現役時代 、Jリーグの舞台でストライカーとして数々のゴールネットを揺らし、それぞれドイツとポルトガルで世界の舞台も経験してきた田中順也さんと鄭大世さん。勇猛果敢に相手ゴールに襲いかかるプレースタイルから、時に人は、彼らを『エゴイストストライカー』と称することもあった。そんな中、それぞれ抱いていた深い葛藤と、単なる自己中心的なプレーとは異なる「エゴイスト」としての在り方とは?公式YouTubeにて公開中の動画から、『エゴイストの真髄』を探る。サッカーにおいて、エゴイストは2種類存在する鄭:サッカーにおいて、エゴイストは2種類存在すると僕は思う。1つは、イブラヒモビッチのように自分が王様で、自信満々で誰にも負けないと信じているタイプ。そしてもう1つは、認めてもらわないと不安で仕方なく、ゴールを決めなければ誰からも見捨てられるという恐怖からエゴイストにならざるを得ないタイプ。僕は完全に後者だったね。田中:僕も若い頃、ゴールを決めなければ認めてもらえないという強いプレッシャーを感じていました。だから、自分がエゴイストになることで、何とかその不安を打ち消そうとしていたんです。鄭:そうそう。周りから見れば、僕は圧倒的なエゴイストに見えるかもしれないけど、実際はすごく繊細な部分がある。自分がゴールを決めなければ、存在価値がないと感じることがしばしばあって、それが自分を追い詰めることになっていた。田中:僕も同じです。ゴールを決めることだけが自分の価値を証明すると思っていたけど、それだけでは精神的に持たないことに気づきました。そこから、シュート以外の技術を磨く必要があると感じたんです。特に彼らのようなストライカーとしての役割を担う選手は、そのプレースタイルからエゴイストと称されることもしばしば。そういった周囲の期待をせにした選手たちの中には、「認められたい」「見捨てられたくない」という切実な感情があることがわかった。海外だからこそ、周りとの協調性を求められた鄭:ドイツに行った時、自分の力でゴールを決めることができなくなった時期があった。それまでは、周りを使うよりも自分がゴールを取ることが最優先だったんだけど、その考えが通用しなくなった瞬間が訪れた。田中:僕も海外に出た時に、日本で許されていたエゴイストなプレーが全然通用しないことに気づきました。もっと周りを活かす必要があるという現実に直面したんです。鄭:それ、すごく分かるな。ドイツでも、自分がゴールを決めることでしかチームに貢献できないと信じていたけど、実際には周りを使うことで自分自身も活かされることに気づかされた。チーム全体の力を引き出すことが、結果的に自分のパフォーマンスを向上させるんだよね。田中:そうなんですよね。僕もポルトガルでプレースタイルを大きく変える必要がありました。日本ではエゴイストであることが求められていたけれど、海外ではそれが逆にマイナスに働くことが多く、チームプレーに徹することが求められて。「ドリブルせずにすぐパス出せよ」と言われていました。その結果、よりバランスの取れた選手になることができましたね。同じプレースタイルが通用しないというのは、国内と海外でプレーした選手たちの口からよく耳にする。それはサッカーという競技が持つ文化的背景の違いに起因している部分もあるのではないだろうか。自分自身のスタイルを貫くことも重要だが、そのスタイルが環境に合わない場合には、変化を恐れずに新しい方法を探求する柔軟さが、サッカー選手に求められるスキルと言えるだろう。挫折とは何か? 海外での経験から得た、リバウンドメンタリティ鄭:挫折というのは、自分と向き合って初めてその意味がわかるものだと思っている。僕も、失敗してうまくいかない時に他人のせいにしていたことがあったけど、本当の挫折はそれを乗り越えた時に初めて感じるものだと気づいたんだよね。田中:僕も若い頃、すべての失敗を他人のせいにしていましたね。でも、年を重ねるごとに、それでは成長できないと気づきました。自分と向き合い、改善することが大事なんだと。鄭:ドイツでの経験を通じて、他人のせいにするだけでは前に進めないことに気づいた。特に、自分がゴールを決められない状況では、その責任を他人に押し付けることがいかに無意味かを痛感したね。挫折を認め、自分の弱さを受け入れることで初めて成長への道が開かれると思う。田中:確かに、自分の失敗を他人のせいにすることは、一時的には楽かもしれない。でも、本当に成長したいと思うなら、自分自身と向き合うしかないですよね。それができた時、初めて自分が進化できるんだと思います。己の進化の過程にある挫折をどう乗り越えるか。サッカー選手としてだけでなく、人としての成長にも欠かせない要素である。真の成長は自分自身と向き合い、その失敗から学びを得ることから始まる。自己の不安と向き合いながらも、それを乗り越えていく姿勢こそが、彼らが真のプロフェッショナルとしての道を切り拓いてきた鍵となっていたに違いない。「根性論にだけは絶対にならない」田中順也と鄭大世が語る、エゴイストを活かす指導哲学