サッカーの礎になると感じました。日本の道筋 "Japan's Way" を徹底議論から読み解く第一章 『フットボールカルチャーの創造』第二章『望まれる選手像とは』第三章『プレービジョン』(本記事)第四章『将来に向けた日本のユース育成』第五章『フィジカルフィットネスの未来』第六章『将来のサッカーコーチとは?』第七章『フットボール・ファミリーの拡大』