JFAが策定した日本サッカー発展への指針『Japan's Way』の第7章「フットボール・ファミリーの拡大」をテーマに、地域に根ざしながら多角的な実践を展開する街クラブ指導者・香川敬典氏(シーガルFC 代表/監督)と隈崎大樹氏(OSO SFL代表)が対談。「サッカーを街の文化に変えるにはどうすればよいか」という問いに対して、二人はそれぞれの現場で試行錯誤しながら築いてきた実体験をもとに、地域に根づくフットボールの可能性を掘り下げた。競技の枠を超えて、人や社会を育てる視点から紐解くその実践は、現代の日本サッカー界にとって大きな示唆を与えてくれる。フットボールは目的ではなく手段香川:香川県にもJクラブはありますが、まだまだ地域の生活にサッカーが根づいているとは言い難いんです。日常にサッカーが溶け込むような文化を少しずつでも作っていきたいという思いがあります。隈崎:僕も同じです。フットボールは、あくまで人や地域をつなぐ手段。サッカーがあることで人が元気になったり、地域が活性化したり、そういう循環を作ることが本当の価値だと思っています。香川:試合の勝ち負けや技術の向上も大切ですが、僕が指導していて一番嬉しいのは、「サッカーを通してその子が人間として成長したな」と思える瞬間なんです。隈崎:まさにそうですね。プレーそのものだけでなく、サッカーをやってる時間が人生にどう影響を与えるかを常に意識しています。香川:地域に根ざしたフットボールって、結局「人と人との関係」なんですよね。子ども、保護者、指導者、地域の人たちがいかに自然とつながれるか。隈崎:人の成長も、街の元気も、すべては「サッカーを通して」生まれると信じています。それを具現化していくのが僕らの仕事ですね。子どもたちの社会経験を地域とともに創出する香川:街クラブだと、どうしてもクラブ運営と指導が分断されがちなんですが、僕はその境界をなくすことが大事だと考えています。練習後に飲食店と連携した企画などもその一環です。隈崎:僕も、クラブの存在自体が「街の素敵な一部」になってほしいと思っています。だから指導者は、ピッチの外でも活動するべきなんです。香川:例えば、うちのクラブでは地域の農園と組んで「トマトのピザ」や「トマトのアイス」を作っています。これがきっかけで子どもたちと地元のつながりが深まっていくんですよ。隈崎:地域と一緒に活動する中で得られるものって本当に多いんですよね。スポンサーも単なるお金の支援じゃなく、一緒に地域の価値を高めていける仲間だと考えています。香川:街にあるお店、美容室、企業とつながりながら、選手の「社会経験」にもつながる場を作っている感覚ですね。隈崎:子どもたちにとっても、そういう活動を通して「サッカーが日常とつながっている」実感が育っていく。それが一番の価値かもしれません。「ただのクラブ」にならないための先行例とアイデア香川:クラブ運営の工夫として、スポンサーさんと一緒にグッズを作ったり、食事を提供してもらったりすることで、地元の人との関係も自然と深まっていきました。隈崎:サッカーって、ただのスポーツではなく、他の産業や文化と結びつくことで、新しい価値を生み出すんですよね。それをどう実践に落とし込むかが大切だと思っています。香川:僕らのような街クラブだからこそ、柔軟に動けるし、独自の取り組みができるんです。地元の課題やニーズに寄り添った活動こそが、存在価値になると信じています。隈崎:私の場合は北海道で定期的なサッカークリニックを行っています。継続的に北海道という地に通う場があることで、子どもたちの学びが積み重なっていくとともに地域社会にも何か還元できるものはないか日々模索中です。香川:うちは「サラダチキン」の商品開発もしています(笑)。これはプロテイン代わりにもなるし、地域の食品会社と一緒に進めることで地元の支援にもつながっています。隈崎:結局、サッカーを軸にして何とでも組み合わせられるんですよね。それを楽しみながらやれるのが、僕らのような街クラブの強みだと思っています。挑戦する姿を子ども達に見せたい!熱い気持ちを持ち続ける監督紆余曲折の末指導者に。自分が成長できた経験を子ども達にも還元したい。 日本の道筋 "Japan's Way" を徹底議論から読み解く第一章 『フットボールカルチャーの創造』第二章『望まれる選手像とは』第三章『プレービジョン』第四章『将来に向けた日本のユース育成』第五章『フィジカルフィットネスの未来』第六章『将来のサッカーコーチとは?』第七章『フットボール・ファミリーの拡大』(本記事)