「イングランドのグラスルーツを長年現場で見てきて、今でも根本的に日本と違うなと感じる部分はあります。それは選手個々人の問題だけでなく、指導者お私たちにも大きな影響を与えているんです。」イギリス ロンドンで選手、スタッフが全員日本人のクラブ London Japanese Junior FCを10年指揮した水野嘉輝さん。 水野さんがイングランドで感じた『グラスルーツにも根付いた "個を伸ばす" 指導』とはどういったものなのか? 水野さんが感じた "イングランドDNA" の本質に迫り、『グローバルな人材を育む環境』にも焦点を当てながら、2023年4月から10年ぶりに日本に帰国する水野さんの大分県での新たな挑戦についてもお話を伺いました。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FshdBcVPyxv0%3Fsi%3DTAQYQsZbm1McRVF_%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E「子どもたちの小さな成功体験を目の当たりにして、ロンドンでの可能性を感じた」-早速ですが、10年指導された日系クラブ London Japanese Junior(以下LJJ)と水野さんとの出会いをはじめにお伺いしたいなと思います。ワーキングホリデーでロンドンに渡ったのですが、生活していく上での仕事を探していた時に、LJJのサッカーコーチ募集を見て即決しました。当時は英語力という言葉が使えないくらいの言語力でしたが。(笑)初めはアルバイトとして関わっていて、社会人のクラブでの監督もしていたので、その二つがこっちで指導してきたチームということになります。-ロンドンで指導者をされながら、幼稚園の先生もされているんですよね。そこはどういった経緯からでしょうか?チームの母体がそもそもが幼稚園だったことが大きいですね。ワーホリのビザが終わりに差し掛かるちょうど1年経ったくらいで、幼稚園の先生もやってみないかとオファーをいただきました。生きていく上でもちろん大事ですし、こういった貴重な機会をいただけることもそうそうないと思ったので、「やったことはないけど挑戦してみようかな」と思ったのがきっかけですね。-そういったロンドンでのスタートからLJJで10年指導されてきたわけですが、LJJで指導を続けようと決意されたのはどういった想いがあったのでしょうか?先ほどもお話しした通り、英語力の不安が当時はすごく大きかった中で、スタッフも選手も全員日本人の日系クラブということで始めやすかったなというのはあります。その中で指導を続けていったのは、幼稚園の方から労働ビザを出していただいたというビザ的な問題もありますが、幼稚園の先生とLJJでの指導にどんどんのめり込んでいったというのが大きですね。異国の地で、日本人だけでやっていくことの面白さを少しずつ感じていったというのが大きな理由です。-具体的に、"異国の地で日本人だけでやっていく面白さ" とはどういったものに感じましたか?僕自身がイタリアに留学していたことがあるのですが、日本人の僕に「アジア人ってサッカーできるの?」といった雰囲気を感じることが多かったんです。もちろん子どもたちの試合の中でそういったものがあからさまにあるわけではないんですが、イングランドに来てからも少なからず感じることもありました。試合をしていても、相手に飛ばされぶつかったりする中で「やるのが怖い」といった子どもたちも多い中で、少しずつ小さな成功体験が積み重なっていくうちに、日本人の子たちでも海外の子たちとサッカーができるようになっていくとわかりました。ここに面白さを感じたということですね。幼少期からの積み上げが重要。イングランドの "個を伸ばす" 指導の本質。-ここからは水野さんが実際ロンドンでの指導で感じた、日本との大きな違いについてお話をお伺いしたいなと思います。日本では ぶつかる=危険 という印象が強いですが、イングランドではグラスルーツのピッチ上でさえもぶつかることは避けては通れないというのを強く感じました。これも一つのイングランドフットボールの要素だと思います。なのでイングランドのグラスルーツでは、怪我をしないような転び方や怪我をしないようなプレーが子どもの頃に身につくんです。これができると大きくなっていっても、しっかりとぶつかっていっても大丈夫なのかなと。こういった幼い頃からの積み上げが、日本と大きな違いを感じた部分です。-なるほど。今おっしゃった部分の積み上げの重要性は、欧州のリーグとJリーグを比較してもよく言われていることですよね。では、実際にどのようにして指導現場にこういった環境を作っていけるのでしょうか。僕自身が基準をどこに合わせるかが大事かなと思います。僕の基準はイングランドにあると思っているので、日本に戻ってもその基準を持ち続けてどれだけ指導現場に落とし込めるかが僕のテーマでもあります。