通報件数は年間5万件を超える子どもの虐待。しかし、現状ではまだ知られていない被虐待児は極めて多く、通報により保護された後も精神的ケアがなくトラウマに苦しむ子どもも多いのが現状です。生きるために必要な子どもの安心・安全に対する確保と行動はセーフガーディングと呼ばれています。セーフガーディングに関する問題についても、日本と諸外国では認識の度合いに差があります。そこで、セーフガーディングに関する問題から、子どもの虐待に関する問題の法的解決策を検討していこうと思います。今回、イングランドで10年サッカーの指導者の経験があり、現在大分県でサッカーの指導者兼幼稚園の園長先生でもある水野嘉輝さんにお話を伺いました。セーフガーディングを動画で学びたい方はこちら雨が降って水たまりができると試合はやらない ~イングランドにおけるセーフガーディングに対する取り組み方~「日本だと水たまりが散見したピッチでも、そこが使えると予定通り行う、イングランドは子どもの利益・権利をルールよりも優先している。」と水野さんは仰ります。イングランドでは子どもの権利条約の中で、子どもの利益・権利を最優先にする旨規定されています。加えて、子どもと関わる仕事をする場合、イングランドではセーフガーディングの講習を受けることが義務付けられています。このことはイングランドの法律に規定されており、単なるルールにとどまらず法的拘束力があるものとして規定されています。さらに、子どもと関わる仕事をする場合、イングランドでは無犯罪証明が必要になるなど、対処の仕方も日本とイングランドでは異なります。イングランドは子どもの安心・安全に関わる問題が浮上した際、その問題に対して法整備化をするのが早い点に特徴があります。イングランドでは、国がセーフガーディングについて大事であると発信した場合、サッカーだとサッカー協会、学校だったら学校法人が啓蒙して教育する仕組みになっています。日本における運動会は楽しさだけではない ~日本とイングランドにおけるセーフガーディングに対する認識~このように、日本とイングランドでは子どもの安心・安全に関する問題が生じた際、対処の仕方、スピードが異なっています。日本では現状、セーフガーディングについて問題が生じているものの、イングランドなどの諸外国に比べてほとんど問題視されていないように感じます。実際に、日本ではセーフガーディングに関する法律は現時点で存在しません。セーフガーディングに対する認識は、イングランドの方が日本より厳しいといえます。では、なぜ日本とイングランドでセーフガーディングに関する認識に差が出るのでしょうか。これについて、水野さんは「日本が比較的他国に比べて安全だから。」と仰ります。イングランドでは8歳の子が登下校や遊びなど、一人で出かけることはありません。。続けて、水野さんは「スポーツ界では教育・指導の一環と考えられていた」と仰ります。日本は昔、厳しく律すること、軍事教練として体育が始まったこともあり、今でいう「暴言・暴力」がそう捉えられなかったことが考えられます。また、日本では運動会などの学校教育のスポーツにおいても競技性向上に重きを置かれています。一方で、イングランドでは、運動会のための練習はありません。スポーツは体を動かす健康のためのスポーツ、楽しむものと一般的に認識されています。指導者はその子の一生の面倒を見れるわけではない「子どもたちと接する上で、その日の子どもの状態・精神面がどういう状態で練習場に来ているのかをできるだけ把握するようにしている」と水野さんは仰ります。練習を無理やりさせてしまうと、暴力・虐待に繋がってしまう可能性があり、大人の都合のいいようにやらせないことが大切なことのようです。やらなくていい選択肢を残してあげることで、子どもがスポーツから離れていってしまうことも防ぐことができます。子どもが心理的に指導者や身近な大人に頼ることができる形こそが、セーフガーディングに沿った関係性であるといえます。それゆえ、水野さんは指導者として子どもの心理面に配慮することを意識しているようです。また日本における指導者に対して感じることは、指導者全員が子どもの心理面に配慮できているわけではないとのこと。さらに指導者が教えたい内容を、子どもにその通りやらせるのが指導だと思っているふしを感じるとのことで、こういった現状が子どもの心理面への配慮がないがしろにされる原因であるようです。「指導者は、その子の一生の面倒を見れるわけではない。」と水野さんは仰ります。中学生で全国優勝するための勝ち方だけを教えるのではなく、子どもたちが将来どうなりたいか、という道筋に指導者はいることを忘れないでほしいとのことでした。サッカーの時間だけでなく、いろんなこと、いろんな話ができる時間を作ってあげてほしいし、凝り固めすぎないことは大切であり、選択の幅を広げてあげる。子どもがやりたいことができる環境を良くしてあげることが重要のようです。水野さんは今後も、セーフガーディングの許可証、犯罪証明書等を掲示して見えるところに貼っておく等、セーフガーディングに対してイングランドでやっていたことを日本にも取り入れていくことで、少しずつセーフガーディングが認識されていくように取り組んでいくとのことです。付随する問題 ~子どもの虐待~これまでのお話から、セーフガーディングに関する問題は、子供の安心・安全に関する子どもの虐待に関する問題にも付随していることがわかります。そこで、子どもの虐待の問題点に対する法的解決策を考えてみようと思います。子どもが心理的に身近な大人に頼ることができる環境を作るためには、・病院、学校等からの通報・一時保護を促すために法整備を整えること・虐待により子どもを死亡させた場合に関する罰則を設けて厳罰化を行うこと・子どもの心理面での治療の公費負担をさせる法制度の仕組みを設けるこれらが考えられそうです。日本における子どもの虐待は、昔に比べて子どもの虐待に関する問題がニュースに取り上げられることが多くなり、個々の人々の目に留まる機会が増えています。個々人の意見を吸収し、大衆に広げ認識されるように務めることもまた、法律に携わる人々の責務であるように感じます。個々人の問題を法制度化に繋げ、子どもたちが身近な大人に頼ることができる環境を整備できるようにすることが、子供の虐待の法的解決策になると考えられます。練習現場に参加・拝見してみて現場での練習風景を見れたことから感じたこととして、子どもへの言葉のかけ方を意識しておられるように感じました。これはやったら駄目、といった正解を示すのではなく、こういうときはどうする?といった、あえて余白を残して子ども自身に考えさせるように英語で言葉をかけていたように感じました。セーフガーディングに関する日本における認識を高めるためには、どういったことが大切なのでしょうか。これについて、「気づいた人が折れないようにする。権力を持っている相手が強大であれば、気づいた人が仲間を作って一緒に戦う。個人の力が法律に携わる者を介して社会に波を起こすことに繋げることが大切。」と水野さんは仰ります。水野さんの活動が今後、日本におけるセーフガーディングの認識が高まる端緒になることが期待されています。自己表現豊かな選手が集う "ロンドンにある日本の街クラブ"【現地指導者に聞いた】イングランドでは常識。サッカーを楽しむ子どもたちの安全を守る "セーフガーディング" とは?根底を知り、排除するために必要なものを考える。 暴力をこの世からなくすために我々がすべきこと【特別インタビュー】「育成の鍵はグラスルーツにあり」ロンドンで10年指導した日本人指導者が語る "個を伸ばす指導" とは