心理カウンセラー 片田智也先生が執筆した書籍『職場ですり減らないための34のやめる』。心の状態に大きく左右すると片田先生がおっしゃるのは、2つの思考『疲弊思考』と『穏やか思考』です。これらが心に与える影響や、それぞれの本質はどういったものなのか?著者がこれまで培ってきた経験をもとに出版された書籍を、著者自らが解説する企画『Book Digest』として開催しました。今回は著書の中から「ポジティブ思考を、あえてやめる」「バカ正直に考えるのをやめる」の内容について伺い、片田先生が書籍では伝えきれなかった内容を、ご自身のお言葉で深く掘り下げてくださいました。疲弊志向と穏やか思考心の状態は2つの要素によって決まると考えています。『物事』と『考え』です。『疲弊思考』は起きた物事の大変さに加え、より疲れやすい感じがしてしまう思考、対して『穏やか思考』は起きてしまった物事は仕方ないけれど、苦しみを最小限に抑えられる思考です。例えば、仕事で企画していたイベントが天候トラブルで中止になった時、誰しも残念に思います。それ自体は自然な感情です。ある人は「せっかく準備していたのに台無しになった」と考えますが、ある人は「本番は中止になったけれど、次に向けての良い練習になった」と考える事ができます。ポイントは、失ったものに目を向けるかどうかの違いです。ここからは『職場ですり減らない34のやめる』の中で紹介されている気持ちが振り回されないためのやめるポイントを3つピックアップして紹介します。『人の期待に応えるのを、やめる』人の期待に応えようと頑張る事自体は否定しませんが、相手がどう感じるかは自分ではコントロールできない事だと認識する事が大切です。たまたま相手の機嫌が悪くて振り回されるというケースもあるでしょう。とはいえ、相手の期待を超えてこそ自分の評価が上がるというのもまた事実。要するにバランスです。自分が元気なうちはどんどん頑張っても良いですが、過度に相手の期待に応える事に固執すると確実に精神は疲弊していくので、うまく調整する必要があります。『「自信を持とう」を、やめる』このフレーズはよく使われますが、人によっては自信を持つためにはどうしたら良いのか真剣に悩んでしまう事があります。自信を持てるかどうかは、シチュエーションや対象によって異なるはずなのに、自信を持つ事が目的になってしまうと、時に踏み出す事をやめる言い訳の材料になってしまいます。『人の期待に応えるのを、やめる』の話にも繋がってきますが、他者を通じて自信をつける事は危険です。周囲からの評価で自信を持つ人は本当に多いのですが、常に他人の機嫌を取り続けるという本末転倒な結果になってしまいます。『自信』という文字の通り、誰かが褒めてくれなくても自分を信じる事が本来の自信です。『人を変えようとするのを、やめる』「馬を水辺に連れていく事はできるが、水を飲ませる事はできない」というイギリスのことわざがありますが、正にこの事です。人が変われと言っても最終的にはその人の意思の力が働かないと変わる事はないです。僕自身も人の意見を鵜呑みにせず、自分で何でも決めてきた方ですが、次第に周りから「彼は自分で考える人だから」と認識され、何も言われなくなりました。逆に、相手の事を変えようと奮闘すると疲れてしまいます。無理に人を変える事なんかそもそもできないと理解する事が大切です。『ポジティブ思考を、あえてやめる』『職場ですり減らない34のやめる』は5章構成ですが、そのうち2つの章をピックアップして、明日から使える思考法についても学んでいきましょう。自信とは結果であって目的ではありません先ほども触れた「自信」。自信さえあれば、と思う方は多いと思いますが、今までの経験を振り返ると、自信の有無は本当に大切だったでしょうか?自信がなくてもやってきた事がたくさんあるはずです。自信があってもなくても行動はできるので、まず踏み込んで欲しいと思います。スポーツの現場において、保護者や指導者が「自信を持てよ」と声掛けするシーンはよくあると思いますが、これについてはどうでしょう。例えば失敗すると大声で怒られるので恐いと感じているのかもしれません。恐いと感じている理由を特定して取り除いてあげる事が周囲のサポートです。その結果選手自身が『成功するか分からない、失敗する可能性が高いけれど、やってみよう』と自発的に思えたら大成功です。まずは保護者や指導者自身が『本番は1回きり。絶対に勝たなければ』と緊張していないか考えてみてください。まずはご自身がリラックスして、選手に向き合う事を意識してみる事をお勧めします。良かれと思ってかけた言葉が逆に嫌な思いをさせてしまうポジハラの文脈で書いた部分ですが、実はあまり好きな言葉ではありません。何でもハラスメントになってしまうのに違和感があるのと、相手が傷ついたとしても言わなければならない事は存在し、その結果相手がどう感じるかはこちらが管理する問題ではないと思うからです。今まで15,000人程の話を聞いてきた経験から感じている事ですが、多くの人は弱さや本音をただ受け止めて欲しいと思っています。どうしたら良いのか具体的な解は求めていないのに、「こうするべきだ」というゴールを先に示されてしまうと困ってしまうのです。声掛けしている方も良かれと思ってのアドバイスなので難しいところですが、相手の気持ちに寄り添う事を意識してみてください。『バカ正直に考えるのを、やめる』結果はそれに向けての行動を重ねたことに対するご褒美結果は自分次第でコントロールできるものではありません。どれだけ頑張ってもご褒美として良い結果がついてくるとは限らない。だからこそ、結果はおまけのような位置づけにしておくと気が楽です。指導者や会社の組織を任されている人において注意して欲しいのが、スローガン的目標と具体的な行動目標を混ぜて考えない事です。スローガン的目標を実現する為に具体的な行動目標をたて、行動目標が適切であるかを常に検証し続ける事がとても重要です。良い結果が出るかは全く別の話なので、そこは切り分けてどこまでドライになれるかが肝。今までの経験上、思い通りの結果が得られた事なんてありません。常に検証し続けてまた新たなチャレンジに繋げていけば良いのです。やっかいなのは、考えと事実の境目が分からなくなること視覚障碍者になり、障害者手帳に記載されている『要介護』の文字を見た時に『私は人の力を借りないと生きられないダメな人間になってしまった』と思いました。主観的な考えですが、当時の自分にそれを指摘しても到底納得できなかったでしょう。不安が大きい時、混乱している時には『事実』と『考え』が混ざりがちです。理想的には、あえて表面的に物事を見て、事実だけを捉え、先の事をあまり考えない事です。人は不安が安心に変わると客観的に物事を考える余裕が生まれるので、そのタイミングを見計らってしっかりと説明する事は大切です。