プレッシャーのかかる試合、思い通りにいかない練習、仲間とのすれ違い。ジュニア世代の子どもたちは、日々さまざまなストレスや緊張と向き合っている。そうした不安定さの中で、どのように心の土台を築き、成長へとつなげるか。実はこの問いは、単にスポーツ指導にとどまらず、教育や子育てにおいても極めて重要なテーマである。本稿では、心理カウンセラーや育成年代の指導者、現場の専門家たちによる対話や実践例を通じて、『子どもたちの「心を育てる」とはどういうことなのか』という問いを再考してみたい。「今この瞬間集中すべきことを意識する」「子どもに『絶対に勝ってこい』と言うように、大人や保護者自信が結果にこだわってしまっているケースが多い」。この言葉を投げかけるのは、心理カウンセラーの片田智也氏だ。試合の勝敗や成績に一喜一憂する親や指導者の姿勢が、無意識に子どもに重圧を与えてしまう。これは、“実力を出せないまま終わる”という現象として現れる。片田氏が重要視するのは、「結果」よりも「今この瞬間、自分が何に集中しているか」だ。子ども自身がコントロール可能な範囲に意識を置くことで、緊張を解き、本来のパフォーマンスを引き出す準備が整うのだという。その鍵となるのが、「権内と権外」という捉え方。これは、自分次第で選択できること(権内)とそうでないこと(権外)を分けて考えるということ。「自分のプレー」や「準備」は権内にあり、「相手の強さ」や「天候」「審判の判定」は権外にある。こうした視点の切り替えが、精神的な自由を生み出すのだ。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fli8V6TgN4GQ%3Fsi%3DcMyOuEZ8JO8OM1R3%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E「子どもたちが奮い立つ場面を作ってあげる」現役時代ファジアーノ岡山でプレーし、現在は岡山県を中心に巡回保育活動にも携わるボブ高瀬氏は、幼児教育の現場から「奮い立つ心」の可能性を語る。「年長の子どもたちは、自然と年少の子の手本になろうとする。何も言わなくても、自分の役割を理解しようとする」。この言葉から浮かび上がるのは、子どもたち自身の中にある“内発的動機”の存在だ。ボブ氏はまた、「教えすぎないこと」を重視する。あえて自分が完璧でない姿を見せることで、子どもたちが自由に動き、試し、失敗しながら自分を表現する余白が生まれる。これは、型にはめない育成への示唆であり、大人が「安心して見守る勇気」を持つことの大切さでもあると気付かされた。「子どもたちの挑戦と失敗を許容する」10年間イングランドで指導者として活動したのち、現在は大分県にて街クラブ OITA CITY FC を率いる水野嘉輝氏は、日本と欧州の教育文化の違いに注目する。「イングランドでは、子どもが“今なにをしたいか”を率直に言える土壌がある。それが、挑戦と失敗を受け入れるベースになっている」。水野氏が指摘するのは、「心理的安全性」という集団文化の存在。心理的安全性とは、個人が意見を言っても否定されない空気のこと。サッカーの現場においては、これが子どもの思考や行動の自由度を決定づける要因になる。水野氏は、日々の小さな問いかけや表情の変化への声かけが、信頼関係の土壌を築くと語る。この観点から考えると、「メンタルトレーニング」は単なる“技術”ではなく、“文化”であり、“関係性”であるともいえる。「わがまま=悪 ではない」水野氏とボブ氏は、「わがままという言葉が日本では誤解されている」と語った。子どもが「やりたいこと」を素直に表現したとき、それを“秩序を乱す存在”として抑圧するのか、それとも“伸び代のある原動力”として受け止めるのか。この問いは、単なる言葉遣いの問題ではなく、子どもへの見方そのものを反映している。自己主張ができることは、個性の表現であり、創造性の起点でもある。大人の役割は、それを抑えることではなく、「どうやって社会的な形で活かしていくか」を導くことだろう。心の成長は『関係の中』で起こる本稿で紹介した3名の語りから見えてくるのは、「メンタルを鍛える」とは、子ども個人の努力に還元されるべきものではなく、周囲の大人たちがどのように関わり、どのような環境を整えるかという“関係性”の中で芽生えるものだという事実である。心理的安全性を土台に、失敗を恐れない挑戦の文化を築くこと。そして、子どもが自分の声を発することを大人が受け止める姿勢を持つこと。そうした日常の積み重ねが、結果として“強い心”や“折れない意志”といった力を育てていく。ジュニア年代のメンタルトレーニングは、テクニックではなく、信頼と対話と余白から始まる。「心を育てる」とは、まさに人間関係を育てることなのだ。▼あわせて読みたい!サッカーに活かす心理学結果を出せる子どもの保護者は〇〇をしない?! 心理カウンセラーが語る ”教育のすすめ” 心理的安全性が保たれた『恐れのない組織』の作り方。子どもたちが持っている ”自らを奮い立たせる能力” の向上を助長する指導者の役割