近年、「海外挑戦」や「欧州ルート」という言葉は、日本サッカー界で特別なものではなくなった。だが、その言葉の先にいる“受け入れる側”が、どんな思想と覚悟で選手を迎えているのかが語られる機会は、決して多くない。本インタビューは、アパレルブランドsoccer junkyを手がけ、過去には横浜FC、現在は水戸ホーリーホックなどのユニフォームサプライヤーを務める株式会社1009 代表の青木速斗氏と、横浜FCの親会社であるONODERA GROUPが経営権を取得したポルトガルのUDオリヴェイレンセSADのプレジデントとして欧州クラブ経営の最前線に立つ関口潔氏の対話。長年サッカーと向き合ってきた両者だからこそ、交わされる本音の言葉。全二本で綴るシリーズの前編は、MCO(マルチクラブオーナーシップ)という仕組みの表層ではなく、その奥にある思想と覚悟を、関口潔氏の言葉から掘り下げていく。MCO(マルチクラブオーナーシップ)一つの企業・資本が、複数のサッカークラブを保有・経営する仕組み。欧州ではすでに一般的なモデルであり、選手育成・移籍・スカウティングを複数クラブ間で連動させることで、選手により多くの成長機会を提供する。近年ではシティ・フットボール・グループやレッドブル・グループがその代表例。第1章|欧州への扉は、誰が、どんな思想で開いているのか青木:そもそも関口さんと僕の出会いも、関口さんが監督を務めた北マリアナ諸島代表のユニフォームをsoccer junkyでサプライさせてもらったところからですよね。あの頃から、関口さんはずっと「日本人選手の価値はこんなもんじゃない」って言っていた印象があります。関口:そうですね。あの頃から思っていました。日本人選手の価値は、間違いなく上がっているし、これからもっと評価されるべきだと。青木:今は日本代表だけじゃなくて、欧州で普通に活躍する日本人が増えてきて、現地でも見方が変わってきてますよね。関口:「日本人はいいよね」っていう声は、確実に増えていますね。青木:その一方で、日本ではまだ「本当に通用するのか」とか、「行っても意味あるのか」っていう声も根強いなと感じるんですけど。関口:そこはありますね。でも、僕自身は日本でサッカーをやってきた人間として、日本人が海外で活躍する姿を見るのは誇らしいし、日本人オーナーのクラブとして、それを受け入れる責任も感じています。青木:単にビジネスとしてじゃなくて、"日本人の立場” としての責任でもあるということですね。関口:そうです。ただ選手を獲得すればいい、という話ではないので。第2章|MCOは“近道”なのか、それとも“覚悟を問う道”なのか青木:MCOって、どうしても「欧州に行きやすくなった」「近道ができた」って語られがちじゃないですか。でも実際は、そんなに単純じゃないですよね。関口:正直、今はまだ近道なんて言える段階じゃないです。今やっているのは、やりたいことをやるための土台作りです。青木:土台作り、という言葉がすごく現実的だなと感じます。関口:例えば練習場の建設ですね。今はポルトガル2部ですが、本当にやりたいことをやるには、1部に上がらないといけない。青木:選手を受け入れるにも、環境がないと成立しない。関口:そうです。選手をスカウトして、活躍の舞台を提供して、育っていく。その循環を作らないと、サッカークラブの経営というビジネスは回らない。青木:移籍金の話になると、日本ではまだ拒否反応が出ることも多いですよね。関口:ヨーロッパや南米では、それが当たり前のビジネスです。でも日本は、部活文化や企業スポーツの影響もあって、「売られる」「移籍する」ことへの抵抗が強い。青木:でも、現実的には移籍してなんぼ、売れてなんぼ、という世界でもある。関口:そうなんです。その価値観の違いは、もっと共有されるべきだと思います。第3章|欧州クラブは、日本人選手の何を見ているのか青木:今日のトライアウトを見ていても感じたんですけど、技術的にうまい選手は本当に多いですよね。関口:多いですね。技術だけで言えば、全然向こうでやれる選手はいます。青木:でも、その中で「獲る選手」と「獲られる選手」が分かれる。関口:そこは、強烈な特徴があるかどうかです。青木:いわゆる"プレーの平均点の高さ"じゃない、と。関口:そうです。平均80点はいらない。何か一つ突き抜けた武器があるかどうか。青木:日本だと、どうしても満遍なくできないと評価されない空気がありますよね。関口:あります。でもヨーロッパは逆で、その一芸に賭けてくれるんです。青木:フォワードでも、目立たないけど一発ある選手とか。関口:そういう選手は評価されます。逆に、技術があっても、ボールを持たない時間に何ができるか、競り合えるか、走れるか、そこが弱いと厳しい。青木:サッカーって、ボールを持っていない時間の方が長いですもんね。関口:そこを日本はあまり評価してこなかった。それが課題だと思います。青木:話を聞いていると、MCOって「行きやすくする仕組み」じゃなくて、「覚悟を持った選手だけが残る仕組み」なんだなと感じます。関口:まさにそうだと思います。>>>>後編へ続く