2022年7月15日にJFAが策定した「ナショナル・フットボール・フィロソフィーとしてのJapan's Way」。今回は、第四章『将来に向けた日本のユース育成』を軸にゲスト指導者の陳彦夫さん(台湾代表GKコーチ / ザスパクサツ群馬U18 GKコーチ)、満留芳顕さん(鹿児島ユナイテッドFC営業部 / GKスクール コーチ)とディスカッションを交えながら、サッカー選手として、人として飛躍する人材の育成について考えました。イベント動画全編視聴はこちら幼少期の子どもたちは、サッカーを楽しむことが第一優先「5~8歳くらいの幼少期の子どもたちには、まずはサッカーを楽しむことを伝えるのが第一優先かなと思います。この年齢で専門的にサッカーのみをやっている少年少女はほとんどいないと思っています。他の習い事と並行してサッカーの練習に通っている子どもたちもいるでしょうし。まずは球技って楽しいな、サッカーって楽しいなと感じてもらい、サッカーを選んでもらうことが大事だと思います。」(満留さん)「育成年代を初めて指導したのはドイツで四歳の子どもたちだったのですが、四歳なのに40分間ずっとダイビングし続ける子がいました。やっぱり楽しいからそれだけ続けることができるんだなとその光景を見て感じましたね。今は中学生や高校生年代、大人を見させてもらっていますが指導中にその子の顔が思い浮かびます。指導者としては、目の前の選手の表情を特に大切にしています。」(陳さん)お二方が共通して語るのは、幼少期の子どもたちへの指導でスポーツ、サッカー本来の楽しみを伝えることの重要性。陳さん曰く、「その四歳の子は『テレビで見たノイアーがカッコよかった!』とある日突然GKグローブを持ってきたんです。育成年代の子たちにはそういった憧れの存在も必要なのかもしれませんね」とのこと。ここから、お二方が育成年代GK指導者として伝えたい『育成年代のGK指導で気をつけてほしいこと』に話は移ります。サッカー指導者に伝えたい、育成年代GKへのアプローチ「GKは他のポジションに比べて、一つのプレーが失点や結果につながります。特に育成年内のうちから、そういったプレーへの指導者や選手からの心無い言葉が深い傷になることもあります。ミスは誰にでも起こりうる中で、ミスだけを指摘するのではなくいいプレーには正当な評価をしてあげてほしいですね。」(満留さん)「いいプレーに対しての評価が少ないと、『これじゃダメなのかな』と選手も不安になります。さらに、指導者が行なってきた方法を選手に当てはめて指導するのも良くないかなと。選手の体格やクセによって、指導者の正解が必ずしも正解とは限りません。目の前の選手それぞれに寄り添ってアプローチしてほしいと思います。」(陳さん)お二方ともJクラブアカデミーやJクラブが運営するGKスクールで長きにわたり指導を行い、数多の選手たちと接してこられた中で感じた育成年代GKへのアプローチを共有してくださいました。最後に、2つ目のトークテーマに掲げた『日本におけるエリートユース制度がもたらす影響』について語っていただきました。原動力は憧れの存在、台湾では一風変わったエリート発掘が...「台湾では、実は6年ほど前までトレセンがなかったんです。そうやってエリート選手を探し出すのかというレベルだったのですが、2015年ごろから各エリアでトレセンが始まりました。台湾は主に原住民と都会に住むような人種の2つに分かれているのですが、地域によってこの人種の割合も変わります。『この地域は原住民が多いので、足の速い選手やフィジカルの強い選手を育てよう』『この地域は原住民以外の人種が多いので、技術やフィジカル以外のフィーリングを持った選手を育てよう』といった、地域や人種に合った選手たちの育成を行なっていたんです。」(陳さん)日本ではトレセンやJFAが主催するエリートプログラムが主流になっていますが、台湾では陳さんのお話のように地域別や人種別によって特色のある選手たちを発掘しようというエリート発掘が行われているそう。同じアジアでも、このような日本とは少し変わった方法でダイヤの原石を磨いていく育成方法は非常に興味深いお話でした。「ストライカーキャンプやエリートユースプログラムなど、将来の日本代表候補たちを集めてトレーニングを行う日本のエリートユース制度に関しては、ポジティブな考えしかないですね。チームとしてハイレベルな集団ではなくても、国内トップクラスの光り輝く個を埋もれなく発掘することも可能になると思いますし、その選手の所属チームや周りの選手に与える影響も大きなものがあると思います。選抜やトレセンも同様、レベルの高い選手たちが刺激し合って自チームに還元していくというサイクルは必要なこと。身近にエリート選手という憧れの存在がいることで、選手にとっても目指すべき基準や目標ができ、より原動力になると思います。」(満留さん)選手としても、人としても身近な憧れの存在が自分自身を強くする。お二方のような育成年代指導者の声が、エリートユース制度のような仕組みが、サッカースキルだけではなく選手たちの人間力を築いていく重要な礎になっていると感じました。日本の道筋 "Japan's Way" を徹底議論から読み解く第一章 『フットボールカルチャーの創造』第二章『望まれる選手像とは』第三章『プレービジョン』第四章『将来に向けた日本のユース育成』(本記事)第五章『フィジカルフィットネスの未来』第六章『将来のサッカーコーチとは?』第七章『フットボール・ファミリーの拡大』