球際の激しさでいうとイングランドの方が激しいと思うので、レフェリング一つとっても大事なのかなと。ファールかもしれないけど、子どもたちがプレーを続けているのであればそのまま流す。こうすることで子どもたちの中にも少しずつ強度が培われていくのかなと思います。ありがとうございます。そういった中で水野さんが10年間見られたイングランドの指導現場から、日本にも還元しないといけないと思われている イングランドフットボールのDNAたるものをお伺いしたいなと思います。そうですね。ここだなと思うのは、やっぱり " 個人" ですね。フットボール的なところはもちろん、パーソナルなところも含めて個を伸ばしてあげることは大事だなと思いました。『感情が出せる、意見をしっかり述べれる、他者や自分の現在地を認める』そういった個性を日本でも育てていきたいなと思います。実際そういった部分でイングランドで学んだエピソードは何かありますか?イングランドのいろんなチームと試合すると、「監督それでいいの?選手たちそんな雰囲気でいいの?」と思うことがよくあります。でも、ピッチの中に入ったらバシっと試合したりするんですよ。(笑)このエピソードとして、特に心に残っている場面があります。対戦相手がお父さんコーチだったんですが、試合中ずっと地べたに足を広げて座って、アドバイスも全くなく「ナイスプレー」「今の良かったよ」としか言わないんです。僕も、「これでいいのかな?」と思っていたんですが、見事にうちのチームが負けてしまって。そこで感じたのが、これがグラスルーツの究極系なのかなと思いました。「監督はこうあるべきだ」というのではなく、試合前日の時点で試合のこと全てが終わっていて、子どもたちが自分たちで試合できるように指導していたんだと思うんですよね。それ以降僕も選手たちに、「いい練習ができるかどうかは、監督が決めるのではなくて自分次第だよ」と常に伝えています。OITA CITY FCだからこそできる、大分の風土にあったフットボールスタイルを見つけていきたい。-では、ここからは水野さんの日本での新たなチャレンジについてお伺いしていこうと思います。10年住んだロンドンを離れて日本に帰国、さらに新天地が大分県となった背景を教えてください。ロンドンに来て少し経った頃に「僕がやってることは特殊かな」と思い始め、いつか日本で中からこの経験を伝えていきたいと思っていました。僕自身も日本サッカーの可能性を感じている一人ですので。そういった想いを持ち続けている中で、自分の想いに共感してくださる方が日本にいれば戻りたいと思っていたので今回ありがたいことに縁あって大分の方からお声がけいただき、日本に戻る決意をしたということになります。でもまだないんですよ、大分に行ったことが。(笑)大分のいいところ教えてください。-未知の場所でのチャレンジということですね。(笑)大分県で具体的にどういった子どもたちへどういった指導を行うのか、新たに立ち上がるOITA CITY FCの紹介をしていただけますか?OITA CITY FCは大分県大分市を中心に2023年4月から活動をスタートします。初めは小学生を対象にしたスクール活動からのスタートとなりますが、「これから世界に出ていくクラブチームを作りたい」という理事長のお話にぜひやってみたいと思い、初代監督として関わらせていただくことになりました。僕が感じたイングランドや欧州のフットボールの雰囲気を出していきたいと思っています。指導の中で全てではないですが、フットボールイングリッシュを入れてみたりすることで、ここで育った選手たちが海外へ興味を持ったりいつでも外の世界に出ていくことができる環境づくりを行う予定です。大分の子どもたちがより参加しやすいようなスクール形態の活動になるので、どんな子どもたちにも平等な機会を与えれるような活動にします。-とても素敵な想いを持たれて活動をスタートされるんですね。水野さんがこのOITA CITY FCで表現したいサッカーはあるのでしょうか?あるのはあるのですが、正直なところ形はまだ見えていません。イングランドのフットボールもいろんな環境や人種、文化が影響して形成されてきたのだと思います。昔の『キックアンドラッシュ(ロングボールを多用する縦に速いサッカー)』なんかも、雨が多いイングランドのドロドロのピッチがあるからこそ生まれたスタイルなのかなと。僕自身が好きなスタイルはもちろんあるのですが、クラブを作る上では大分に根ざしたクラブにしたいです。大袈裟かもしれないですが大分の気候や風土、人柄、文化的なものを自分の実体験から知って、大分に合うフットボールの形をOITA CITY FCで表現していきたいなと思っています。僕一人でなく、スタッフや子どもたちと見つけていきたいですね。欧州にあるような歴史ある街クラブにしたいです。自己表現豊かな選手が集う "ロンドンにある日本の街クラブ"世界で活動する指導者に迫る『グローバル人材を育む環境』